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「いよいよ作品作りに着手」

 9月は『さようなら、シュルツ先生』の出演者計18人で五回にわたって「事前ワークショップ」をやってきた。どの回も10人~12人くらいの参加者で、俳優たちの方から「演じてみたい作品」や「観てみたい場面」を提出してもらい、私が適当にグループ分けして、シーン作りをやってもらった。最終日の24日だけは17人とほぼ全員が揃い、女性10人、男性7人が並ぶとなかなかの壮観だった。うん、この俳優たちがあの決して広くはない上野ストアハウスの空間に現れると、迫力あるだろうなあ、と想像する。静かな迫力と言おうか、沈黙の圧力と言おうか、そんな空気が劇場を満たしてくれたらいい。そうでありながら、ブルーノ・シュルツの作品によく出てくる戸外を吹きすさぶ風によって、それらが一瞬にして消え去ってしまう時間が流れてくれるといい。

五回のワークショップでは、演出的なことはほとんど言わなかった。たまあに「その人物が楽しい気持ちでいる時に楽しそうな顔をしない」「悲しい心情の時に悲しそうな顔をしない」ということとか、「仕草や台詞は誰に向かってやっているのか、対象があるのか、ないのか、意識的になること」とか、けして特別なことではない基礎的なことをちょこっと言うだけにした。今の段階は演技の質よりも、小説に書かれた記述を俳優たちがどう身体化しようとするのかをじっと眺めている時間。俳優たちも他の人が何をどうしようとしているのか、互いに虎視眈々と見つめている。

傾向として感じるのは、それぞれ演劇をやることになった出自は違うのであるが、それなりにキャリアがある人が多いせいか、「分りやすい表現」がいささか多いな、という点だろうか。つまり、観客に分かりやすく伝えようとする「説明的演技」を無意識にしている俳優が散見されます。それを私は今後、ある場面では生かしたり、ある場面では消去したり、していくのでしょう。楽しみです。

振付をお願いする市松さんが24日に稽古場に来てくれました。軽いワークショップというかストレッチ的な動きをやりましたが、これは見ていて楽しかったです。やはり、身体の動きだけを見ても、人って面白いですね。これだけを見ても「素の自分に近いレベルで動いてる人」がいたり、「ある演技モードに入って動いている人」がいたり、様々です。


あと約一週間で本稽古に入りますが、MODEの稽古ってこれまでも、どこまでがウォーム・アップで、どこからが本稽古なのか、境目が曖昧だったような気がします。それがMODEの特色と言えるかもしれません。さ、演出家として、今はとにかく原作を読んで、思いついたことのメモをたくさん作ることに徹しようと思います。ようやく涼しくなってきましたから読書も捗ることでしょう。しかし、この適度な涼しさの中で飲むビールもまた格別ですね。ちなみに、ブルーノ・シュルツの生まれたポーランドの街ドロホビチ(現ウクライナ領)は、今や大変なことになっていて、ここ東洋の平和な土地で呑気にビールを飲むのはいささか、気が引けますが、東欧のあそこら辺で飲むビールはじつに美味いです。そして安いです。

「アデラ!ビールを持ってきておくれっ」


     
松本修(MODE主宰 演出)


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