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災害支援の最前線で必要な三者連携のあり方とは? 第26回定例会レポート

2025年2月10日13時半から、大阪市内の大阪府社会福祉会館でおおさか災害支援ネットワーク(以下、OSNと略します)第26回定例会が開催されました。

23団体、会場に43名、オンライン(Zoom)に21名の参加者が集まりました。定例会の様子をレポートします。

日本防災士会大阪府支部の三島さん

司会は三島さん(おおさか災害支援ネットワーク世話役・日本防災士会大阪府支部)が進め、オープニングは、OSNが三者連携を結んでいる、大阪府と大阪府社会福祉協議会(以下、大阪社協と省略)から現状の取り組みについて情報共有がありました。

大阪府危機管理室災害対策課の城坂(しろさか)さん

大阪府の城坂さんからは今後の災害に関する施策の情報発信提供がありました。

大阪府社会福祉協議会の本田さん

大阪社協の本田さんからは、災害ボランティアセンターの運営シミュレーションの報告がありました。

泉北のまちと暮らしを考える財団の宝楽(ほうらく)さん

OSN世話役の宝楽さんからは、OSNが取り組む事業について行政・市町村社会福祉協議会の防災に関するアンケートをもとにした報告がありました。アンケートの結果を踏まえ、今回は三者連携について深く考えるきっかけになる方々がゲストに呼ばれました。

市町村圏域の三者連携の必要性と現状について

14時からは全国災害ボランティア支援団体ネットワークJVOADの事務局長・明城さんから能登半島地震の情報共有会議などの報告がありました。少しダイジェストでお届けします。

全国災害ボランティア支援団体ネットワークJVOADの事務局長・明城(みょうじょう)徹也さん

明城さんは最初に「被災者支援とはどういうことなのか」についてスライドをもとに語りました。

ポイントは、支援を行うには、被災した人がどこでどんな状況になってるのかをしっかり把握することだといいます。

さらにこれらの現状を把握するための力は、各都道府県、市町村、官民連携を含めて、どれぐらい準備されているのかが毎回問われると話します。これらの実情を踏まえて三者連携の話にうつりました。

「災害中間支援組織が、NPO等の調整を行い、さらには行政、社協との橋渡し役をすると位置付けられてきていて、47都道府県のうち、今年度は23の都道府県に災害中間支援組織があるというような状況です。ただ一方でそれらの組織も、まだできたばっかりで、ようやく動き出した状況です。その中で、市町村との繋がりをどうしていくのかが課題です。」

次に三者連携を具体的にどういう支援をカバーしていくのかの話題になりました。

「例えば上記の支援を行政の制度でできる部分はどこなのか、社協のボランティアセンターでカバーする部分はどこなのか、NPOがたくさん活動することでできる部分はどこなのか、なおかつこの三者では対応できてないところはどこなのかを確認しながら進めることによって、支援の漏れがないような状況に繋がるのではないかと考えています。」

「能登半島での被災支援の連携がどうだったのか」の情報共有会議

また、分野ごとに市町村を縦軸、横軸で表した表をもとに、「テーマごとに誰がどこでどういう活動しているのか、前述の三者でしっかり見ていき、縦横の目が細かければ細かいほど漏れがない網になる」といいます。

ここから能登半島での情報共有会議の話題に移りました。こちらの地図は2024年6月時点、地震発災から半年ぐらい経った時に、JVOADでカウントした団体数であり、のべ317団体が市町村ごとに入っていったといいます。

被災の大きかった5つの市では、現地に入った団体や災害VCを中心に情報共有会議が立ち上げられ、定期的に開催されていました。


市町村の情報共有会議での主な話題

次のスライドは市町村の情報共有会議での主な話題についてです。

1月の早い段階で、車中泊や外国人支援、ペット避難の問題など、幅広く取り上げられていたことがわかります。

「車両証の発行はさまざまな団体が不審者と間違われてしまうので、ちゃんと行政と連携している団体だとわかる車両証を発行してほしいという話が出ていました。」

1月から4月まで継続して話し合われたのが食事の問題だったといいます。住民の困りごとがストレートに情報共有会議にあがっていったのが見て取れます。

「特に廃棄物については、市町村ごとに回収の仕方も違えば、仮置き場の出し方も分別の仕方も異なっていてかなり混乱をしていたので、県域でそれぞれの状況を調べ、そうした状況を踏まえて、県や国とも協議をしていました。」

市町村域だけでは解決できないものを都道府県でしっかりとサポートするような関係性が本来必要だと明城さんは感じたものの、災害が起きたあとにネットワークを築き、情報をどう扱うかルールを決めないままスタートしたため、多少ギクシャクしながらやらざるをえなかったのが能登半島地震の際の課題だったといいます。

最後に明城さんは国の動きについても語ります。

「能登半島地震を踏まえて、NPOや民間企業が災害対応に積極的に参加することを謳(うた)いはじめています。あらゆる主体が総力戦で挑むことを、掛け声はかかっています。ただ、具体的にどうするかは本当に市町村域から考えていかない、非常に大事なテーマだと思っています。」

西日本豪雨で被災にあった、お年寄り介護の事業所「ぶどうの家」の事例報告

次に「ぶどうの家」の津田さんから先進事例の報告がありました。

ぶどうの家の津田さん

倉敷市にある、お年寄り介護の事業所「ぶどうの家」を運営する津田さんは、2018年6月に起きた西日本豪雨の被害で被災したといいます。51名の方が亡くなり、そのうち45人の方が65歳以上だったこと、その中にぶどうの家の利用者さんもいたことなどの報告からはじまりました。

「7月7日に被災をした時は在宅の利用者さんたちを1人1人回って、避難してもらいました。私たちは小学校に行きましたけれども、その直後にその分館に移りました。」

倉敷市・薗小学校横の薗公民館を避難先として、10月28日までの約4か月を過ごした
https://budonoie.amebaownd.com/pages/2459326/page_201812181255

小学校の分館に移った際、行政の方から「ぶどうの家」の利用者は2階に上がりなさいと言われたといいます。

「でもその時、認知症のおばあちゃんは行方不明になるかもしれない、おじいちゃんの方は転ぶかもしれないという状況でした。その話を聞いた地域の方が『これからぶどうの家の利用者が来るんだから、教室の2階なんて無理に決まってるでしょ』と行政の方に言ってくださったそうです。日ごろから地域の方にぶどうの家のことを知っていただいていて、本当にありがたかったと思いました。」

分館で過ごしている間は、津田さんにとって辛い時期だったと語ります。さまざまな団体が来館し、「ここには何人いますか。何歳ですか。疾患はありますか」とほぼ全員に聞かれていたのだとか。

「何か助けてもらえると思って丁寧に答えていましたが、結果ほとんど何も返ってこない状況で、何のために聞いているのか聞くと『状況を把握するためです』と言われ、非常にショックを受けました。地域の方が連携の会をつくってくださって、そこで情報共有ができたということがありました。」

洗濯機が撤去されそうになり、三者連携について考えた

隣の小学校の避難所が閉鎖された時、津田さんたちが使っていた洗濯機まで撤去されそうになったそうです。

「洗濯機を使っているので『待ってください』と言うと、『私たちは部署が違うので、別の部署に言ってください』と言われました。これもとても辛くて、どうして情報が行政の中で繋がってないんだろうと思いました。

また、避難していた公民館に倉敷市役所の職員は1度も来られていないんですが、私たちはやっと仮設の事業所を見つけたんです。ここで仮設の事業をはじめる報告に行った時に、『その場所は小規模多機能としての施設基準を満たしてますか』と尋ねられました。お風呂もない、台所もないところで4ヶ月も過ごしてきた私たちに、なぜそんなことを今問いかけるんだろうと思い、悲しくなりました。いったい私たちを誰が助けてくれるんだろうかと悩み、苦しむ時期でした。」

現在は避難機能付き共同住宅を運営し、利用者のみんなが気に掛け合った暮らしをずっとしてくれているといいます。

目の前の人が敵なのか味方なのかだけで判断せざるをえなかった

津田さん自身は、災害支援ネットワークにも参加はしていたものの、あまり理解できておらず、資料をもらってやっと、「大きな渦の中で、皆さんが動いてくださっていた」と語ります。

「被災直後は、私自身が感覚的に鋭利な刃物のようになっていて、目の前に現れる人が敵なのか味方なのか、それだけで判断するしかなかった状況でした。だから行政の方も、社協の方も、福祉事業所も、みんなそれぞれの持ち場で、一生懸命に動いていたと思うんですね。実際、行政の方の中に被災者もいましたし、とても苦しい思いをされていたと思います。だけども、そういう相手の方のことを理解するとか、思いを馳せることができなかったと思います。」

例えば「施設基準に該当してますか」という問いかけも、もしかすると自治体職員の方はゆくゆく津田さんたちが事業をしていく中で、誰からも文句言われないための配慮だったかもしれないと津田さんは分析します。

「洗濯機が撤去されそうになった時も、もしかすると市役所の中も大混乱していて情報が行き渡ってなかったかもしれないとも思います。でも、それは今だから思えることで、あの時は本当に傷つきました。そうならないためにも、日頃から行政や地域の方に自分たちのことを知ってもらい、相手のことも知っておく関係性を築いておくことが一番大事だと思います。」


高槻市防災ネットワークの事例報告

次に高槻防災ネットワークの報告がありました。

高槻市社会福祉協議会の石原さん
高槻市防災ネットワーク事務局長の巽さん

最初に高槻市社協の石原さんより、社協、高槻市、高槻市防災ネットワークとの三者連携の発足が2018年6月18日に起きた大阪北部地震がきっかけであったことなどの報告がありました。

また、高槻市防災ネットワーク事務局の巽さんは、ふだん高槻市内の医療法人で働き、青年会議所に所属していること、防災ネットワーク準備会から関わっていること、高槻市は有馬高槻断層帯も走っているため、発災時は大規模な被害が想定されることなど、防災ネットワークを立ち上げた背景を語りました。

地域に存在する有数の8団体

巽さんは高槻市にはライオンズクラブやロータリークラブなど、8つの大きな団体があり、8つの団体は年に一度懇親会はあるものの、何かを一緒にすることはなかったといいます。

「どこの団体も災害に関する取り組みを全国的にされています。ただ、バラバラに動いていては助かる命も難しくなるので、ネットワークづくりができないか、各団体の方にご挨拶に行きました。」

ただ、青年会議所のメンバーは40歳未満で、ライオンズクラブやロータリークラブは経営者層も多く、人生の先輩ばかりのため、半年以上かけて訪問を繰り返したといいます。

「今の防災ネットワークの会長や私も、各団体と話をしに行き、各団体のことがわかるようになってきました。そういう経緯を経て、2022年の6月28日に団体で防災ネットワークの協定を結びました。」

そして行政の危機管理室、社協は連携という立場で関わってもらうことになったといいます。

活動内容は
・災害ボランティアセンターの運営支援
・年3回程度の定期的な会合
・災害ボランティアセンター設置・運営シミュレーション訓練
・事業の企画や啓発活動
の4つ。

「特に大事なポイントとして災害ボランティアセンターの後方支援であり、図の第2期、第3期のところをしっかりと災害時に発揮できるように、災害ボランティアセンターのシミュレーション訓練に入らせていただいています。」

そして、啓発活動も大事にしていると言います。

「今度は地域の住民の方々にもしっかりと災害ボランティアセンターを理解してもらうため、イオン高槻の駐車場を借り、来場者2000名程度を想定して防災イベントを4/19土曜日に開催する予定です。」


目下の課題はネットワークメンバーに浸透させること

今後の課題は高槻市防災ネットワーク8団体の加盟者約800名程度のメンバーに浸透させることだと巽さんは言います。

巽さんの話を受けて、石原さんは「実際災害が起こったときに、協定を結んでいる団体さんと、どう連絡を取って、どう依頼をして、どう相談したらいいのか正直わかっていなかったです」と打ち明けました。

「ただ、防災ネットワークが誕生してからは、2/10現在で巽さんと今年会うのは5〜6回目です。何度も打ち合わせを重ねていて、つながりの大切さを感じています。また、飲み会なども高槻市危機管理室の職員も含めて開催しており、ちゃんとつながっていること、緊急時に連絡がとれる関係であることを最後に報告させていただきます。」

ワールドカフェ形式でグループワーク

少し休憩をはさみ、ここからは進行役が大阪ボランティア協会の永井さんに代わり、ゲストの話を受けて「私の気づき、これからどうする?」をテーマにワールドカフェ形式でふりかえる時間となりました。

以下、ここではひとつのグループで語られたことを、簡略化してお届けします。

・市役所職員の立場として、災害NPOの方にどんな報酬が必要なのか考えてしまう。

・NPOの立場としてはそもそも行政に期待していない。ただ、悪徳業者でないことのお墨付きがないと被災地域で活動できないので、そういったものはほしい。

・社協の立場として顔の見える関係性をつくっていくのが大事だと感じた。

ほかにもさまざまな意見が出て、自分たちのあり方を改めて見つめ直すきっかけにもなったようです。

最後にゲストから一言

最後のまとめとして、四人の登壇者がそれぞれ感じたことを話す時間になりました。その一部を紹介します。

明城さんの感想

明城さんはグループワークの話を聞いた中で、共有したいことが3つあるといいます。

「1つは災害が起きれば市町村にもいろんな団体が入ってくることになります。そうした時に抵抗感はものすごくあると思いますが、ぜひ被災者のために、そういう力をどう活用するか、受け入れをどうするか、被災者のために何を活用するかという視点で考えてもらいたいと思ったのが1点目です。」

2点目は某自治体職員から質問されたことをみなさんにも共有したいとのこと。

「過去の災害では、市内の市民活動団体の安否確認とか、サービスが続いているのか止まってるのかとか、そういう確認を行政の市民活動の担当が把握をして、それを外から入ってくる団体とも共有をして、このNPOのサービスが止まっているからそこをちょっと一緒に応援してくれないかとか、そういうアレンジをした事例をちょっとお伝えしました。」

3点目は、市町村の窓口も1つではなく、被災者の困り事がたくさんある中で、それぞれ役所や、さまざまな部署との関わりが必要になってくるという背景を踏まえた共有です。

「特に現場に近い分、いろんな部署と直接団体とのやり取りが必要になってくるので、さっき分野フリーといい言葉がワールドカフェですごく印象に残ったんですけど、やっぱりその分野ごとにちゃんとやるのと、NPOだからこそ分野の橋渡し、単にその分野ごとやってそれで終わりではなくて、その分野間の隙間もちょっと埋めるような動きもNPO側には期待できるところかと思います。その点も連携として認識していけると、より効果的に被災者支援というものに繋がると思いました。」

津田さんの感想

「実は真備連合といって、被災前から福祉の事業所と行政と住民と、みんなが緩やかにつながっていこうという会がありまして、その会にも随分と助けられたと思います。やっぱり日頃から顔の見える関係が必要なんだと感じています。」

巽さんの感想

「さきほどのグループワークでの話を聞いて、高槻市の防災ネットワークも人や組織が変わったりすれば、ある意味、今やってることができるかどうかわからないので、しっかりと継続できるようにやっていかないといけないし、たいへん勉強になりました。」

石原さんの感想

「ぜひ皆さん、たぶん何人か、なんで私この会議に参加しないといけないだろうと思っている方もいるかもしれませんが、ぜひ楽しんでもらって、このつながりを活かしていただけたらと思います。今後ともよろしくお願いいたします。」


最後に運営事務局からの呼びかけで、会場に集まった団体がそれぞれの活動の告知をする時間となりました。

最後に記念写真を撮りました。お疲れさまでした。

(構成=狩野哲也

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