天パとの歩み
「髪伸びたな」
風呂で鏡の自分を見て気づく。ぼさぼさだ。
こんな髪型ではモテない。やばい。早よ切らねば。というより、切りたい。
思い返せば、天パとは長い付き合いだ。中学1年の時に坊主にしたら突然変異で下の毛のような髪の毛が生えてきた。かれこれ13年のお付き合いである。熟年カップルだ。
幼少期、自分で言うのもなんだが、強烈にキュートだった。髪の毛はツヤツヤのさらさら、アイドルみたいな髪の毛だった、たぶん。
なぜだ。なぜ、あの時坊主にした、、、。何度思い返しても悔やまれる。坊主にした影響で父型の遺伝子が目を覚ましたのだ。
遺伝子が語りかけてきた
「くるくるな髪の毛、出番よ!」良い迷惑である。
そこから、少しの間は仲良く生活していた。天パもおしとやかだったのだ。サラサラよりくるくるの時代やろ!厨二病を拗らせていた僕は調子に乗ってほざいていた。
ところが、高校に入った頃、何やら異変が。
究極にぐるぐるし始めたのである。明らかにくるくるではない。ぐるぐるである。
天パ度合いで雨が降るか分かるようになり、髪が伸びると鳥の巣に成り果てた。男性ホルモンが増加したのだろうか。いやいや、そんなことはどうでもいい。天パの回転数がトリプルトゥーループである。いや、何を言っているんだ。
まず、朝、セットが大変。髪を一度洗って乾かさないとえらいことになる。梅雨の時期は詰む。湿気で頭が暴発する。短く切れば、岩海苔だ。ぺったんこになる。
そして、いじられる。ひたすらにいじられる。馬鹿みたいに騒いで、遊びで言い合いになっても「うっさい天パ」のオンパレードである。自分に天パが乗っているのか、天パの一部が自分なのか。わからなくなる。
パーマ当てんねん!という友人には「ほんまにやめとけ、俺みたいなんぞ」と真剣に悟した。金払ってまでなんでパーマになろうとする!意味がわからない。絶対ストレートの方が楽!ストレート命!
そして、大学生になりとうとう決意する。
「縮毛矯正を当てよう」と。
実はその頃の自分はすでに天パを我が物にしていた。ツーブロックにして髪をすいておけば自分の才覚、通称天パをそこそこ活かすことができるのだ。
だが、どうしてもあの頃のキュートな自分の髪の毛をもう一度取り戻してみたかった。決意が固まり、予約を取り、いざ美容室へ。低めの紳士的ボイスでいざ、「縮毛矯正お願いします」
・・・
あれ?どうした?おにいさーん?どうされました?
沈黙を破り散髪屋のお兄ちゃんがこう一言
「カッパみたいなるよ」
カッパ?あの、皿を上に乗せた妖怪のことか?
僕はとうとう「天パ」を超えて妖怪になるのか?
いやいや、そんなはずはない。今の縮毛矯正はすごいと噂だ。
「カッパ、、、。どういうことですか?」混乱し即座にお兄さんに問いかける。するとお兄さんから的確な回答が。
「髪すきすぎてるから今縮毛矯正したら毛量なくなって髪ぺターンってなると思うわぁ。今の方がボリューム出ていいんじゃない?」
想定外とはこのこと。良かれと思ってしていた「髪をすく」という最強技が仇となったのだ。ぐはっ!ダメージが大きい。しかし、男たるものこのまま引き下がるわけにはいかぬ。決意は固い。
僕「でも、サラサラな自分に戻ってみたいんです!」
お兄さん「じゃあ、前髪だけしてみたら?」
きたぁぁぁああああ!何という名案!!
革命である。これでカッパにならずともサラサラ髪を我が物にすることができる!
即答でお願いします!と前髪のみ縮毛矯正を当ててもらった。
ほんとにすごいのだ。縮毛矯正。革命である。ぐるぐるの髪の毛がサラサラだ。生まれ変わったのだ。無事、妖怪への闇堕ちも免れた。
自撮りを取り速攻友達に報告。晴れて生まれ変わったよと。おめぇたちいじってきたけど、どーだみたか!俺もサラサラヘア手に入れたぞ!うぉぉおおおお!!
3日後
天パが恋しい。涙である。失って気づくものがあるのだ。天パはいつしか自分のアイデンティティとなり、誇りとなっていたのだ。鏡を見るたびに「俺の天パ、、、。」としゅんっとなった。俺の相棒は天パだけだ。
そんなこんなで、今では縮毛矯正をしようとは一才思わなくなった。毎朝髪の毛を洗わねばならぬし、暴発を超え、爆発するが、まっ、これも天パの良さかと割り切る。子どもたちもいじってくれる、写真見てもどこに自分いるかすぐ分かる、アメダスの役割も果たす。天パおめぇがいなきゃ、俺じゃねぇぜ。
ありがとう天パ。愛してるよ天パ。毎朝髪を洗いながら、天パに感謝を伝える。
こうして僕は天パと愛を育んだのである。
はぁ、、、、、、、、、。
「早よ髪切ろ」
おしまい