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『芽吹いてみる』

少し考えすぎたのかも。他に何をすべきか解らなくなって。地温5度以下の地表を覆う圧力に負けて。

ずっとずっと体を動かして、生きていく為の糧を得ているから。泳ぐ事を止めない魚のように、動いていないと不安だよ。

僕には一つの夢があった。たわわに実る、稲穂で大地を埋め尽くすこと。たったそれだけの、想像できうる夢だった。

それだけの事なんだけど。叶わないと知った時、深く深く落ち込んだ。踏みにじられるなんて露とも思わなかったから。怒る気にもなれなくて。氷点下30度の氷の圧に踏みつけられ、身震いする、そんな運命の元に生きていく予感もしていたから。

実は、僕は僕の意思で、夢から逃げ出したのかも。踏みにじられたというのは、僕の思い過ごしだったのかも。それほど僕の思いは卑屈で重々しかった。僕は動きたいのに、動きたくなかった。動けない理由がどうしても欲しくて。

春が来て、地面に圧をかけていた雪が消えて、乾いた風が地表を撫でた。悩む事に疲れたし。叶わぬ夢を重々しく考え続けることに飽きたのかもしれない。

季節の変化は否応なしに生き物であるべきものの方向性を決定づけていくようで。踏みつけられても、踏みつけられても、芽吹くことを決定された。

日差しが熱を帯び始めた。だから今年も芽吹いてみる。

写真 小幡マキ 文 大崎航

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