【論文要約#1】獣医皮膚科学でのマラセチア酵母:概論のアップデート
著者 J. Guillot and R. Bond.
引用元 Front. Cell. Infect. Microbiol. 2020; 10: 79.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32181160/
「超短い要約」
マラセチアは外耳炎および皮膚炎の一般的な原因で、特にMalassezia pachydermatisが主要な原因であることが知られているが、他の種の関与も最近明らかになった。マラセチアの治療法はシャンプーなど局所療法または抗真菌薬の全身療法が一般的だが、その一方で代替療法が最近模索されている。
「本文の要約」
・マラセチア属は脂質親和性の酵母からなり、これによる外耳炎および皮膚炎は小動物臨床では一般的である。これらの疾患を治療するにあたり、単に酵母の過剰増殖を抗生剤の局所または全身投与で治療するだけでは不十分で、アレルギー性皮膚炎または耳道狭窄などの素因を識別/改善することが必要であることが多い。最近、イヌおよびネコのマラセチア皮膚炎に関する非常に詳細かつ広範囲なガイドラインが公表された。本論文の目的は、動物の皮膚疾患におけるマラセチア酵母の役割に関する現在の理解を読者に大まかに把握してもらい、特に2018年中期から2019年末期にかけていかなる進展があったかを強調することである。
・1889年にマラセチア属が初めて検出されて以降、異なる動物種から新種が検出されるたびにその数を増やし、今ではマラセチア属には18種を含む。最近になってマラセチアは植物または土壌真菌を祖先とすることが示唆された。
・イヌおよびネコで問題となることが多いMalassezia pachydermatisは脂肪酸合成酵素の遺伝子を欠如しているため脂質依存性である。
・今までの培養研究において、イヌおよびネコの両者で、健康であってもマラセチア皮膚炎または耳炎を有していてもM. pachydermatisがマラセチア属の中で最も頻繁に検出されていた。しかし、次世代シーケンスに基づく最近の研究によると、健康なイヌでの主要な真菌はマラセチア属ですらなく、またマラセチア属の中での主要な種はM. pachydermatis以外のものだった。自然発生性アトピー性皮膚炎および実験的にアレルゲン感作させたイヌの両者の皮膚において、マラセチア属の中で最も多く認められたのはM. pachydermatisだった。またNGSを用いた研究により外耳炎のイヌは健康なイヌと比べて、真菌の多様性が低下しており、その多くをマラセチア属が占めていた。マラセチアは健康なネコの30%およびアレルギーのネコの21%でのみ検出され、相対真菌量が1%を超えることはほとんど無かったため、主要な真菌では無いと思われる。マラセチアの中でも特に主要な種はM. globosaおよびM.restricaであり、M.pachydermatisなど他の9種も検出された。上記のことから培養研究で存在立証しにくかったM. pachydermatis以外の種、特にM.globosaおよびM.restricaが多く存在することが分子研究で明らかになったことは重要である。
・マラセチアは皮膚に接種されることで可逆性に病原性を示すことが最近示されたが、そのメカニズムはまだ研究途中である。外耳炎で増殖していたものはNADPH依存性マンニトール脱水素酵素およびケトール酸還元合成酵素が発現していたし、核内受容体であるアリル炭酸水素受容体(AhR)を刺激し、免疫応答を低下させることも最近示された。Toll様受容体が欠損したハエにマラセチアを接種したら致死的だったことも示された。
・マラセチア皮膚炎の好発因子として、イヌでは基礎疾患の存在(アトピー性皮膚炎、角化不全症および内分泌疾患)、皮膚皺壁の存在、温暖で湿度の高い気候、特定の犬種(ウェスティ、シーズー、ダックス、プードルなど)が挙げられ、ネコでも概ね同様である(猫種としてデボン・レックスおよびスフィンクス)。
・マラセチアを検出するにあたり、表皮であれば皮膚掻爬またはテープ・ストリッピング、耳道なら綿棒によるスワブで採取すれば十分であり、染色法はライト・ギムザ染色(つまりDiff Quik)で良い。ただし、綿棒によるスワブだと炎症細胞の数が本来より少なくなるので注意。
・マラセチアの中にはアゾール系抗生物質に抵抗性を有するものもあり、それはアゾール系の標的酵素であるラノステロール 14-α脱メチル化酵素をコードするERG11遺伝子変異が原因である。代替療法が模索されており、最近エッセンシャルオイルが有効であることが示され、アゾール系薬剤との相乗作用も示された。臨床研究は不足しているが、有効なエッセンシャルオイルの候補は、オレガノ(成分はカルバクロル)、ペパーミント、タイム(チモール、ジャコウソウなどからも取れる)、ティーツリーが原材料となる。
・マラセチア皮膚炎の治療として、2%ミコナゾールおよび2%クロルヘキシジンを含む製剤で週2回シャンプーすることが強く推奨され、3%クロルヘキシジンシャンプーは中等度に勧められる。また、局所療法が不可能な場合、5-10 mg/kgの用量でケトコナゾールを1日1または2回経口投与するか、あるいは5 mg/kgの用量でイトラコナゾールを1日1回投与または週2日連日投与することが中等度に推奨されている。最近スプレータイプの局所製剤の有効性が認められたらしい(Aptus®︎)。
・免疫疾患を有する人間に対して悪影響を及ぼす可能性があるため、アレルギー性皮膚炎のイヌまたはネコの飼い主は特に手指の消毒が重要である。
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