セカンドシアター新喜劇
5月6、7、8日。三日間上演された、セカンドシアターの新喜劇の台本を担当しました。リーダーを務めたのは、佐藤太一郎くんと小西武蔵くん。
ご存じないかたのために書いておくと、セカンドシアターというのは、なんばグランド花月の地下にある、吉本新喜劇の若手座員が出演する劇場のことです。
本来こういう記事は、告知の意味も込めて、公演初日よりも前に出したほうがいいのでしょうが、内容に触れることも書きたかったので、このタイミングになりました。
で、三日間の公演を終え、結論から申し上げますと、「いい新喜劇になったな」と。リーダーの佐藤太一郎くん、小西武蔵くんは当然のことながら、出演者全員にそれなりの見せ場があって、いわゆる「この役なくてもいいじゃん」てのがなかった。全軍躍動、実にバランスのいい作品になりました。
出演者の名前、書いておきますね。
佐藤太一郎、小西武蔵、大黒笑ケイケイ、清水啓之、鮫島幸恵、カバ、けんたくん、川筋ライラ、小林ゆう、多和田上人、もじゃ吉田、生瀬行人、音羽一憲、タックルながい。
「親子愛をテーマにしたいんです」
「カバちゃんが悪役で、親の頭にある子供の記憶を吸い取るんです」
「ふだん忙しくて子どもの相手をしてやれない父親が、子どもの記憶を失って、親子関係が一度リセットされる、そしてそこから立ち直って行く話をやりたいんです」
四月に入ってすぐ、佐藤くんと小西くんから台本を依頼されたとき、まず言われたのはこんなことでした。
「なるほど。じゃあ、カバちゃん、見た目食いしん坊キャラだから、子どもの記憶を主食にする悪魔っていう設定はどう?」と私。
「いいですね! あ、あと、音羽さんとけんたくんをコンビでガリ勉キャラにしてあげたいんです」と佐藤&小西。
「あ、そうなんだ。じゃ、子どもの相手をしてやれない父親が、家庭教師を雇おうとする……みたいな流れで、そのガリ勉コンビを出せそうだね。二人を大学生ってことにすれば」
「あ、いいと思います」
……という具合に、二人の投げてくるボールを一つひとつ打ち返していくうちに、だんだんとお話は出来上がっていきました。一番難航したのは、娘のことを忘れてしまった父親(佐藤くん)が娘(ライラちゃん)に対してどういうアクションを起こし、そこにどう笑いを仕込むか、という部分。ただうろたえるだけの父親を描いてもしょうがないので、この部分の見せ方はいろいろ考えました。結果、佐藤くんの熱演のおかげで充実したシーンになったと思います。
熱演ということでいえば、(すべての公演に立ち会ったわけではありませんが)、演者さんたちのパフォーマンスも非常に良かったと思います。
佐藤太一郎くんは、前述のシーンに限らず、全編通して熱演で駆け抜けてくれました。実生活でもお父さんになったことで、今回の役への没入度も深かったかもしれませんね。
小西武蔵くんは、「俺(大崎)にはこのボケは思いつかんな」というボケをいくつも見せてくれたうえに、そのボケでしっかりウケていたので脱帽しました。僕は若手座員のボケには、基本的に厳しいんですが、今回イチボケ(一番ボケる人)を務めてくれた小西くんはかなりの高打率だったと思います。
まだ認知度が高くなく、客席の空気が、「この人、誰?」という状態から五十分の芝居のイチボケを担うのは大変なのですが(ま、みんな最初はそうなんだけど)、しっかりと務めを果たしてくれたと思います。
そして、今回、回し(メインのツッコミ役ね)を務めてくれた、もじゃ吉田くん。声良し、間良し、言葉選び良しで、安定感抜群でした。
稽古中、こんなことがありました。悪魔役のカバちゃんが、「(子どもとの思い出を奪い取る)次のターゲットはお前だ!」と大黒くんを指さしたとき、無関係の小西くんが「ひいいっ!」と怯えるボケをアドリブで入れたんです。で、これに対するもじゃ吉田くんのツッコミ。
「お前ちゃうねん! お前、子どもおらんやろ!」
これを見た時、「あ、回しをもじゃくんにして正解だったな」と安心したのを覚えています。なんといいますか、ちゃんと「新喜劇のツッコミ」になってるんですよね。
一言目の「お前ちゃうねん」は誰でも言えるツッコミ。でも、二言目に、「お前、子どもおらんやろ」と足してくれる、回しとしての感度の良さ。今回の敵は、子どもとの思い出を狙っているやつだ、というのが、このツッコミでさらに印象づけられるんです。新喜劇を回す人は、すべからくこうあってほしい。「お前ちゃうねん! 出てくんな!」というツッコミでもウケるんでしょうけど、ちょっと浅い。
本番でも、もじゃくんのアドリブ対応力は高くて、小西くんやほかの演者さんたちも、安心してボケられたんじゃないかなと思います。
あと、カバちゃん。悪魔の役、完璧にものにしてました。怖すぎず、ちょっとコミカルな、でも悪事は働く、そんな悪魔がちゃんと舞台上に出現してました。芝居もいいけど、特に声が素晴らしかったです。
川筋ライラちゃんの演技も胸に迫るものがありました。佐藤くんの指導もあってか、小学生の役を見事に演じきっていました。
えーっと……。演者さん全員について書きたくはあるんですが、とりあえずこれぐらいにしておきまして、なんにせよ、全体を通して良い作品に仕上がったな、という思いです。
しかしまあ、久しぶりのnoteでこうやって、自分が担当した若手の新喜劇を振り返っているのは、とどのつまりやってて楽しかった、ということです。公演初日も、自分が出るわけでもないのに妙にソワソワしちゃってね。楽屋の前の廊下を行ったり来たりして。なんばグランド花月の初日とは違った緊張を感じておりましたよ。最近はあまりやってないですが、若手座員の単独イベントを手伝っているような感覚を久しぶりに味わうことができました。惜しむらくは、ご時世的に打ち上げができないことですかね。
ともあれ、力のある若手座員たちと一緒に作品を作ることができて、充実した時間を過ごせました。制作の社員さん、劇場の裏方さん、スタッフさん、そして何より、ご観劇にお越しいただいた皆様、ありがとうございます。
次のセカンドシアター新喜劇は、もじゃ吉田くんと岡田直子ちゃんがリーダーを務めます。
5月27、28、29日の三日間、きっと熱演を見せてくれることでしょう。よろしければ、お越しくださいませ。