スター顧客の行動ペルソナの“次”をどう描くか【2023/4/18 KEEN meetupイベントレポート②】
登壇者
合同会社カラフル代表 小笹文さん
KEEN株式会社CEO 小倉一葉
*以下敬称略
イベントレジストはどうやって成功したか
小倉
みなさん、本日はお時間いただきありがとうございます。まず、小笹さんの紹介をさせていただくと、リクルート、Googleを経てイベントレジスト株式会社を共同創業され、COOとして営業・マーケティング、経営管理部門の立ち上げをされていました。2019年にイベントレジストを日本経済新聞社にM&Aされ、その後合同会社カラフルを創業、現在はBtoBマーケティングや経営全般のコンサルティング業務を行われています。イベントレジストというサービスは、皆さんコミュニティをやられていたら一度は使ったことがあるのではないかと思います。そんな小笹さんからイベントレジストを創業された時のペルソナの作り方やターゲティングの作り方を伺い、コミュニティマネージャーの皆さんには、どのような人を自社にとってのスターにしていくべきなのか考えていけたらと思います。よろしくお願いいたします。
小笹
よろしくお願いします。
小倉
まずはエンドユーザーさんの行動特性や分析に関して、どのようにペルソナを作って行ったのかお話を伺いたいと思っています。小笹さんの考えるフレームワークからお話を伺えますか?
小笹
まず、ペルソナはターゲットとは違うというのは大前提で、ペルソナは完全に個人レベルにまで細かく設定していくのがセオリーだと思います。イベントレジストの場合はペルソナを3つ設定していました。元々プラットフォームとしてはBtoBのイベントのレジストレーションができるもので、使う人はいろいろ想定できると思います。その中で、カンファレンスを一年に一回やるような責任者、毎週セミナーを回しているようなマーケチームの担当者、全く違う業界でBtoBの展示会などをビッグサイトや幕張メッセでやっているような展示会事務局のIT担当という風に大きく3つのペルソナを設定しました。
小笹
最初にカンファレンス関係のところでペルソナを考えたときに、カンファレンスの担当者や企業のセミナーの担当者はイベントを外注したりすることも多いので、イベントの制作会社の担当者をペルソナにおいてみました。しかし、営業をしている中で実際に決裁するのはカンファレンスの責任者だということが明確になってきたんですね。皆さんおわかりいただけると思うんですが、BtoBマーケティングの人は会社の中で一人でやっていたり、検討者=決裁者(=責任者)だったりすると思います。だから制作会社の担当者は目先でこういう機能があるといいなと思いがちなんですが、実際に責任者に話を伺ってみると、その機能よりも、参加者にとって快適であることや、他の部署との連携がどうしても発生してくるので、他部署とスムーズに連携できることのプライオリティが上がってくることがわかりました。そのため、提供する機能は同じでも伝える言葉が変わってくるということが、イベントレジストで大きく学んだことでした。このペルソナをきっちり決め込んだ後に、イベントレジストでは一年間に250くらいのブログの記事を書き、先程の3人のペルソナの人たちが興味をもってくださり、インバウンドでお問い合わせいただくようなフローを作りこんでいったという感じです。
ペルソナはカスタマージャーニーで考えよう
小倉
ありがとうございます。ペルソナを作っていくというところに関して、コミュニティでもファーストピンやスターになるような方のペルソナを作っていらっしゃる企業があると思うんですけど、マーケティングはどちらかというとファネルじゃないですか。このターゲットを決めていくということとペルソナを描いていくということをどの様に区別されているのかお話を伺えればと思います。
小笹
マーケティングの施策を考えるときにはファネルで考えたほうが整理しやすいですね。ファネルは結局一番上のところからどのくらいの確率で成約まで持っていけるかなので、その確率と一番上のファネルで拾えるパイが大きければ、当然成約数も増加することになります。この施策をやることでどのくらいファネルのトップラインを広げるのか、高確率でナーチャリングに結び付けられるのかを考えたほうがいいと思います。
一方、ペルソナを考えるときは徹底的にカスタマージャーニーだと思っています。カスタマージャーニーと言うとまっすぐな図を思い浮かべる人も多いと思います。しかし、実際にはお客様はこちらが思った通りに進むわけがないし、自分たちのリード情報に入る手前で50%以上の人たちが自分たちで調べ物をしたり、コミュニティなどで情報交換したりするというデータも出ています。事業者側がお客様をコントロールするというのは大変おこがましいことです。なので私はまずペルソナを明確に定めてきちんとそのペルソナを理解しようと思っています。
小笹
カスタマージャーニーを考えるときのポイントとして、私がいくつか大事にしていることとして、まずとにかく広く考えることがあります。自分たちのナーチャリングのプロセスとも併せて、リードに入った後のカスタマージャーニーとして、どのような働きかけをすれば次のステップに進むかをすごく考えると思うし、とても大切なことだと思います。しかし、先程もお話したようにお客様はそこに入ってくる前に相当勉強し調べていると思うので、その際(リードに入る前)何をしているか捉える方がよほど重要なんですね。だから分からなかったら実際にペルソナだと思う人に聴きに行ってみるということを徹底的にやってみて、とにかく広く捉えることが重要です。
二つ目はスペックだけじゃなくて具体的な行動や気持ちを考えることです。これもターゲットと混同している人は本当にやりがちなんですが、ペルソナは何かと聞かれたときに「IT業界の部長職の人」と言ってしまうわけですよ。これ(ペルソナを業種や役職で捉えること)は全く的外れで、ペルソナは本当に人そのものなので、その人がどの様に行動していてどの様に考えてモチベーションは何で、何をすると嬉しいのかというところまで分解しきることが大切です。
もう一つ、BtoBのビジネスで当たり前のように大切なのがステークホルダーです。あらゆる部署にいろいろなステークホルダーがいて、それをカスタマージャーニーの中で捉えていくことも必要になります。あとは何より、自分たちがペルソナに対して価値提供をすることで、そのペルソナはどの様に変化するといいなと思っているかによって、自分たちが何を価値提供するかというのは変わってくると思うので、ここも併せて考えられると良いと思います。
コミュニティにペルソナはなぜ必要なのか?
小笹
では、なぜコミュニティにとってペルソナが必要なのかですが、理由はシンプルに考えると3つあると思っています。コミュニティに関してはどんなテーマを投げかけるか、やればやるほどネタも尽きるので迷っていくわけですよね。しかしペルソナが見えていると比較的やりやすいですね。何を提供すればこの人は喜んでくれるだろうというところが明確になってくるので、多少エッジが効いていると感じても、究極的にはペルソナが喜んでくれればいいので、挑戦的なテーマにもチャレンジできるというところがあります。
もう一つは、KPIの幅が広がることです。コミュニティではKPIをどう設定すればいいのか迷いがちだと思います。しかし、ペルソナが明確だと、単純に参加者だけでなく、参加者の中で自分たちのペルソナに合った人たちがどのくらい来ているのかというところをKPIに据えられるし、例えばそうではない人に関しても、どれだけペルソナ的な人たちに転換したかも見て取れるわけですよね。その点でいろいろ幅は広がるかなと感じます。
後は、招かれざる客問題も減らせます。みんな最初は(たとえペルソナではない人が来たとしても)興味を持ってきてくれたから嬉しいんですけど、やればやるほど「私たちはこの人たちに対して何をやっているのか」と正直考えてしまい、疲労感が出てくることもあると思うんです。これはペルソナが明確になっていると、語弊を恐れずに言えば、その人たちは自然と淘汰されていくんですよね。これもペルソナを定めるメリットかなと思います。
小倉
コミュニティが内輪になりすぎなかったり、オープンで成長していくコミュニティにするときに、この招かれざる客問題やペルソナがきちんと設定できていないという状況は良くないですよね。気づけば違う方向に企画が進んでいってしまったり、本来事業会社としてマーケティングの全体像としてはシナジーがあった方が良いのに、コミュニティが離れ小島になってしまうことも起きてそうですね。
小笹
コミュニティマネージャーの人はみんなホスピタリティに溢れているので、招かれざる客だと思っていても対応しなくてはと思ってしまいますよね。私が本当に思うのは、コミュニティ自体はコントロール出来ないんですよ。「コミュニティに集まった人たち」をコントロールするというのはそれこそおこがましい話なんですけど、「コミュニティに来てもらう人」をコントロールすることはコミュニティマネージャーは出来るはずなんです。そこを頑張るためにもペルソナが必要というわけです。
コミュニティと事業は4象限で考える
小笹
コミュニティマネージャーさんは、会社の中で孤独で、まだ理解を得られないことがまだ多いと思います。印象に残ってるエピソードとして、ある企業のコミュニティマネージャーさんは「毎日飲んでていいね」って同僚に言われたそうです。やはり事業の中でコミュニティがきちんとパズルのピースのように組み合わさった状態を作らないと、BtoBのコミュニティは持続可能な状態にならないと思って、考えた4象限がこれ(上の図)です。縦軸の共感・反発は事業のビジョンに対して共感してるか合わないと思っているかで、横軸はニーズの声の多寡です。一番コミュニティマネージャーにとってもコミュニティに来ている人たちにとっても心地いいのは第1象限(上図右上)の人たちです。事業の理念に共感をしていて、みんな同じような要望をするので、これがコミュニティにおけるフォロワーで、発信量が多い人がスターになっていったりするなど発信者側に回ってくれます。この人たちは主に役割としては、社外に対して広げていってくれる人たちで、本来のコミュニティマーケティングの第一のメリットもこれだと思います。
一方で事業にとってみると、私は第2象限(上図左上)の人たちがとても大切だと思っています。事業に共感してくれていて、コミュニティにも参加してくれているんだけど、とてもニッチなフィードバックをしてくれる人で、これが私はイノベーターだと思っています。みんなとは少し違う意見だけどとても大切だと思っています。なぜかというと、特にSaaSのビジネスは最大公約数で機能を作っていくようなビジネスモデルなので、第1象限の人たち(スターやフォロワー)の意見ばかり聴いてプロダクトの改善をしがちだと思います。これももちろん重要なんですが、結局のところ、SaaSのビジネスだと、人気のある領域には次々と他のサービスが参入してくるので、次第にサービスのユニークさが失われていきます。その中でもユニークさを出していくときに重要なのがイノベーターたちの意見だと思います。この中の意見から会社の理念にマッチしてユニークさを発揮できるものを社内にフィードバックができるというのがこのイノベーターの役割だと思っています。この第1象限と第2象限の両方を併せ持って活用していくというのがコミュニティにとっては重要だと考えています。
小倉
確かにマーケティングの部門でコミュニティのメンバーを見ていこうとなった時には右上の軸をどうしても集約していきたいですよね。ただ、コミュニティが成長していくにしたがってフィードバックループや製品のフィードバックのところに活用されたり、コミュニティのメンバーの方が社内の営業の方とお話をしたりとそういった機会をとられている会社さんもいるという風に伺っています。だからそもそもこの粒になるようなペルソナをきちんと描くことが大切ですよね。
小笹
そうですね。だからここの人たちが明確になるには大前提があって、コミュニティに来てほしい人たち、ペルソナに相応しい人たちが来ていることが必要で、少し段階を踏む必要があると思います。その段階ごとに応じて自分たちのコミュニティの成熟度合いを測ってみてもいいかと思います。
ペルソナを全社の共通理解にして組織間を連携!
小倉
ありがとうございます。それで言うと、特に日本では、カスタマーサクセス側でのコミュニティが多いと思いますが、カスタマーサクセスや営業部だとどうしても売り上げベースやLTVをメインにお客様の大事さを決めがちだと思うんですよね。この考え方はコミュニティの考え方とは違うと思っていて、結局大きい企業のお客様を重視するようになってしまうと、旧来型のハイタッチの営業の仕方と変わらないコミュニティになってしまうのではないかとも思いますが、これに対してどのように考えていくべきだと思いますか?
小笹
私はカスタマーサクセスよりのコミュニティも必要だと思っています。おっしゃる通り、やり方を間違えると楽な営業フォローツールみたいになってしまうので、それはすごくもったいないと思っています。冒頭のイベントレジストの話に戻ると、同社ではコミュニティはやってはいなかったのですが、イベントの主催者に対するフォローは相当やっていました。その際にペルソナに合致する方々からいただいた質問は全てヘルプページに反映していました。これはそもそもペルソナに合致する方々の疑問は予め解決しておかなければいけないということで、営業フォローの意味合いだけでなく、そこからどうレバレッジを効かせられるかを考えた方がいいと思っていました。そういった意味で他のチーム・組織との連携が必要になってくると思います。
小倉
そうですね。そうなった時にコミュニティマネージャー初心者の人にとってはどのようにペルソナを描いていくのが良いのでしょうか?
小笹
大切なのは、本当に生きた人間をイメージさせる解像度にすることで、決してテンプレートを埋めることではないんですよね。埋めながらその人の状況を解像度をとても高くして妄想するということがすごく大切で、そうすることでペルソナとなる人が何を大切にしているかがよくわかるんです。(イベントレジストの場合)カンファレンスの担当者にとってはイベントでお客様に喜んでもらうことはとても大切ですが、担当者にとっては営業の人との関係性がとても重要だったりします。毎日営業の人に、誰が申し込んでいるのかをほぼリアルタイムで伝えることのプライオリティがものすごい高かったりするので、実際には申し込みの仕組みも大事ですが、毎日営業の人に申し込みがあったことをメールで送信する機能が実は大切だったりするわけなんです。こういったところまで解像度を落とすと、どのように自分たちのサービスを伝えれば即決してくれるかが分かるので、そのレベルまで解像度を上げることが大切だと思います。
小倉
確かに。ペルソナとして描いた方がどういう人と接点があって日常的にどのようなことに困っているのかをいう詳細なレベルで分かったら、製品の方にもフィードバックを出せますよね。さらに、マーケティングの困りごとが解決されるならイベントレジストを使ったほうが良いというマーケティングメッセージにもつながるということですよね。
小笹
そうですね。特にBtoBのビジネスだと、部署間で連携するということはとても大きいと思っています。お客様が本当に必要なものに対して、部署によって全く解釈が異なることはよくありますよね。これを束ねるカギは「お客様が必要としているから」でしかないと思っていて、そのお客様とは誰かを共通言語化させるのがペルソナだと思います。そして、ペルソナはマーケティング部門だけのものにする必要はなくて、むしろ「これがうちの会社のペルソナだ」と言う風に関係のない部署の人にも共有していくのが良いと思います。そこでペルソナに対して指摘してくれる人がいるかもしれません。そうしたらアップデートをしていけばいいだけなので、ペルソナを全社の共通理解として共有しておくというのは、絶対に必要だと思います。
コミュニティマネージャーは可能性の塊だ!
小倉
そうですね。しかも、たくさんのお客様と接することができる担当としてのコミュニティマネージャーだからこそペルソナを描きやすいですよね。幅広くいろいろな規模のいろいろな使い方をするいろいろなお客様を見れているというのはマーケだけでもカスタマ―サクセスだけでも営業だけでも難しいけれど、コミュニティマネージャーであればその役割は担えると思いますよね。
小笹
そうですね。だから私個人的にはコミュニティマネージャーの人のキャリアはものすごく可能性があると思うんですよね。コミュニティマネージャーは社内のつなぎ役と捉えられると思っています。コミュニティマネージャーをマネージする人はこれを会社に対してコミットすることが大切です。お客様から頂いた声をプロダクト側にフィードバックするなどの橋渡し役をすることによって、PM(プロジェクトマネージャー)の方にとってみたら開発の優先順位を自信をもって決められるじゃないですか。開発の方に、なぜこれをすぐにやらなくてはいけないのかを明確に説明できると、開発の方にとってもスムーズに動けます。営業の方にメリットがあるのは皆さんご存じだと思います。さらに、カスタマーサポートなどの問い合わせ対応をしている人にとってみても、あらかじめ想定される疑問を解決するためのコンテンツも用意しておけるので、コミュニティマネージャーはあらゆる部署の橋渡し役になるはずなんですよ。さらに経営者にとってみると、コミュニティマネージャーの後ろには多くのペルソナに近いお客様方がいるわけで、ぜひコミュニティマネージャーの人には胸を張ってほしいですね。そのお客様の声を代弁する人としての立場を上の人たちは徹底的に守るべきだし、コミュニティマネージャーの人はどんどんお客様の声を届ける人として社内で振舞っていただくのが良いと思います。
小笹
コミュニティマネージャーの人のように、会社がやりたいこともお客様の希望も理解している人は会社の中でそういません。とてもフラットにお客様に感情移入しながら会社に働きかけられるので、社内の人と接するときも自信を持っていいと思っています。キャリアのことで言うと、本当に無限のキャリアステップがあると思っています。お客様の声を理解しているからPMも向いているし、新規事業を作ったり、営業もできるだろうし、本当に可能性しかないと思うので楽しみです。
小倉
ありがとうございます。ぜひコミュニティマネージャーの方々もそうなんですけど、マーケティング部門長の方や経営者の方にもコミュニティを事業のコアの資産にしてもらい、一部の部門だけのコミュニティにせずにやっていけたらと思っております。本日はありがとうございました。
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