星降る街2024
昔話をしよう。
「星降る街」という朗読劇に出会った。東京で舞台製作関係の仕事をしている親戚からの有難いお誘いに乗った。夏まっさかりの都会を三重の田舎のおばさんがひとりでえっちらおっちら歩いて、合流した友人に汗のにおいが伝わらないか妙なことを気にしながら、見始めたら汗のことは消し飛んで80分があっという間だった。プロの声優の朗読を生で聴くのも、また彼らを生で見るのもはじめてだった。
終わったらぼうっとして、とりとめのないことほど記憶に残る。
あれから一年。私はふたたび都会のコンクリートを踏んだ。一年は長いようで短い。けれど人によって一年の長さは全然違っていて、短く感じたのは私が365日を平凡に生きたからだろう。では、「星降る街」に登場する和彦と詩織。この二人にとっての一年はどんなだったろうか。
さて、肝心の朗読劇の内容。どこまで語っていいものか。ただの七夕の男女ハッピー❤とかではなくちょっとしたどんでん返しがある。
表面的な話をすると、五人の幼なじみが大人になって地元で再会を果たす。住む場所も仕事もバラバラの五人が一堂に会し、七夕祭りの準備に明け暮れながらかつて幼かった自分たちの影法師を追う。五人が揃ったのは本当に奇跡だった。が、この奇跡の裏にはとある人物の切実な祈りがある……
────ということが発覚してからの盛り上がりが大変によろしいので、ぜひ生で観るべきである。よって私の口から詳しいネタバレは避けたいと思う。
この演目は毎年七夕の時期に演者を変えて行われているので、もし、もし来年またあるのだったら、気になった方たちぜひホールへ足を運んで欲しい。
去年はどんでん返しや初めての朗読劇にすっかり呑まれて振り回されたが、今年の私はタネを知っているので少し余裕がある。そんなつもりはなかったがやはり知っていて観るのと知らないで観るのではまったく違う。なんとも思わなかったところで「あ」となり、「そうだったか……」となり、去年は目に入れる余裕がなかった小道具もちゃんと注目できる。もしかして二回目ってめっちゃオイシイのでは?
また今年は去年にも増して演者の圧が凄かった。去年は私の大大大推しの村瀬歩さんが出ておられてハッピーだった。今年はそんなミーハーな気持ちではいられなかった。
立木文彦さん……マダオ、BASARAの大谷吉継、ジョリパのCM……世界の果てまでイッテQ……一声聴いたらわかるしちょっとお笑い寄りなのに、大変素晴らしいナレーションだった。めっちゃくちゃ演技してるわけじゃないのに静と動がメリハリあって、深みに入るいい声だったなあ。
石川界人さんが演じると去年記憶していた和彦のイメージがより鮮明になった。声だけの朗読劇は人型がなく、ふわふわと漂う魂を頭の中で形にするようなものだが、一本の杭が立つように和彦が確立されていた。
竹達彩奈さんのふわふわ可愛いアニメ声、からの迫真に迫る涙声がもおおおお泣かせる。プロは感情移入も上手なんだな。またいいところで主題歌流れるんだわ。
七夕の若いカップルの脇を固める幼なじみたちの演技も良かった。あんスタを嗜んでいるオタクにはかなり馴染み深い前野さん。ちゃんとアニメやゲームとは違うリアル寄りのトーンで優しい声を出す。濱さんと前島さんは失礼ながら今日まで存じ上げなかったが、聴いていて楽しい演技をする。これからアニメを見るときに二人が出ていないか、要チェックや!(CV小野坂昌也)
久しぶりに会う人と会話を交わせるこの日は私にとっても貴重な七夕の奇跡であるからして、誘ってくれた親戚には感謝の念しかない。私自身はたくさんの人と関わってものづくりをすることはないけど、私の縁者には大勢でものづくりすることが好きな人たちがいるので恩恵にあずかっている。毎回思うけどひとつの作品を長い時間かけて作り上げるってすごいことよね。脱帽。
ここから余談だが、ホールのロビーからちらりと見た景色が80分前と比べて様相が変わっていた。何だか暗い……。もしかして天気悪いですか?怪しみながら外に出て、平将門の首塚あたりまで来たところで豪雨に見舞われた。文字通り土砂降りの雨!!
やば!!将門にご挨拶しなかったから!?お参りしなかったからバチがあたったの!?
急いで地下鉄に飛び乗って丸ノ内線東京駅で降りてから完全に道に迷った。ゴロゴロという雷の音が間近で聞こえる。壁の下部分をくりぬいて作ったみたいな場末の居酒屋の前をうろうろし、いったん駅に入る。迫真の正面顔でひたすら歩き続けているうちにどうにか(どうやって?)ホテルに辿り着くことができた(どうやって!?)。生きた心地もしなかった。恐るべし、将門。
その後友達と合流するのにも姉と合流するのにもさんざん手間をかけ、靴の中も、心も、水浸し。頬を伝うのは……雨? 涙……? ううん、マスカラ……。
翌日は快晴で観光満喫した。カフェシナモン。猫カフェやらサンシャイン水族館やら美味しいご飯やら……。
サンキューな東京……。
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