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小学3年生の事件
思春期の始まりというか、自意識の目覚めなのか、10才ぐらいから記憶が濃くなる。それはまるで映画のように、映像で残っている。
それはある日のことだった。
テレビ局の人たちが学校に来ていると聞いて、いつもは行かない上の学年の階に友達と上がっていこうとしていた。
その時、階段を降りてきたのは、泣いている兄だった。
友達が一緒だったからなのか、その時に声をかけた記憶はない。
泣いている理由も聞いた覚えがない。ただなんとなく、聞いてはいけない気がしたからだと思う。
テレビが取材に来たのは、誘拐殺人事件の被害者が小学校にいたからだった。あとでその日のニュースをテレビで見て、女の先生が泣きながら答えていた映像を見たと記憶する。
ちょっとだけ変わった学校で、校歌がなかった。校歌の代わりにあった「こどもの歌」を作曲したのがその泣いていた先生で、ワタシが1年生だった時の担任が作詞をしていた。
その事件がきっかけだったのか、それとも単に教育方針を変えたからなのか、卒業した翌年に校歌ができたと聞いた。
その歌は知らないから歌えない。
それからかなりの時間が流れ、祖父が亡くなった頃だから多分20代半ば頃、お葬式で親戚が集まった席で兄がポツリと言った。
「こどもの頃、いじめられっ子だったんだ・・」
驚きもしなかったし、その会話はそこで終わった気がする。
何故そんなことを言い出したのか、今も分からないけれど。