『狂気について』
気付いたら、僕は一人で遊んでいた。僕一人だけが外で遊んでいた。学校のチャイムがなったことすら気付かずに。夜が来たことも分からずに、ずっと虫取りに夢中になりすぎて。
小学校三年生の頃、友だちと自転車でレースをして、トラックと正面衝突した。
宙に放り出され、したたかに頭を強打した僕は、しばらく意識を失っていた。気付くと、興味本意で僕の顔を覗く、友だちの笑い顔、笑い顔。
僕とデッドヒートをしていた友だちは、怖くなって家に逃げ帰っていた。
目立った外傷はなかったので家に帰ったのだけど、気分が急に悪くなった。
トカゲを猫のおもちゃに与えたこと、トマト風味のインスタントラーメンを食べたこと。色んな記憶がごちゃごちゃになって僕はもどしてしまった。
僕は三日間だけ入院した。両親に言わせると、その時から僕は成長することを辞めたらしい。
両親は慌てた。僕は高校生になるまで、死人から採取されたという成長ホルモンを投与された。
それでも僕は懲りたりしなかった。走ることが好きであり続けた。事故の後も、何度も自動車に轢かれかけた。走ることに夢中になりすぎて前が良く見えていなかった。
僕は子供のまんまだった。素っ裸で小学校の校舎の中を走ってみた。その日、姉は泣きながら帰宅した。
大人たちは皆一様に驚いた。友だちは、実は本当の友だちじゃあなかった。
僕一人が狂っていた。僕は狂っていることにすら気付かなかった。
お前は狂っている。僕は狂っていない。
狂って、狂って、狂っていることがお前の全てだよ。僕は狂っていない。
大人たちは軌道修正しようとしたけれど、狂った僕は必ず軌道から外れた。
狂気は自分の中の尺度ではない。他人から見た観念だ。
僕は発狂しそうだ。友は言った。お前は既に狂っているよ。僕は安心した。
狂気とは、ぐいと運命を引き寄せる行為だ。観念を一発の弾丸に凝縮してぶっぱなすことだ。
10000万回の狂気の沙汰は、万に一つ実を結ぶとする。狂気の沙汰を凝縮して弾丸に込めてぶっぱなすと道が出来る。
全ての事象が敵だ。運命を掴み取る道すがら、邪魔立てされたら、狂気を込めた拳で殴って、殴って、殴り付ける。
運命は宇宙のようだ。けど拳に狂気を込めて殴る。運命はそうやって手に入れるものだ。
狂ったまんま、走り抜ける。命懸けで。
やり遂げた時、至福の天国のような風景が待っているはずだ。
写真 小幡マキ 文 大崎航
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