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『芸人という病』

しれっと、久しぶりの記事です。
『芸人という病』(双葉社)を読了。著者は、マシンガンズの西堀亮さん。
芸人について書かれた本は大好きなので、よく読みます。この本も、当たりでした。
 
「売れてないのに辞めない芸人」総勢六人に、西堀さんがインタビューし、「なぜ辞めないのか」、その答えを探る、というのが本書の内容……なのですが、その答えはすでにタイトルとして示されている。つまり、売れてないのに辞めないやつは、みんな、「芸人という病」にかかっている。「辞められない」という「病気」。
 
西堀さんは聞きます。
「どうして辞めないの?」
登場する芸人さんは、みな異口同音に答えます。
「楽しいから、辞めないんだ」

芸人といるのは楽しい。芸人といるとストレスがない。金じゃないんだ。金とは引き換えにできない、最高の時間があるんだ、芸人をやっていると。でも、金も欲しいんだ。切実に。
揺らいでないようで、揺らいでいる。確固たる信念があるようでも、時に、思いは千々に乱れる。「売れてないけど辞めない芸人」の生々しい声を、うまく引き出しているのは、インタビュアーの西堀さんの手腕だと思います。取材対象の芸人と関係性も築けているからでしょう、「はじめまして」から始まるライターさんでは聞き出せないようなことにも、ちゃんと触れている。
 
僕は芸人じゃなく裏方ですが、それでも、「楽しいから辞めないんだ」という気持ちはよくわかる。今はいいけど、この先はわからない、というのは芸人も作家も同じ。
「このまま続けて、注文来なくなったらどうしよう」という不安は、いつも心のどこかにこびりついている。そろそろ別の分野にも種をまいたり、なにかを積み上げたりしたほうがいいんだろうな、というのはわかっている。
でも、プロットを書いて、打ち合わせに行って、その打ち合わせで笑って、家帰って台本書いて、稽古して本番でウケるのは楽しい。酒もうまい。種をまくとか、積み上げるとかは、いつのまにか忘れている。(でも、やんなきゃな、マジで……)
 
この本の、出版記念イベントの動画ニュースを見ました。
「どんな人に読んでもらいたいか」という記者の問いに、西堀さんは、
「今がつらい人に読んでもらいたい。あなたよりも地獄にいる人間が、のうのうと生きています」というようなことを答えていらっしゃいました。
誰が誰より地獄というのは、一概に決めつけられないけれど、「のうのうと」という表現に、現代を生き抜くヒントがあるように感じました。そういや、この感じ、忘れてたなと。誰かに迷惑かけてないんだったら、のうのうと生きてていいんだよな、この世界。
のうのうと生きましょうよ、皆さんも。特に、メンタル面で疲弊している人は。
 
インタビューに登場する芸人さんのことを知らなくても、十分に楽しめる(という言い方は、この際語弊があるかもしれないけど)一冊です。おすすめです。
 
ちなみに、この本を読んだ流れで、YouTubeの『西堀ウォーカーチャンネル』も観てみました。面白い! 特に和賀勇介さんが酔ってくだを巻いてるところ。水曜どうでしょう味があって、好みでした。
 

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大崎知仁
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