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OR逆転裁判コラム③「テキスト(タクシュー節の研究)」
古来より逆転裁判の“通”は、《尋問》がはじまったら、まず証人をガクガクゆさぶり、《タクシュー節》のきいたダシで体をあたためると言います。
腹をくすぐるコミカルな《言葉あそび》の味わい。香り高き文学調のセリフまわし。真相にさりげなく“気づかせる”巧みな誘導‥‥。
今まで何人もの「野生のタクシュー」たちが、その“再現”に取り組み、
あまりに広大な《タクシュー節》の荒野に骨をうずめてきました。
長玉もその一人。10年かけて言語化してきた《技術体系》を、
ここに記していこうと思います。
──────────形式編──────────
①「‥‥(2点リーダー)」の使用
(ゴーストトリックは「……(三点リーダー)」)
二点リーダーを使ったからといって、テキストに劇的な変化はありません。
が、“通”は二点リーダーが大好きです。二点リーダーを見つけると、
ニマニマしながらあなたを「分かってるヤツ」扱いしてくれます。
知ってるとおトクな”加点要素”くらいに思っておきましょう。
②「《読む》のではなく《見る》テキスト」
(ひらがな カタカナ 漢字 《》 “”を混ぜたテキスト)
カタカナを多用するのが《タクシュー節》と思われがちですが、ジツは《ひらがな》もかなり多いです。
巧先生はコラムで「《読む》のではなく《見る》テキストを書きたい」とおっしゃっています。
つまりテキストの視認性を高く保つために《漢字続き》《カタカナ続き》《ひらがな続き》の文章をさけているのです。
ひらがな、カタカナ、漢字、《》、“”を混ぜて、同じような質感の文字がつづかないよう気を配る。ただし心持ちカタカナの比率を多めに。
言い換えれば、「カタカナの多用」で読みにくくなったら、それは《タクシュー節》の理念に反します。
つまり迷ったら「タクシューらしいか」より、「見やすいか」で判断したほうが原作に近づきます。
どうしても気になるなら原作を精査して、単語や動詞ごとに表でも作ってみてください。
”1”では「 イワ感 」なのに、”大逆転”では「違和感」だったり、
“2”では「チンモク」なのに、“大逆転”では「沈黙」だったり。
じつは作品ごとに統一されてません。
すべては巧舟氏の「感覚」を軸にみちびかれているのです。
③「16文字×2行」のテキスト
(ゴーストトリック以降は20文字×2行)
OR逆転裁判は22文字×2行なので、
1テキストあたりの文字量は本家より多いです。
④色分け
(強調は《赤》、心の声は《青》、システムメッセージは《緑》)
これも「OR逆転裁判」ではビミョーに守られてません。
⑤「俗語」「略語」を避けた時代を特定させない言い回し
(《Eメール》でなく《電子メール》、
《ノーカン》でなく《ノー・カウント》)
たとえば「デジカメ」は直後になるほどくんが「デジタル・カメラ」とセツメイしますし、
「メール」は「エレクトロニクス・メール」と証人がわざわざ言い直します。
略語をつかわないというより、「ことわりなく」略語を使わない、という方が正しいのかもしれません。
同じ理由でパロディも避けましょう。
ちなみに長玉も3話で「プロデューサー」を「P」と略して良いかどうか、
ちょっとナヤみました。とにかく文字数が多いのです。
一方、この表記は他作品のパロディであり、20年後のプレイヤーに伝わるかどうかは分かりません。
‥‥最初に何度か「P=プロデューサー」である旨のテキストを入れたうえでなら、略してもいい気がします。読みやすさが優先です。
‥‥さて。
ここまでの内容は、検索すればすぐに出てきます。
熱心なファンにとっては見飽きた内容だったでしょう。
本題はここから。タクシュー節の《言い回し》をいくつかの”型”にあてはめて、分析していきます。
──────────内容編──────────
【言葉あそび】
「連想ゲーム」と「ツイスト」に分けてセツメイします。
①「連想ゲーム」
「安物のセッケンごときでは、
被告人の《罪》は洗い流せないのだ」
(大逆転裁判2-2 1回目法廷)
「弁護側も、いちどその《吾童川》に
のまれてみてはいかがか」
「《不自然》をかたるまえに、
大自然とたわむれるコトをオススメする」
(逆転裁判3-4 過去の法廷)
「では、その泳いだ《目》で、
《ドーハ海峡》をわたり、帰るがよい」
(大逆転裁判2-5 2回目の法廷)
「セッケン」の話題なら、「洗い流す」「四角い」「泡立つ」「アルカリ性」「苦い」「食えない」などの言葉につなげられます。
「吾童川」の話題なら、「一流」「二流」「三流」「おぼれる」「アップアップ」「逆流」「流れ」「大自然」などの言葉につなげられます。
「泳いだ目」の話題なら、「泳ぐ」「挙動不審」「おぼれる」「アップアップ」「目玉焼き」「くりぬく」「目薬」などの言葉につなげられます。
この「直前のセリフの要素をひろう」技術を長玉は「連想ゲーム」と呼んでいます。
汎用性が高く、これを覚えるだけでテキストの安定感がグンと増します。
ちなみに「大逆転裁判2」のテキストはこの「連想ゲーム」の宝庫なので、じっくり遊んでみるとイイと思います。
(なお、OR裁の1話2話のテキストが《言葉あそび》にかたよってるのも、いちばん最初につかめた技術が「連想ゲーム」だったからです。
ただ2話であまりにやり過ぎて、3話からネタ切れを起こしたため、徐々に《言葉あそび》の比率が落ちていきました)
②「ツイスト」
《慣用句ツイスト》
「このペテンシー、天に誓い、地にもまた誓います」
「《後ろ向き》‥‥あるいは《下向き》といいますか‥‥」
「ナツミさんのメモか‥‥
きっと根も葉もミもフタもユメもキボーもないんだろうな‥‥」
これを使える二次創作者は“デキるヤツ”として一目おかれます。
テキストを書きながら思いつくというより、事前にいくつかストックを作っておいて、シナリオにあわせてストックから引き出す‥‥という書き方のほうが多いですね。
ふだんから慣用句やことわざに対して、ひねくれた目線で揚げ足を取るような、《言葉あそび》の習慣を持っておくとよいかもしれません。
《否定形ツイスト》
「今日の証言、ある種 “自信アリ” ッス!」
→「いつもの証言は “自信ナシ” なのか‥‥?」
(逆転裁判4-4 7年前法廷)
「では、現場にいたのは‥‥?」
→「若いオトコノコと、もう若くないオトコノコよ」
(逆転裁判3-3 3日目法廷)
これも習得しやすいですね。
コツは、ありがちな慣用表現の《挙げ足》をとることです。
ひねくれた気持ちで、本家のテキストをナナメに読みくだしてみましょう。
きっと、新たな発見があるはずです。
【漫才】
《天丼》
要はくりかえしギャグです。
OR裁1話の「適切な食事、スイミン。そして運動。まずそこからです」や
OR裁3話でイダテンのキノシタが、2回ともまったく同じ流れで証言台に出てくるアレです。
ゆさぶるのテキストを書くときに、天丼を使うと複数の《証言》をまとめて同じフォーマットで処理しつつ、安定して笑いを取れます。
ラクな上に面白いという最強のワザです。
とくにテキストを“埋める”工程が多いゲーム製作では、たよることの多い手法だと思います。
(長玉は探偵パートのつきつけるで「天丼」を使いたおしました)
《常温ツッコミ》
「しかし‥‥《砂時計》と《点滴》には、
決定的なちがいがあるのです」
「わかりますぞ。《砂時計》は “砂” で、
《点滴》は“液”。‥‥そういうコトですな!」
「‥‥‥‥非常に惜しいですが、
この場合はちがいます」
(逆転裁判4-4 7年前法廷)
巧先生は「わかりきってるツッコミ」はあえて書きません。
ツッコミにかぎらず、シリアスなシーンでも「わかりきってる部分は直接言わない」セリフ回しが多いです。
さじ加減をまちがえると何も伝わりませんが、うまくやれば「行間をにおわせる」ようなセリフが書けますし、ツッコミにも奥行きが出ます。
【“気づかせる”言い回し】
「そろそろシロ・クロ、ハッキリさせようか」
「いいでしょう。ただし‥‥ハッキリするのは、
シロとクロとは限りませんがね」
(逆転裁判4-4 7年前法廷)
「オドロキさん! 見てもらいましょうよ!
やっぱり、“専門家”に聞くのが一番ですし!」
「‥‥そうだな、見せてみるか。
ムギツラ “先生” に‥‥!」
(逆転裁判 4-2 2日目探偵)
「もう、フツウの手段では手に入らない!」
「‥‥だから、犯人は、
フツウじゃない手段を使った!」
(逆転裁判3-3 3日目法廷)
「数字が見切れてますな。
これは‥‥“2”でしょうか?」
「少なくとも、“1”ではありません」
(逆転裁判1-3 3日目法廷)
こういう「気づかせる」言い回しができると、ヒントも自然に出せるし、真相を明かしたときのインパクトもはね上がります。
とくに逆転裁判1-3と1-4の爆発力は、この「プレイヤーに気づかせる」言い回しや“間”の取りかたによって生まれているように感じます。
コトバで説明されると、そのコトバを読んで理解するという“ワンクッション”がはさまり、真相解明のイキオイを殺してしまうのかもしれません。
習得するのはむずかしい技法ですが、《類型》なら作れるでしょう。
OR裁作中でもこれら4種類の「気づかせる言い回し」の類型はよく出てきます。
【まとめ】
書きたかった内容の5%ほどしか書けてませんが、限界なのでここで筆を置きます。
本当は本家の脚本大全をもとに、テキストを「逐条解説」したいトコロなのですが、コラムの分量が本編を超えてしまうのでムリです。
「タクシュー節」というのは、それほどまでに幅広い技能と、奥深い味わいを持った作風なのです。
ちなみに拙作「OR逆転裁判」では、【内容編】のテクニックは大いに活用されてますが、【形式編】のテクニックはほぼ守られてません。
せいぜい二点リーダーと《見る》テキストくらいでしょうか。
本家のカッコは「《》」じゃなくて「<< >>」ですし、色の使い分けもビミョーにちがうし、テキスト速度もあんなに速くないです。
あと本家は立ち絵がモーションを終えてからテキストを流しますが、
「OR」ではモーションと同時にテキストを流します。
それから1テキストにあんなに情報量をつめこみません。本家はもっとダイタンに分けます。
ゲームだと再現がむずかしかったのです。ゆるしてください。
最初は「原作のツギハギ」から入ってみるのも良いと思います。
かつて話題になりすぎて削除を食らった「ウマ娘裁判」なども、作中のテキストは原作からの引用がかなり多かったです。
ツギハギから入ってパターンを掴めば、徐々にオリジナルの言い回しも増えていくことでしょう。
前回の「シナリオ」にも言えることですが、これらの内容は「長玉が解釈した」逆転裁判の骨格の一部にすぎません。
そこにどう《肉付け》をするかは、本家をよく観察しないと見えてこないでしょう。
長玉の解釈はかなりクセがつよいです。もし読んでいて「いや、オレの解釈はちがうな‥‥」と思う部分があったなら、そこはゼヒゆずらずにつらぬいてください。それでこそ二次創作です。
この文章はあくまで「ノウハウの共有」にすぎないのですから‥‥。