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エンジニアのためのシステムトレード入門:「テクニカル分析の基礎知識」編
近年、機械学習やアルゴリズム取引の進化により、個人投資家でも プログラミングを活用したシステムトレード に挑戦しやすい環境が整っています。特に、エンジニアなら 「データ分析」や「自動化」 という強みを活かし、市場をロジカルに攻略することが可能です。
そんな方に向けて、このブログでは 「エンジニアのためのシステムトレード入門」 をお届けします。
本記事では、テクニカル分析の基礎知識として代表的な指標・パターンから戦略までを網羅的に解説しました。エンジニアとしてシステムトレードを構築する際には、これらの知識を組み合わせて売買アルゴリズムを設計します。例えば「上位足で上昇トレンド&押し目形成(移動平均線)、下位足でストキャスゴールデンクロス(タイミング)でエントリーし、ATRでポジション量調整」など、各手法をプログラム的に連携させることが可能です。
いきなり聞き慣れない言葉が並んでいて、なんのことかさっぱりわからない方も多いと思いますが、本記事で基礎知識を学び、一連のブログを通じてテクニカル分析の理解を深め、データ分析や検証を重ねることで、堅牢なシステムトレードを実現できるでしょう。
まずは主要なテクニカル指標やチャートパターン、トレンド分析、ボラティリティ分析、基本的なトレード戦略について解説しますので、プログラム実装を念頭に、各手法の計算方法やロジックも押さえていきましょう。
1. 主要なテクニカル指標
テクニカル指標(インジケーター)は、価格や出来高のデータから計算される分析ツールです。トレンド系・オシレーター系など様々な種類がありますが、まず代表的なものを紹介します。それぞれ算出方法と基本的な使い方を理解しましょう。
移動平均線(SMA、EMA)
移動平均線(Moving Average)は、一定期間の価格の平均値を線で結んだ指標で、価格のトレンドを滑らかに表示します 。代表的なのが単純移動平均線(SMA)で、直近 n 日間の終値の合計を n で割って求めます 。例えば5日SMAなら直近5日分の終値の平均値です。一方、指数平滑移動平均線(EMA)は最新の価格に重みを置いて算出する移動平均で、過去すべてのデータを用いながら直近データに指数的な高い比重をかけます 。EMAは初期値こそSMAと同じ計算をしますが、2日目以降は前日のEMAに当日の価格の一部を加える形で更新します(平滑化定数 α=2/(n+1) を用いて EMA_today = EMA_yesterday + α × (Price_today - EMA_yesterday) と計算) 。
使い方のポイント: 移動平均線はトレンド把握に有用で、価格がその線より上にあれば上昇トレンド、下なら下降トレンドと判断できます。また、短期移動平均線と長期移動平均線の交差(ゴールデンクロス/デッドクロス)は売買シグナルとして知られています。例えば代表的なパラメータである50日線と200日線で、50日線が下から上に200日線を抜けるとゴールデンクロス(上昇シグナル)、逆に上から下に抜けるとデッドクロス(下降シグナル)とみなします。移動平均線は期間が短いほど価格に素早く追随し、長いほど動きが滑らかになります。システムトレードでは、移動平均線の傾きや複数線の位置関係を条件にトレンドフォロー戦略を実装することが多いです。
RSI(相対力指数)
RSI(Relative Strength Index)は、一定期間における上昇幅と下降幅の割合から、価格の強さ(買われすぎ・売られすぎ)を0~100%で示すオシレーター系指標です 。計算方法は、まず n 日間の「平均上昇幅」と「平均下降幅」を求め、その比率 RS を算出します(RS=平均上昇幅÷平均下降幅)。次に RSI を 100 - (100 ÷ (RS + 1)) の式で求めます 。一般的に期間には14日が用いられます。RSIの値が高いほど上昇分が大きく相場が強いことを示し、値が低いほど相場の弱さを示します。
使い方のポイント: RSIは70%以上で「買われすぎ」、30%以下で「売られすぎ」と判断するのが基本です 。例えばRSIが80に達していれば市場が加熱しすぎて上昇しすぎ(そろそろ反転下落の可能性)、RSIが20なら売られすぎ(反転上昇の可能性)と読み取ります。ただし強いトレンド局面ではRSIが長く極端値に張り付いてダマシになる場合もあります 。そのため他の指標と組み合わせたり、RSIのダイバージェンス(価格とRSIの逆行現象)**にも注目します。例えば価格が高値更新しているのにRSIは前回高値を超えられない場合、上昇勢いの弱まりと判断できます。エンジニアはプログラムでRSIを計算し、一定閾値を超えたら反転シグナルとする、といったロジックを組み込めます。
MACD(移動平均収束拡散指標)
MACD(Moving Average Convergence/Divergence)は、2本の異なる期間の指数平滑移動平均線の差分を利用した指標で、トレンドの勢いと転換点を捉えます。MACDラインと呼ばれる主線は「短期EMA - 長期EMA」で計算されます 。一般的な設定値は短期EMA=12日、長期EMA=26日です 。さらにこのMACDラインの一定期間のEMA(通常9日)を計算したものがシグナルラインです 。MACDラインがシグナルラインを上抜くとき「ゴールデンクロス」、下抜くとき「デッドクロス」と呼び、トレンド転換のサインとみなされます。
使い方のポイント: MACDはゼロラインとの位置関係とMACDラインとシグナルラインのクロスで判断します。MACDラインが正(ゼロより上)なら短期平均が長期平均を上回っている状態で上昇圧力が強く、負(ゼロより下)なら下降圧力が強いと判断します 。またMACDラインがシグナルラインを下から上へ抜ければ買いシグナル、上から下へ抜ければ売りシグナルです。例えば下降トレンド中にMACDがデッドクロスからゴールデンクロスに転じた場合、下落の勢いが衰えて上昇へ反転し始めた可能性があります。MACDヒストグラム(MACDとシグナルの差を棒グラフ表示したもの)はクロス手前でゼロライン付近まで縮小する傾向があり、これも勢い変化の視覚的な手掛かりとなります。システムトレードでは、MACDがゴールデンクロスかつゼロラインより下にある(底打ち反転の初期合図)場面で買いエントリーする、といったルールが考えられます。
ストキャスティクス
ストキャスティクス(Stochastics)は、一定期間内での現在価格の位置(高値・安値との相対位置)を百分率で表し、相場の行き過ぎを判断するオシレーター系指標です。ストキャスティクスには%K、%Dという2本のラインがあります。%Kは直近の終値が過去 n 日間のレンジの中で何%の位置にあるかを示し、%Dはその%Kの移動平均です 。一般的に n=9日、%D算出の移動平均期間は3日が用いられます 。具体的な計算式は、%K=(当日終値 - 過去n日間の最安値) ÷ (過去n日間の最高値 - 最安値) × 100、%D=%Kの3日間SMAとなります 。さらに実務では%Kと%Dを平滑化したSlow%D(=%Dの3日間SMA)を使う「スローストキャスティクス」が一般的です 。
使い方のポイント: ストキャスティクスも他のオシレーター同様、80%以上で買われすぎ、20%以下で売られすぎと判断します。また、%Kと%Dのクロスが売買シグナルです。特にスローストキャスティクスでは、Slow%D(=%Dの平滑版)が0~20%の低水準にあるときは売られすぎ局面であり買いサインとなります 。そのゾーンで%DがSlow%Dを下から上に突き抜けるゴールデンクロスが発生すると、より強い買いシグナルと見ます (逆に80~100%領域で%DがSlow%Dを上から下に抜けるデッドクロスは強い売りシグナル)。ただしトレンドが強い局面ではストキャスティクスも長期間張り付いたままになるので、ダイバージェンスの確認や他指標との併用が有効です。システムトレードでは、ストキャスティクスが一定水準以下かつゴールデンクロスしたら買い、といった条件をルール化できます。
ボリンジャーバンド
ボリンジャーバンド(Bollinger Bands)は、価格のボラティリティ(変動性)を統計的に捉えるために、移動平均線に標準偏差による帯(バンド)を付加した指標です。通常20日移動平均線に対し、上下に標準偏差(σ)×2を加減したライン(+2σバンド、-2σバンド)を描きます 。±2σだと価格がその範囲に収まる確率がおよそ95%になるため、バンドの外側に出る動きは統計的に珍しい(行き過ぎ)と判断できます。
使い方のポイント: ボリンジャーバンドはトレンドとボラティリティの両方を示す指標です 。中央の移動平均線の傾きでトレンドの方向と強さを把握し、上下バンドの幅でボラティリティの大小を把握します 。価格が上昇トレンドでバンドも上向きの場合、移動平均線がサポートとして機能しつつ、基本的に+2σバンド付近で推移しやすくなります。一方、バンド幅が極端に狭くなるボリンジャーバンドのスクイーズは低ボラティリティ状態を示し、その後にバンド幅が拡大するエクスパンション局面で大きなトレンドが発生しやすいです 。例えば長いもみ合い(スクイーズ)の後にローソク足がバンドを突き抜けて急伸しバンドが拡大し始めたら、新たなトレンドの開始シグナルと捉えます 。逆に+2σを超えてバンドの外に出た価格は行き過ぎなので、バンド内に戻るリバーサルを狙う戦略(バンドウォーク終了の見極め)もあります。プログラムで実装する際は、バンド幅(±2σの差)を定量化して閾値と比較したり、終値がバンドブレイクしたことを検出する、といったロジックが考えられます。
2. チャートパターンの解説
チャートパターンとは、価格推移の形状から今後の相場の方向性を予測する分析手法です。チャート上に現れる特徴的な形(パターン)は、多くの市場参加者が注目するため自己実現的に機能しやすいと言われます。ここでは代表的な転換型パターンと継続型パターンを具体例とともに解説します。
ヘッドアンドショルダー
ヘッドアンドショルダー(Head and Shoulders)は、相場の天井圏で現れる代表的な転換パターンです。日本語では「三尊天井」とも呼ばれ、名前の通り人の頭と両肩に見立てた形状を作ります 。中央に最も高い高値(頭)があり、その左右にそれより低い高値(肩)が並ぶのが特徴です 。このパターンが出現すると上昇トレンドの終わりを示唆します 。ヘッドアンドショルダーでは、三つの高値を結ぶ谷底に相当するラインをネックラインと呼びます。一般に左肩と頭の間、および頭と右肩の間の安値を結んだ水平線がネックラインです。重要なのは、このネックラインを明確に下抜けして初めてパターン完成とみなす点です 。価格がネックラインを下回ると上昇トレンドが終わったと分析され、大きな下降トレンドへの転換シグナルとなります 。例えば株価が上昇局面で徐々に勢いを失い、ほぼ同じくらいの高値を2度つけて天井を形成し、さらに最後の上昇が前の高値に届かずに反落してネックラインを割れた場合、ヘッドアンドショルダー完成と判断します。
なお、下降トレンドの底で現れる逆向きのパターンは**逆ヘッドアンドショルダー(ヘッドアンドショルダーボトム、逆三尊)**と呼ばれます。これは中央に最も低い安値(頭)、両側にそれより高い安値(肩)を形成し、ネックラインの突破で下降トレンドの終わりを示唆するものです 。
ダブルトップ・ダブルボトム
ダブルトップは、相場の高値圏で現れるM字型の転換パターンで、2つの山(高値)がほぼ同水準に並ぶ形です。日本語では「天井を二回叩く」とも表現され、上昇トレンドの終焉を示します 。ダブルトップでは2つの高値の間の安値を結ぶラインがネックラインとなり、価格がそのネックラインを下回ることでパターン完成です 。ネックライン割れは上昇トレンド終了と分析され、新たな下落トレンド入りのサインとなります 。一方、下降トレンドの安値圏でW字型に安値を2回つけるダブルボトムは、下降トレンドから上昇トレンドへの転換を示すパターンです。2つの安値がほぼ同じ水準で、間の高値を結んだネックライン(上値抵抗線)を上抜けるとパターン完成となり、下落トレンドの終了シグナルとなります 。
ダブルトップ/ボトムはいずれも2点で反転するため「リバーサル(反転)パターン」に分類されます。一般的に天井や底で頻出するパターンで、教科書的にはダブルトップ形成後の下落幅はネックラインからトップまでの高さ分と言われます。エンジニアはこれを利用し、例えば直近高値が並んでいて支持線を割ったら売りエントリー、目標株価はパターンの高さ分だけ下といったルールを検討できます。
フラッグ・ペナント
フラッグとペナントはいずれもトレンド継続型のチャートパターンで、急騰・急落後の一時的な持ち合い(調整局面)に現れます。フラッグは文字通り旗の形に似ており、ペナントは三角旗(ペナント)に似ています。
• フラッグ: 上昇トレンド中に現れる保ち合いを上昇フラッグと呼び、急騰でできた旗竿(ポール)に対して小幅な下落トレンドのチャネルが旗の部分になります 。典型的には、急上昇後に価格がやや下向きの平行線のレンジ内で揺れ動く形です 。上値抵抗線と下値支持線が平行に下向きで引けるのが特徴で、このレンジを上方にブレイクアウトすると再度強い上昇(旗竿の続き)が始まる可能性があります 。一方、下降トレンド中に一服入って生じる逆向きの旗は下降フラッグと呼ばれ、急落後にやや上向きの平行レンジ(小幅反発のチャネル)を形成し、下抜けで再度急落が進行するパターンです 。
• ペナント: ペナント型は急騰・急落後にできる小さな三角形の持ち合いです。上昇トレンドで出る上昇ペナントでは、直前の急騰がポールとなり、その後の持ち合い相場で高値切り下がり・安値切り上がりのトライアングルを形成します 。ローソク足の値幅がだんだんと収縮してエネルギーを蓄え、上値抵抗線(上側の下降するトレンドライン)を上抜けすると急激な上昇につながることが多いです 。下降ペナントはその逆で、急落後に高値切り下がり・安値切り上がりの小さな三角保ち合いを作り、下値支持線を下抜けると再度急落しやすい形です 。
フラッグとペナントはいずれも「途中の一服」の後にトレンドが再開する典型パターンです。出来高は持ち合い中に減少し、ブレイク時に増加する傾向があります。システムトレードでは、急騰→持ち合いレンジ検出→上方ブレイクで順張りエントリー、という一連の流れをアルゴリズム化することも可能です。
トライアングル(上昇・下降・シンメトリック)
トライアングル(三角保ち合い)は、価格の変動幅が時間とともに縮小し、収れん三角形を形成するパターンです。高値・安値双方が収束していく対称型(三角形)のほか、一方が水平でもう一方が収束するタイプがあります。
• 上昇トライアングル: 安値が切り上がる一方で高値がほぼ一定水準で抑えられているパターンです 。上値抵抗線(水平なライン)と上昇する下値支持線で三角形が構成されます。買い圧力が徐々に強まり、高値圏の水平ラインを上抜けすると上昇トレンド継続のシグナルとなります 。これは強気相場で典型的な強気継続パターンです。
• 下降トライアングル: 高値が切り下がる一方で安値が一定水準で支えられているパターンです 。下降する上値抵抗線と水平な下値支持線で三角形が構成され、安値の水平線(支持線)を下抜けると下降トレンド継続のシグナルとなります 。弱気相場で現れる弱気継続パターンです。
• シンメトリカルトライアングル(対称三角形): 上値が切り下がり、下値が切り上がっていく対称型の三角形です 。市場のエネルギーが徐々に収束していく過程を表し、上下どちらかにブレイクした方向へ大きく動きやすいのが特徴です 。対称三角形は明確な水平ラインがないためブレイク方向の予測は難しいですが、一般的には直前のトレンド方向に抜けることが多いです 。ブレイクアウトは2本のトレンドラインが交差する頂点近くで起こる傾向があります 。例えば、上昇トレンド中の対称三角形では上値・下値が収れんし、エネルギーが蓄積された後に上方へブレイクしやすいといった具合です。
トライアングルは継続/転換両面の解釈がありますが、多くの場合ブレイク方向へ動くため、システムトレードではブレイクアウト戦略として活用されます。例えば価格が一定の三角持ち合いレンジに収まっている間はエントリーを控え、上抜けしたら買い、下抜けしたら売りといったルール設定が考えられます。
3. トレンド分析
トレンド(相場の方向性)の把握はテクニカル分析の核です。ここではダウ理論という基本原則と、実践で役立つトレンドラインやサポート・レジスタンスの見極め方を解説します。
ダウ理論(主要な6つの原則)
ダウ理論はテクニカル分析の原点ともいえる理論で、米国ダウ平均の生みの親チャールズ・ダウが提唱した6つの基本法則から成ります。ダウ理論の要点をまとめると以下の通りです 。
1. 平均株価はすべての事象を織り込む – 市場価格には経済指標やニュースなどあらゆるファンダメンタルズ要因が織り込まれており、現在の価格がすべての情報を反映していると考えます 。これは「チャートが全て」というテクニカル分析の前提になります。
2. トレンドには3種類ある – 市場には期間の長さに応じて3種類のトレンド(趨勢)が存在します 。長期トレンド(1年以上)、中期トレンド(数週間~数ヶ月)、短期トレンド(3週間未満)です 。相場分析ではどのトレンドを捉えているか意識する必要があります。
3. 主要トレンドは3段階から成る – 長期の主要トレンドはさらに3つの段階(フェーズ)に分かれます 。上昇トレンドなら「先行期(スマートマネーの仕込み)→追随期(一般投資家も参加し急騰)→利食い期(利益確定売りで伸び悩み)」の3段階 。下降トレンドでも同様に段階があります。
4. 平均は相互に確認される – 複数の代表的な平均(指数)同士が同じトレンドを示して初めて信頼できる、という法則です 。ダウ氏の時代は工業株平均と鉄道株平均の相互確認でしたが、現代でも関連市場や複数指数の動向確認が重要とされます。
5. トレンドは出来高でも確認できる – 出来高(取引量)は価格トレンドの信頼度を測る補助指標です 。価格が上昇局面では出来高も増加するのが健全なトレンドであり、出来高が伴わない上昇や下落は持続しにくいとします(ただしFXなど出来高不明瞭な市場では適用困難な面もあります )。
6. 明確な転換シグナルが出るまでトレンドは持続する – 一度トレンドが発生したら、そのトレンドは明確な反転サインが出現するまで継続すると考えます 。具体的には、上昇トレンド中は直近安値を割り込まない限り上昇基調が続き、下降トレンド中は直近高値を上回らない限り下降基調が続くという原則です 。
ダウ理論は歴史的理論ですが、現在の相場分析でも有用です。例えば「主要トレンドの中に中期・短期の揺り戻しがある」という考え方は、マルチタイムフレーム分析や押し目買い・戻り売り戦略の基礎になります。エンジニアはダウ理論を踏まえ、トレンド検出アルゴリズムやトレンドの強弱判定ロジック(例えば高値安値の切り上げ/切り下げパターンの検出など)を設計できます。
トレンドラインの引き方と活用法
トレンドラインは、チャート上で相場の方向性を直線で示したものです 。上昇トレンドでは安値同士、下降トレンドでは高値同士を結んで引くのが基本です 。上昇トレンド時に2点以上の安値を一直線で結んだラインはサポートライン(上昇トレンドライン)となり、下降トレンド時に2点以上の高値を結んだラインはレジスタンスライン(下降トレンドライン)となります 。トレンドラインはシンプルですが、多くの投資家が意識するため有効な分析手法です。
引き方のポイント: 明確な2つの高値(または安値)を起点に線を引きます。ローソク足の実体に合わせるかヒゲ先に合わせるかはケースバイケースですが、初心者はヒゲ(極値)同士を結ぶ方が分かりやすいでしょう 。相場の時間軸によっても有効なトレンドラインは異なります。日足で引いた上昇トレンドラインも、週足で見ればただの小さな波の一部かもしれません。基本的には長期足のトレンドラインの方が信頼性が高いですが、システムトレード戦略によってどの時間軸のトレンドを見るか決めます。
活用法のポイント: トレンドラインはエントリーポイントやストップロス設定に役立ちます。例えば上昇トレンドラインでは、そのラインまで価格が下落して跳ね返された地点が押し目買いの好機になります 。実際に上昇トレンド中は、価格がサポートライン(トレンドライン)付近まで調整した後に再度反発上昇するパターンが多く見られます 。逆に下降トレンドラインでは、ラインまで上昇して跳ね返されたところが戻り売りのポイントです 。トレンドラインを利用したエントリーでは、ラインを明確にブレイクしたらシナリオ否定となるため、その少し外側にストップロスを置くと合理的です 。例えば上昇トレンドでサポートライン下抜けはトレンド崩壊のサインなので、ラインを少し割った所で損切りするルールが考えられます 。このようにトレンドラインはエントリータイミングの目安および損切りラインの目安として活用できます 。
また、トレンドラインに平行なラインを反対側に引くことでチャネル(平行レンジ)を描くことも可能です 。チャネル内での価格推移を見ると、相場がその範囲内で上下動している間はトレンドが継続していると判断できます 。チャネル上限到達で利食い、下限到達で押し目買い増しといった戦略もあります。
サポート・レジスタンスの見極め方
サポート(支持線)とレジスタンス(抵抗線)は、過去に何度も止められた安値水準・高値水準として認識される価格帯です。トレンドラインが斜めの支持線・抵抗線であるのに対し、サポート・レジスタンスは横ばい(水平方向)のラインで示されることが多いです 。
サポートラインは「これ以上は下がらない」と多くの参加者が考える価格帯で、過去の安値が基準になります。一方、レジスタンスラインは「これ以上は上がらない」と意識される価格帯で、過去の高値が基準です。引き方の基本は、直近の顕著な高値同士、安値同士を水平線で結ぶことです 。例えば日経平均が過去数ヶ月何度も下げ止まった水準があればそこが強力なサポートラインになります。水平線を引く際、ヒゲ先か終値かは厳密には分けて考える必要もありますが、概ね近い価格帯のゾーンとして捉えます。
重要性の判断: 一般に、タッチ回数が多いラインほど意識される傾向があります。また長期間破られていないサポートやレジスタンスは強力です。出来高が多くできた価格帯(出来高プロファイル上の山)は支持・抵抗になりやすいとも言われます。
トレードへの活用: サポート・レジスタンスはエントリーや決済判断に直結します。ブレイクアウト戦略では、重要な抵抗線を価格が突破した瞬間に順張りで乗ります(上抜け買い・下抜け売り)。逆にレンジ相場を想定する場合、逆張り戦略としてサポート付近で買い、レジスタンス付近で売る戦術もあります。しかし明確なブレイクが発生したら素早く撤退するルールが不可欠です。多くのシステムトレードでは、サポート・レジスタンスをトリガー条件(ブレイクしたらエントリー)やフィルタ条件(直近の抵抗帯を抜けるまではエントリーしない)として実装しています。
4. ボラティリティ分析
ボラティリティは価格変動の大きさ(振れ幅)を指し、相場の不確実性やリスク度合いを示す重要な要素です。ここでは代表的なボラティリティ指標であるボリンジャーバンドとATR(平均真の範囲)を紹介し、そのリスク評価への応用を解説します。
ボリンジャーバンドによる変動分析
前述のボリンジャーバンドは、移動平均線と標準偏差を組み合わせて価格変動の幅を捉える指標です。ボリンジャーバンドの上下のバンド幅を観察することで、現在のボラティリティ水準が分かります。バンド幅が広ければ変動率が大きく、狭ければ変動率は小さいと判断できます 。実際、相場では静かな局面(低ボラティリティ)の後には大きな変動(高ボラティリティ)が訪れ、また落ち着く…というサイクルを繰り返します 。ボリンジャーバンド上では、これがスクイーズ(バンド収縮)とエクスパンション(バンド拡大)として視覚的に確認できます 。
活用法: ボラティリティ分析としては、バンド幅を定量化したり、バンドと移動平均の距離(標準偏差何σか)を指標化して使います。例えば「現在のバンド幅が過去半年間で最も狭い」という状況は、まもなく大相場が来る可能性を示唆します。逆にバンド幅が極端に広がっている場合、それはボラティリティがピークに達しているサインかもしれません。このようにボリンジャーバンドは価格だけでなく変動率にも着目できるため、システムトレードでもボラティリティフィルターとして用いられます(例:「直近のバンド幅が一定以上ある時だけブレイクアウト手法を発動する」など)。
ATR(平均真の範囲)によるリスク評価
ATR(Average True Range)は、一定期間内の平均的な価格変動幅(レンジ)を表す指標で、J.ウェルズ・ワイルダーにより考案されました。計算方法は、各日の「真のレンジ」(True Range)を求め、その平均をとります。真のレンジとは当日高値-安値に前日終値との差も考慮した値で、ギャップも含めた実質的な変動幅です。例えば14日ATRは直近14日の平均的な1日変動幅となります 。値が大きいほどその銘柄は1日に大きく動き、値が小さいほどあまり動かないということです。
活用法: ATRは主にボラティリティの大きさを数量化してリスク管理に利用します 。たとえば、ある通貨ペアのATR(14)が50ピップスであれば、その通貨は最近1日あたり平均50pips動いていることになります。これを知れば、デイトレードで20pips利益を狙うのは現実的か、あるいは逆に50pipsのストップでは足りないか、といった判断ができます。またATRはトレールストップやポジションサイズ調整にも使われます。一般的なルールの一つに「直近ATRの1.5~2倍をストップロス幅に設定する」というものがあります 。ボラティリティが高い時はストップも広く(ポジションサイズは小さく)、低ボラティリティ時はストップをタイトにする、といった調整がATRで可能です 。
システムトレードでは、ATRを用いてマーケットごとのリスク平準化を行うことが多いです。例えばボラティリティの高い商品Aと低い商品Bに同じ金額を投じると、一方に偏ったリスクを取ることになります。そこでATRに基づき、それぞれの銘柄の1ポジションあたり数量を調整し、どちらでも想定変動額が同程度になるようにします。また、ATRと他の指標を組み合わせて「ATRが一定以上上昇(ボラ拡大)してきたらトレンド発生の兆し」と判断するようなボラティリティブレイクアウト戦略も考案できます 。
5. トレード戦略の基礎
最後に、テクニカル分析を活用した基本的なトレード戦略について説明します。エンジニアがシステムトレードを構築する際、これらの戦略パターンを押さえておくと有用です。それぞれの戦略の考え方と、プログラム実装上のポイントに触れます。
ブレイクアウト戦略(レンジの突破を狙う)
ブレイクアウト戦略とは、価格が一定のレンジ(ボックス相場)の上下どちらかを抜け出す瞬間にエントリーし、新たなトレンドの始動に乗る手法です。レンジの上限抵抗線や下限支持線は多くの売買注文が集まりやすい水準ですが、そこを突破すると注文の偏りが解消され、価格が一方向に走りやすくなります 。ブレイクアウト戦略では、例えば直近高値の抵抗線上抜けを確認して買いエントリーする、といった具合に明確な水準突破をトリガーとします 。この手法はトレンド相場の序盤を捉えるのに有効で、大きな利益を狙えます。
留意点: ブレイクアウトには「だまし(フェイク)」も多いため、出来高の増加や他の指標の確認で信頼度を高めます 。例えばブレイク時に出来高が伴っていれば本物と判断し、薄商いのブレイクは飛びつかないようにする、といった工夫です。また、ブレイクアウト後に一旦戻ってきてから再度伸びるリターンムーブもよく起こります 。プログラム実装では、一定以上の価格帯ブレイクと出来高増加が同時に起きた場合にのみエントリーする、といった複合条件にすることもあります。
リバーサル戦略(トレンド転換点を狙う)
リバーサル戦略(逆張り戦略)は、上昇・下降トレンドの転換点をいち早く見極めてエントリーする手法です。価格の行き過ぎによる反動(リバージョン)や、トレンドの勢いの衰えを利用します。典型的には、オシレーター指標が極端な値を示したときに逆方向のポジションを取ります。例えばRSIが80を超える買われすぎ局面で売りエントリー、RSIが20を下回る売られすぎ局面で買いエントリーする戦略です。また、MACDやストキャスティクスのダイバージェンス(価格は高値更新しているが指標は高値更新できず下向き、など)はトレンド転換の前兆として重視されます 。
留意点: リバーサル戦略はトレンドのピークやボトムを正確に捉える必要があり、早すぎても遅すぎても失敗します。そのためシグナルの精度向上が鍵です。複数の根拠を組み合わせ(例:ボリンジャーバンド+オシレーターの極値)、転換の可能性が高まったタイミングを狙います 。損切り設定も重要で、逆張りはトレンドに逆らう行為のため予想が外れた際の損失が大きくなりがちです。システムトレードでは、例えば「RSI<20 かつ 陽線転換確認」で買い、その直近安値を割ったら損切り、といった明確なルールを作ります。
トレンドフォロー戦略(順張りでトレンドに乗る)
トレンドフォロー戦略は、発生したトレンドに沿って順方向にエントリーし、トレンドが続く限りポジションを保有する手法です 。格言で言う「Trend is your friend(トレンドに従え)」を実践するアプローチで、押し目買い・戻り売りや移動平均線ブレイクなどが含まれます。具体例として、移動平均線や高値・安値の更新でトレンドを確認し、上昇トレンドでは押し目で買い増し、下降トレンドでは戻りで売り増しする方法があります 。
留意点: トレンドフォローは一度トレンドに乗れれば大きな利益が狙えますが、レンジ相場に弱くダマシに何度も引っかかるリスクがあります。したがって市場環境の判定が重要です。ダウ理論やADXなどの指標で「現在トレンド発生中か?」を確認し、トレンドがはっきりしないときはトレンドフォロー戦略を休止するといった工夫が必要です。システムトレードでは、たとえば「直近20日レンジ幅に比べて現在の価格変動幅が一定以上大きい時だけ順張りエントリーする」などボラティリティ基準を設けることもあります。また利確とロスカットのバランスも難しいところです。利益確定を急ぎすぎると大相場を逃し、引っ張りすぎると折り返しで利益を飛ばしてしまいます。一般的にトレンドフォロー型ではトレーリングストップ(移動する逆指値)を用いて、トレンドが伸びる限り保持しつつ、反転したら利益を確保する方法が好まれます。
スキャルピング・デイトレード・スイングトレードの違い
トレード戦略を語る上で、取引スタイル(時間軸)の違いも押さえておきましょう。主なスタイルとしてスキャルピング, デイトレード, スイングトレードの3つがあり、それぞれ取引の持続時間や回転率が異なります 。
• スキャルピング: ごく短期の値動きを捉えて数秒~数分で売買を完結する手法です。1日に数十~数百回と非常に頻繁に取引し、小さな利益を積み重ねます 。スキャルピングは常に画面に張り付いて高速な判断を行う必要があり、スプレッドや手数料の影響も大きいです。その分、一回のトレードリスクは小さく抑えられます。システムトレードでスキャルピングを実装する場合、ティックデータの処理速度や約定スピードが勝敗を左右します。
• デイトレード: 日中の値動きを狙い、当日中にポジションを手仕舞う手法です 。保有時間は数分から数時間程度で、基本的にポジションは日跨ぎしません。スキャルピングより取引回数は少なく、1日に数回~数十回程度です。日中のトレンドフォローやブレイクアウト狙いなどが中心で、夜間持ち越さないためギャップリスク(翌朝の急変動リスク)を避けられます。システム的には、その日のマーケットセッション内で完結するロジック(寄り付き後○分はエントリーしない、引け○分前には決済する等)を組み込みます。
• スイングトレード: 数日から数週間程度の期間でポジションを保有し、比較的大きな値幅を狙う手法です 。日々細かく売買せず、トレンドの波をじっくり捉えるスタイルで、エントリー後はある程度ホールドして目標値まで待ちます。仕事で忙しい人でも取り組みやすいと言われ、中期的なトレンド分析にテクニカルとファンダメンタルズ双方を用いることもあります 。システムトレードでは日足や4時間足といった長めの時間軸を用い、利幅も数%~十数%と大きめに設定します。その代わり損切り幅も大きく、ポジション保有中のニュースリスクなどにも耐える設計が必要です。
これらのスタイルに優劣はなく、自分の目的や資金、生活スタイルに合ったものを選ぶことが大切です 。エンジニアとしては、どの時間軸の戦略を自動化するかでシステムの設計や必要なデータ(ティックデータか日足データか等)が変わってきます。例えばスキャルピングBOTなら超高速処理や低レイテンシー執行が肝要ですし、スイングトレードBOTならマーケットのオープン/クローズ管理やスワップポイント考慮なども必要になるでしょう。
次回は、実際にチャートを見ながら各テクニカル指標の見方とトレード戦略の基本をわかりやすく説明していきます。