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ラフ×ラフ『かわいいスイッチ』は自己肯定の魔法

『かわいいスイッチ』は、2024年8月23日にリリースされた8人組アイドルグループ「ラフ×ラフ」の11曲目の配信シングルです。

これまでのラフ×ラフの楽曲は、曲中にガチの大喜利をやってしまう代表曲「考える時間をください」、社会人経験のないアイドルがなぜだか会社員の悲哀を歌った「クライアント」、父の日に絡めて日頃スポットが当たらないお父さんへの感謝の気持ちを歌った「パッパッ」など、応援歌やちょっとネタっぽい企画曲など、普通のアイドルグループの楽曲とは一線を画した個性的なラインナップとなっていました。

しかし今回の『かわいいスイッチ』は、ラフ×ラフが11曲目にして初めてアイドルのアイデンティティともいえる「かわいい」に全振りしたシングル曲となっています。

『かわいいスイッチ』が発表されたことの意味


これまでのラフ×ラフにかわいいアイドル曲がなかったのには、2つの理由があると思っています。

ひとつ目はプロデューサーが「ゴッドタン」や「トークサバイバー」などのお笑い番組を作ってきた佐久間宣行氏であり、「バラエティを頑張るアイドル」をコンセプトとして結成されたグループであることから、「考える時間をください」のようなバラエティ要素が入った楽曲によって他のアイドルと差別化を図る戦略が取られてきたこと。

ふたつ目はラフ×ラフのメンバーには性格的にどちらかというネガティブな子が多く、自分のことを無条件に「かわいい」と言い切ることにためらいが生じるグループの空気感があったからではないかと思っています。

もちろん自分をかわいいと思っていないアイドルがいるわけもなく、実際に彼女たちはとてもかわいいですし、彼女たちもそれは分かっているはず。
でも、2022年にラフ×ラフのオーディションを受けるまで他のオーディションに落ちまくったり、次に進む道が見つからず逡巡としていた彼女たちは、決して自己評価が高いタイプではありませんでした。

そんな彼女たちだからこそ、デビューから1年半近くが経過したこの夏に『かわいいスイッチ』がリリースできたことは、メンバー個人としてもグループとしても大きな意味があると思うのです。

『かわいいスイッチ』で語られていること


FRUITS ZIPPERの「わたしの一番かわいいところ」「NEW KAWAII」に代表されるように、日本は今、空前のかわいいブームです。(と、僕は勝手に思ってます)

『かわいいスイッチ』を初めて聞いた時、ラフ×ラフも安易にその流れに乗ろうとしているのかな?という印象も持ちましたが、繰り返し聴けば聴くほど他のアイドルの「かわいい」とは何かが違う、実にラフ×ラフらしい楽曲であることが見えてくるのです。

いまから押すよ かわいいスイッチ

「かわいいスイッチ」

そもそも、「かわいいスイッチ」って何なの?って話です。

「アイドルなんだし最初っからかわいいんじゃないの?」「スイッチ押さないとかわいくならないの?」って思いませんか?

じぶん出すのは超苦手 聞き分けよい子で過ごしてる
こんなことで怒っちゃダメ ありのままだと嫌われる
知らず知らずに感情退化 卑下するのが癖になった

「かわいいスイッチ」

Aメロに入ると、いきなりのネガティブモード。

でも最初から自分をオープンにさらけ出して、明るく楽しく生きていける人ってどれだけいるんだろう?
誰しも自分に自信を持てない時期はあるし、デビュー1年目のラフ×ラフにも思い通りにいかないもどかしさを感じているのかなっていう場面は多かった。

沸かせ喜怒哀楽に 魔法を仕込んじゃえ
いまから押すよ かわいいスイッチ

「かわいいスイッチ」

そんなネガティブな自分を突き動かす魔法が「かわいいスイッチ」なのです。

第三者から言われる表面的な「かわいい」ではなく、自分を自分で「かわいい」と思える気持ち___それはまさしく自己肯定感以外の何物でもありません。

かわいいスイッチ入れちゃえば 悲しい気持ちが吹き飛んでく
かわいいスイッチ入れちゃえば 自分のことが大好きになる

「かわいいスイッチ」

この曲で歌われるのはあくまで自分の中での葛藤であり、そこに他者は存在していません。
自信のない自分を克服して、どうやって自分を好きになるか?
歌われているのはひたすら内省的なその心の変化の過程です。

かわいいスイッチ入れちゃえば わたしの本音が溢れだす
かわいいスイッチ入れちゃえば きみの感情動き出す

「かわいいスイッチ」

そうして自分の中のかわいいスイッチを押すことができれば___自己肯定の魔法をかけることができれば、ありのままの自分という存在が再生され、その先に「きみ(=世界)」との出会いが待っているのです。

『かわいいスイッチ』のその先にあるもの


振り返ってみると、自己肯定というのはラフ×ラフにとって一貫したひとつのテーマとなっており、佐久間Pがオーディションでの彼女たちにインスパイアされて作詞したデビュー曲「100億点」でもこのように歌われています。

Let me dance Let me laugh
取り戻すよ (涙止まんない!)
自分を好きに 好きに好きに なるための歌

100億点 もう100億点!
自分で自分にあげちゃって
100億点 もう100億点!
今ここにいれば もういいじゃん!

「100億点」

オーディションから今に至るラフ×ラフの活動はすべて公式YouTubeチャンネルに収められていますが、そこにあるのはアイドルとしての成長ドキュメンタリーであり、アイドルとしての成長に伴って自分を好きになっていく女の子たちの姿なのかもしれません。

ダンスや歌のスキルが見違えるように向上し、泣いたり笑ったりしながらいろんな経験を積み重ねたことで『かわいいスイッチ』を歌うことができるようになったラフ×ラフは、アイドルとしても、人間としても、一歩前に進むことができたのだと思います。

自分を好きになれない自分との戦いはここで終わり。

ここからはとびきりかわいい自分たちが世界に飛び出して、みんなに勇気を与えていく番なのです。

この『かわいいスイッチ』は、そんなラフ×ラフ 第二章の始まりを告げた楽曲なのだと僕は思っています。


『かわいいスイッチ』 ラフ×ラフ
作詞:なかじまはじめ
作曲:藤田卓也
編曲:藤田卓也
ジャケット原案:藤崎未来(ラフ×ラフ)
発売日:2024年8月23日

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