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実は繋がっていた!?花粉症と頭痛のメカニズム


「春先になると、くしゃみや鼻水、目のかゆみが止まらない。それに加えて頭痛まで……」。こういうお悩みをお持ちの方は多いのではないでしょうか。花粉症と頭痛は一見無関係に思われがちですが、実はこの2つ、免疫や神経の観点で深い繋がりが示唆されてきています。

今回は、花粉症と頭痛がどうして同時に起きやすいのか、そしてその仕組みを踏まえた対処法について、専門的なお話をなるべくわかりやすくお伝えします。


花粉症とは? ~アレルギーによる炎症反応

花粉症はスギやヒノキなどの花粉を吸い込むことで起こるアレルギー疾患です。体内には花粉に特異的なIgE抗体が作られ、花粉が粘膜に付着すると免疫細胞が刺激されてヒスタミンやサイトカインなどの化学物質が放出されます。その結果、くしゃみ・鼻づまり・鼻水・目のかゆみなどの症状が起こるのです。

ここまでは多くの方がご存じだと思いますが、「頭痛」となると、少しイメージしづらいかもしれません。実は、このアレルギー性の炎症は鼻粘膜だけでなく、脳や顔面の神経にも影響を及ぼす可能性があるのです。免疫反応が引き金となって、頭痛まで引き起こすというわけですね。


頭痛にもいろいろ:花粉症で増悪する「片頭痛」とは

一口に頭痛といっても、その原因や特徴はさまざまです。なかでも多くの日本人が悩まされるのが**片頭痛(偏頭痛)**と呼ばれるタイプ。ズキンズキンと脈打つような痛みが特徴で、場合によっては吐き気や光・音への過敏症状を伴います。

花粉症が片頭痛を誘発する?

ある研究では「花粉症などアレルギー性鼻炎を持つ患者さんには、頭痛(特に片頭痛)の発生が増えるのではないか」と考察されています。たとえばKuらの研究では、アレルギー性鼻炎の患者さんの約34%に片頭痛がみられたという報告があります(1)。逆に鼻炎をもたない人たちでは4%ほどしか片頭痛がなかった、という興味深いデータです。

また、別の調査(Saberiら)でもアレルギー性鼻炎を有する人では、そうでない人よりも有意に片頭痛の頻度が高いという結果が示されています(2)。これらはいずれも観察研究なので、原因と結果を断定するものではありませんが、「アレルギーが片頭痛を悪化させる一因になりうる」との見方を支持しています。


なぜアレルギーが頭痛を引き起こすのか?1. 副鼻腔~三叉神経の刺激

花粉症で鼻粘膜が炎症を起こすと、副鼻腔(鼻周りの空洞)にも波及しやすくなります。慢性的な炎症や充血によって粘膜が腫れ、そこに圧力変化が生じると、周囲を走る三叉神経を刺激して痛みを伝えることがあります。これが「鼻からくる頭痛(副鼻腔性頭痛)」という考え方です。

2. 化学物質(ヒスタミン・サイトカイン等)の放出

アレルギー反応では、肥満細胞や好酸球からヒスタミンやロイコトリエン、さまざまなサイトカインが放出されます。これらの物質は血管の拡張や神経の過敏化をもたらし、片頭痛の「ズキンズキン」という拍動性の痛みを引き起こすと考えられています。実際に、「アレルギー性鼻炎患者は正常対照群に比べてIgEが高値になる例が多く、ヒスタミンレベルや炎症性サイトカインも上昇しうる」とのデータがあります(3)。


「関連がない?」という報告もある理由

一方で「花粉症と片頭痛に関連は見いだせなかった」という研究も存在します。たとえばGüvençらの研究では、片頭痛患者と健常対照群のあいだでアレルゲン感作率に大きな有意差を認めなかったと報告しています(4)。この論文の中では次のように記されています(原文からの直接引用):

“Even though we did not find an association between migraine and allergic rhinitis, the recent literature supports a correlation between migraine and atopy.”

つまり「自分たちの研究では有意差は出なかったけれど、最近の文献では片頭痛とアトピー(アレルギー素因)の相関が支持されている」というわけです。現時点では「花粉症と頭痛」に絶対的な因果関係を断定するのは難しいものの、研究ごとに結果が異なるのは被験者数や地域差、アレルギーの定義の違いなどが影響していると考えられます。


花粉症の時期に頭痛が増えたら…どんな対策を?

1. 花粉症そのものを軽減させる

花粉症がひどいままだと、どうしても炎症や免疫刺激が持続し、頭痛のリスクも下がりません。まずは花粉症の治療をきちんと行いましょう。たとえば抗ヒスタミン薬をはじめとするアレルギー薬は、鼻炎症状を軽くするだけでなく、場合によっては頭痛の頻度や強度も抑える助けになります。Kuらのデータでも、鼻炎治療と片頭痛発作の頻度に相関があるのでは、という示唆がありました(1)。

2. 頭痛薬・片頭痛治療薬の適切な使用

頭痛が強いときは、市販の鎮痛薬(NSAIDsなど)を活用するのも一つの手です。もし「ズキズキ」「光や音がつらい」といった典型的な片頭痛の症状がある場合は、医療機関でトリプタン製剤などの専門薬を処方してもらいましょう。アレルギー症状の治療+頭痛そのものの治療という二本立てでケアするのがポイントです。

3. 生活習慣の見直し

花粉症と片頭痛はいずれも睡眠不足やストレスで悪化しやすいのが特徴です。花粉シーズンは寝苦しくて睡眠の質が下がりがちですが、寝室の換気・加湿のバランスを整えたり、就寝前に鼻洗浄を行ったりして工夫してみてください。さらにストレスケア(深呼吸や軽い運動、趣味の時間を取るなど)も大切です。


受診の目安~「花粉症に関連する頭痛」かどうか迷ったら

  • タイミング: 花粉の多い時期にあわせて頭痛が出る、もしくは悪化する。

  • 他の症状: 鼻水・鼻づまり・くしゃみ・目のかゆみが同時に強い。

  • 頭痛の性状: ズキンズキンや拍動性(片頭痛型)か、あるいは鼻周囲や前頭部が圧迫される(副鼻腔炎型)。

こういった特徴が当てはまる場合は、花粉症との関連がある可能性があります。ただし、黄色いドロッとした鼻汁や発熱、痛みが長期化している場合は副鼻腔炎など別の病気が絡んでいる可能性もあります。花粉症だけと自己判断せず、早めに脳神経内科や耳鼻科の診察を受けることをおすすめします。


まとめ:花粉症と頭痛の繋がりに気づいたら、早めの対処を

花粉症と頭痛、特に片頭痛は「まったく無関係ではない」ことが、いくつもの研究や臨床経験から示唆されています。炎症や免疫系の活性化が神経に影響を及ぼして、頭痛を誘発または悪化させるシナリオは十分あり得る話です。実際に、アレルギー性鼻炎患者さんに片頭痛が多いとする報告(1)(2)もあれば、有意差は出なかったが関連を示唆する文献は存在するという報告(4)もあります。

大切なのは、「花粉症と頭痛は関係ない」と諦めず、総合的に症状をみて適切に治療することです。花粉症の治療を強化したら頭痛が楽になるケースも少なくありませんし、逆に頭痛持ちの方が花粉症シーズンをしっかり乗り切ることで発作回数が減ることもあります。つらい頭痛にお悩みの方は、ぜひ一度「花粉症が関係していないか」も視野に入れ、早めに医師へ相談してください。

「鼻も頭もスッキリして、この季節を少しでも快適に過ごしたい」――そんな願いに向けたヒントとして、本記事が皆さんの役に立つことを願っています。


引用文献

  1. Ku M, Silverman B, Prifti N, Ying W, Persaud Y, Schneider A. Prevalence of migraine headaches in patients with allergic rhinitis. Ann Allergy Asthma Immunol. 2006;97(2):226-230. PMID: 16937766

  2. Saberi A, Nemati S, Shakib RJ, et al. Association between allergic rhinitis and migraine. J Res Med Sci. 2012;17(6):508-512. PMID: 23267305

  3. Kemper RH, Meijler WJ, Korf J, Ter Horst GJ. Migraine and function of the immune system: A meta-analysis of clinical literature published between 1966 and 1999. Cephalalgia. 2001;21(5):549-557. PMID: 11531880

  4. Güvenç IA, Acar M, Muluk NB, Kucukcan NE, Cingi C. Is there an association between migraine and allergic rhinitis? Ear Nose Throat J. 2017;96(6):E18-E23. PMID: 28628630