鶯谷ホテル街。そこはまるで別世界だった!
以前から気になっていた場所があった。鶯谷にあるホテル街だ。
JR山手線の鶯谷駅。北口と南口があるこの駅はとても特徴的な構造をしている。南口は高台にあり、上野公園方面へ行く人々が利用する。一方、北口は地上駅舎のようになっていて、市街地へ行く時にはこちらの駅を利用する。このうち北口のすぐ近くには、いわゆるラブホテルが密集するエリアがあるのだ。
「鶯谷はヤバい」
そんな噂を聞いたのはもうかれこれ数年以上前のことだったと思う。その時は興味こそそそられたものの、足を運ぶまでではなかった。しかし、何の因果か私は鶯谷のホテル街へと向かっていた。
入り組んだホテル街に胸を躍らせる
ホテル街を訪れたのは夕方ごろだっただろうか。まだ、外は明るくホテル街が本格的に稼働する時間ではなかったのか、人通りも少なくすれ違う人たちもほとんどいなかった。
細い路地を歩きながら左右を見る。どちらにもホテルが軒を連ねている。もちろん、一軒や二軒といった数ではない。見渡す限りラブホテル。統一性もなく各店舗がそれぞれの個性で客を待ち受ける。そんな光景が目の前に広がっている。中年の域に達している私だが、年甲斐もなく胸を躍らせる自分に気がついた。
「ここには何かある」
そんな予感を抱きながら、ダンジョンのように入り組んだ道をひたすら歩く。時々、すれ違う女性は単なる通行人かそれとも。路上に佇む老人は何を期待しているのか?否が応でも想像力が刺激されてしまう。
そんな期待と少しの緊張感を抱きながら道を歩いていると、やがて鶯谷駅の北口に辿り着いた。ここは、夜になるとデリヘル嬢や待ち合わせをする男性の姿を見ることができるらしい。残念ながら、それっぽい人たちの姿を見ることはできなかった。やっぱり、少し時間が早すぎたのかもしれない。
この後、別件で移動しなければならないので、鶯谷には長くは留まれない。なので、最後に高台にある鶯谷駅南口まで歩いて、今回の探訪は終えることにした。
ホテル街で時を過ごす人たち
鶯谷駅北口から線路沿いの道を歩く。左手にはラブホテルが軒を連ねる。南口の方面に歩いていると、何人かの男女が線路と道を仕切る壁に腰掛けて、スマホをいじっている。わざわざラブホテルの目の前で。おそらくではあるが、これからサービスを利用しようとする客や、客待ちの女性ではないだろうか。取材ではないので、声をかけるなどはできなかったが、やはり想像は膨らむ。
線路沿いの道から、左に曲がって入り組んだ路地を再び歩く。すると、やや遠くからあるホテルの前に座っている老人が見えた。老人との距離が縮まっていくと、ふと女性の甲高い声が耳を貫いた。驚いた私は思わず足を止めてしまった。しかし、周りにそれらしい人はいない。果たしてどこから聞こえてくるのか?私はキョロキョロと左右を見渡した。そして、気がついた。
「上だ!」
見上げると、あるホテルの二階の窓が目に入ってきた。確かガラス窓ではなかったと思う。イメージとしては鳩時計の鳩が飛び出す窓をイメージしてもらえば。この辺は記憶が曖昧で申し訳ない。おそらくそのうちのどこか一つから声が漏れているのだ。今、まさに男女がそうした行為に及んでいて、女性が普段は出さないであろう大声を出している。
私はしばし呆気に取られていた。道端でそんな声を聞くことはまずないからだ。ふと先ほどから座っていた老人に目をやると、老人は立ち上がりその場を去っていった。これは想像でしかないが、おそらく老人はこの場所を知っていたのだ。そして、特等席に座ってじっくり楽しもうとしていたところ、私という邪魔者が来てしまった。だから、一時的に姿を消したのではないだろうか。
そう考えると、老人の楽しみを奪ってしまったようで少し申し訳ない気持ちになった。だが、おそらく老人はまたしばらくしたら戻ってくるだろう。あの特等席へ。
1時間も滞在しないうちに、こんな出来事があった。やはり鶯谷に行けば何かあるのかもしれない。次の再訪を胸に誓いつつ、鶯谷を後にした。