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OR逆転裁判コラム⑤ システム(新システムの模索)

RPGやアクションは「リスクとリターン」のカケヒキでゲーム性を産み出しますが、逆転裁判はそうもいきません。
たとえば「ペナルティが倍になる代わりに、ムジュンしている証言がわかるシステム」が導入されたら?
‥‥プレイヤーはセーブ&リセットで、リスクを負うことなくリターンを得られてしまいます。
RPGのような「数値」のゲームなら、リスクもリターンも数値ですから、リセットしたら両方消えてしまいます。
でも逆転裁判は「言葉」のゲームです。リスクはペナルティという数値なので、リセットしたら消えますが、リターンは「言葉」なので、リセットしても脳内にのこりつづけます。
つまりテキストアドベンチャーのゲーム性は「数値」ではなく「言葉」、すなわち「シナリオといかにリンクしてるか?」に求められるのではないでしょうか。

【OR裁の法廷パート】
法廷パートにおけるゲームシステムは基本的に
「ゆさぶるの代替」か「つきつけるの代替」に分類できます。

「ゆさぶるの代替」は「みぬく(4)」「といつめる(レ 大)」、
「つきつけるの代替」は「ココロスコープ(5)」「霊媒ビジョン(6)」「カンガエルート(5)」「最終弁論(大)」が該当します。
(なお、6の霊媒ビジョンは「被害者視点の監視カメラ」なので、システム次第では「証拠品」のひとつとしても扱えます)

ふつう、ゲームシステムは遊び方の「幅」を増やすためにあります。
カービィでは同じステージでも、コピー能力の数だけ攻略法が生まれます。
RPGでは武器、レベル、育成、技によって、無限通りのボスとの戦いかたが生まれます。

ところが逆転裁判は一本道のゲームであるがゆえに、新システムを導入しても遊び方がまったく広がらないジレンマを抱えています。
「ココロスコープ」を導入すると、その分だけ「つきつける」回数が減る。
「カンガエルート」を導入すると、その分だけ「つきつける」回数が減る。
逆転裁判の新システムは「遊びの選択肢」ではなく「強制的な義務」です。
ゆえに増やせば増やすほど、「遊びの幅が広がる」のではなく、他のシステムと「尺を取り合って」しまい、《つきつける》の快感を削ってしまうのです。

当然ですが、このあたりの欠点は本家も承知の上でしょう。
「新システム」があった方がプロモーションしやすいのでしょうし、
「みぬく」も「ココロスコープ」も、最終話ではキョーレツな演出によってシナリオを大きく盛り上げました。
そういった「演出面の変化」は、新システムの大きな武器です。

しかし、二次創作は「プロモーション」の必要がありません。
さらに、長玉には「専用システム」を組む技術がありません。
探偵パートのシステムを組むだけでまる1ヶ月かかりました。
もう体力はいっさいのこってません。

そこでOR裁においては「すべての推理をムジュンで表現する」というルールを自分に課して、「つきつける」の可能性を追究することになりました。
もちろん「選択肢」で真相を解き明かすのもナシです。
「ゆさぶる」もなるべく使わないようにしました。

加えて、なるべく「《尋問》ベースでつきつけさせる」ことにもこだわりました。会話ベースだとどうしても「弁護士の誘導にのる」形になってしまい、「自分でムジュンをさがす」ゲーム性が一段落ちるように感じたためです。

‥‥この「つきつける原理主義」と「物証史上主義」や「後だし禁止」「証拠品の数も少なく」などの思想が同時にからまったせいで、作中では色々なムチャが発生しました。
1つの証拠品に情報をつめこみすぎたり、同じ証拠品を連発するだけで進める箇所が出てきてしまってたり‥‥。
いくらなんでも極端すぎたようです。
続編があったら、まずは「目撃証言」の採用から考えなおします‥‥。

【OR裁の探偵パート】
「サイコロック」は「証拠品がそろってない段階でもいどめる」形式によって、探偵パートの攻略チャートを複線化して、ゲーム性を高めてました。

「つねに発動した段階で解ける」形式にすると、シナリオ上「行き止まり」を作れないため、攻略チャートが単線化し、ゲーム性が落ちてしまうという落とし穴があるのです。

そこで、OR裁では「つきつける主体で進む」「《複線型》の探偵パート」をご用意しました。
‥‥ところがこの探偵パート、とにかく《詰み》が多発します。
なぜなら正解ルートは1つしかないので、自由度をあげればあげるほど、難易度も上がってしまうからです。
加えて、フラグで進行を管理をするとテストプレイが大変なので、「つきつける」にシナリオ進行を全面的にゆだねてしまいました。

3話5話の探偵パートでは、総当たりしないと分からないような、シナリオ上ちゃんとしたヒントの出ない「つきつける」が多発します。
これは完全に製作ミスでした。
本家がサイコロックを単線化したイミも、もう少しよく考えるべきでした。

なお、OR裁ゆいいつの新システム「探偵パート尋問」は、
「《調べる》《話す》も使えるサイコロック」です。

探偵パートはどうしても現場では「調べる」オンリー、それ以外では「話す」オンリーの進行に収束しがちなので、
「現場以外での《調べる》にイミを持たせる」ことを目指して考えたシステムなのですが、まあデキがわるかったです。
2話後半でいろいろ挑戦してみたのですが、おもしろくなかったので3話以降はほとんど「サイコロック」になってしまいました。

【新システムの模索】
OR裁では「シナリオだけで」逆転裁判のゲーム性を高めるよう試みましたが、脳内ではシステム面での進化も模索していました。
OR裁では採用できなかったアイデアをここで供養しておきます。
一貫してるのは「《義務》ではなく《選択肢》」という点です。

①「ヒント機能の進化」(みぬく/ココロスコープ)
「みぬく」や「ココロスコープ」を、どの尋問でも発動可能な「オプション」に変える。
証言ごとに感情やクセが表れるため、そこを突くことで「この証言にはムジュンがありそうだな」「どうやら《パンツ》について隠しごとがあるみたいだな‥‥」といった形の《ヒント》を得られる。

上級者はこれらのオプションを使わずガチンコ勝負すればいいし、
初心者はオプションに頼ってクリアすればいい。

逆転裁判は「詰んだらやることがなくなる」ゲームなので、開発者としてもシナリオを読んでほしい一心から、難易度を下げがちです。
この「オプション」を導入することで、上級者向けの難易度もエンリョなく実装できるし、初心者に対する救済要素が上級者の興をそぐこともなくなります。
(ただしヒントの出し方は工夫しないと、初心者にとっては「オプションの“ガイド”にしたがうだけのゲーム」になる危険性がある)

②「ペナルティの人間化」(裁判員システム)
逆転裁判は「言葉」のゲームですから、ゲームオーバーも「言葉」‥‥すなわちシナリオで表現すべきです。
そこで《裁判員制度》が出てきます。
個人個人が「有罪」「無罪」の決定権を持ち、全員が「有罪」になるとその場でゲームオーバー。
裁判長が「結審」を判断したタイミングで、過半数が「有罪」でもゲームオーバー。
そして裁判員は個々に「他罰感情がつよい」「事実認定に慎重」「人の言うことにすぐ流される」「証言ではなく物証を重視する」などの“クセ”が設定され、プレイヤーの行動しだいで、自由なタイミングで「有罪」「無罪」に票をいれます。

これにより、例えば「これ以上ゆさぶるで証言を引き出すと全会一致で有罪になる。いったんムジュンを指摘してからゆさぶるにもどろう」みたいな、裁判員の動向を読んだプレイングが求められるようになります。
また、テキトーな証拠品をつきつけたら、徐々に裁判員たちが「有罪」に一票ずつ入れていくような形で、擬似的にペナルティも再現できます。

また、裁判員はあえてグラフィックをもうけず、シルエットのみで登場させることでキャラクターデザインの負担をおさえます。

さて、このシステムはかなり《課題》が多いです。
まず「真犯人の追及」の段になると、裁判員が機能しなくなります。彼らのジャッジは「被告人の有罪/無罪」なので。
裁判終盤のペナルティをどう用意するかは、考えドコロです。

また、ペナルティ時のやり取りも大きく変わります。
状況によって「有罪」に票を入れる裁判員は変わりますし、そもそも「有罪」に票が入らないこともあります。
そういった「ペナルティの多様化」によって、「失敗時の会話」がぎこちなくなる可能性があります。


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