経営の見える化「私は会社が大好き!」Vol.3
能勢鋼材株式会社の試み③ ー統合報告書を作ってみましたー
ワークショップの開催により社員の皆さんの会社愛を肌で感じたのですが、経営陣にはまだ少し悩みがありました。
あと10年もすると経営陣が代替わりすることになりますが、次代の幹部候補となる中間管理職層に「経営を自分のこととして捉えてもらうにはどうしたら良いだろうか…」というものでした。
これまで様々な改革を実行し、順調に業績を伸ばしてきた能勢鋼材ですが、専務取締役の能勢善男氏は先のこともしっかり考えていたのでした。
そこで、私は統合報告書作成に取り組むことを提案しました。
「統合報告書?」あまり聞き慣れない言葉かもしれません。
統合報告書とは?
近年、CSRレポートやサスティナビリティレポートなどを通じて企業の社会的責任を示す試みが増えています。
特に、2013年に国際統合報告評議会(IIRC)によって統合報告フレームワークが発表されて以降、大企業においては財務情報と非財務情報を統合して企業の価値創造と社会への貢献を示す統合報告書を作成する動きが広がっています。
日本国内では2023年において、大企業を中心に934社が統合報告書を発行しています¹。
「なんだ、大企業の話?」と思うかもしれませんが、そうではありません。
少しですが、中小企業が統合報告書を作成する事例も出てきています。
統合報告書は、自社が有する資源がどのように価値を作っていくかを見える化することで、自社が創造する価値や社会に与える影響を外部の人に理解してもらいやすくなるレポートなのです。
統合報告書作成プロジェクトスタート!
能勢鋼材では、統合報告書を作成するために、総務、製造、営業、品質管理、サプライチェーンなどの各部署の30歳代、40歳代の中間管理職6名からなるチームが編成されました。
大阪デザインセンターの内海がファシリテーターとなり、統合報告フレームワークを解説していきました。
それに沿ってチームメンバーの皆さんが一つ一つ社内の資源の掘り起こしを行い、それらを使って
「自社のビジネスモデルはどのようなものがあるのか?」
「ステークホルダーは?」
「社会との関係性は?」
「将来の姿は?」
と、議論が積み重ねられました。
月2回のワークショップ、約6ヶ月間をかけてようやく全体が見えてきました。それ以外にも社内のメンバーだけで集まって何度も話し合い、意見を戦わせました。
そして、パワーポイントにまとめた報告書のエッセンスを、総務の石田さんが10月下旬に開催された能勢鋼材の全社大会で発表しました。
例年、全社大会では新年度の事業方針や目標の発表が行われるのですが、今年は初めて取引のある金融機関を招いたそうです。
私もお招きいただき、聴かせていただきました。
プロジェクトを通して見えてきたもの
できあがった統合報告書はまだまだ荒削りであり、ブラッシュアップが必要かもしれません。
しかし、その議論や作成過程をずっと観察してきた私には、チームメンバーの発言に変化が出てきたのが感じられました。
しかも、能勢鋼材では統合報告書の作成に取り組むのは初めてです。上司も幹部も誰も教えてくれません。全部自分たちで考え、組み立てていかなければならなかったのです。
そして、会社の将来あるべき姿を明確に描いた時には、それを担っていくのは自分たちなのだという意思が感じられるようになりました。
また、作成過程ではまとめ役が必要になり、途中から石田さんがまとめ役を買ってでて、リーダーシップを発揮されることにもつながりました。
たった6ヶ月間の取組みでしたが、統合報告書を作成する過程で、チームメンバーは能勢鋼材の魅力を改めて知り、社会と関わりながら成長をしていることを強く実感したようです。
能勢専務がもくろんだように、中間管理職が「経営を自分のこととして捉える」ことに少しは貢献できたのではないかと感じています。
さて、この統合報告書のプロジェクトメンバーの活躍が素晴らしいものであったため、会社案内を兼ねたカタログ制作も任されることになりました。
その様子は、次号で報告したいと思います。
¹企業価値レポーティング・ラボ「国内自己表明型統合報告書発行企業等リ スト2023年版」
文責 大阪デザインセンター 内海