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災害支援のスペシャリスト3人が能登半島地震の最前線で感じたこととは? 第24回定例会 被害と支援の現状レポート

2024年7月1日、大阪城のそばにある大阪赤十字会館でおおさか災害支援ネットワーク(以下、OSNと略します)第24回定例会が開催されました。

会場に40名、オンライン(Zoom)に14名の方が集まりました。

定例会の様子をレポートします。

泉北のまちと暮らしを考える財団の宝楽(ほうらく)さん

司会は宝楽さん(おおさか災害支援ネットワーク世話役・公財泉北のまちと暮らしを考える財団)が進め、オープニングは、OSNが三者連携を結んでいる、大阪府と大阪府社会福祉協議会(以下、大阪社協と省略)から現状の取り組みについて情報共有がありました。

大阪府危機管理室災害対策課の城坂(しろさか)さん

大阪府の城坂さんは大阪府常設型災害ボランティアセンターの活動を紹介し、今まで事前登録が団体のみの受付だったところ、個人も登録できるようになり、フォークリフトが操作できるなど、どんな特技があるのか記入する項目が増えたと報告しました。また、輪島市の避難所運営の支援に入った際のエピソードの共有もありました。

大阪府と社協の関係にも言及し、「一般的にはボランティアセンターを開設するための資金として大阪府から補助金を出して、社協に運営してもらっている」と語りました。

大阪府社会福祉協議会の本田さん

大阪社協の本田さんからは、ボランティアバスで七尾市に支援に入ったことや、車両不足を補うために、大阪府内の市町村の社協から軽トラックなどの貸し出し協力をしてもらったこと、現地ではバディコムと呼ばれる無線機で連絡をとりあったこと、kintoneや防災科学技術研究所が開発したeコミ(eコミュニティ・プラットフォーム)というツールを被災地で活用した話などさまざまな共有がありました。

第一部 能登半島地震の被害と支援の現状について

第一部では能登半島地震の最前線にいた3名のスペシャリストから現地で感じたことを聞く時間となりました。それぞれの概要をダイジェストでお届けします。

室崎さん「日本は【いつまでに】という期限がない。もっと民間団体に任せないとダメ」

神戸大学や兵庫県立大学の名誉教授・室崎益輝(むろさきよしてる)さん

最初に登壇したのは防災工学が専門の学識者・室崎益輝さんです。被災地に8回ほど足を運んだ経験から「官民連携は抜本的な変化が必要。あり方にこだわっていると前に進めない」と口火を切り、抜本的な変化が必要な理由を先に4つほどあげました。

  1. 不測の事態が起きたということ

  2. 被災地の被災強度

  3. 公助と自助の限界が明確になった

  4. 支援の多様化

室崎さん「1つ目の解説ですが、今回ほど天災的な側面が強かった災害はないです。150kmほど断層が動いたのですが、阪神淡路大震災の3倍です。2つ目は被災地のひとりひとりの被災者にかかるストレスや苦しみです。阪神淡路大震災に比べると人口や世帯あたりの倒壊率は3倍です。3つ目はそもそも高齢者の多い地域なので自助力が弱いエリアです。公助力は過疎地域になると職員数も少ないし、防災の知恵も蓄積されていない。4つ目は心のケアもあるだろうし、子どもの食事や身体の弱いお年寄りには暖かい栄養価のある食事を出さないといけない。そういう多様なニーズに多様な力で行政は応えられない。」

室崎さんは上記4つの特徴を踏まえた防災対策が必要だと語り、地震直後の動きに問題があったと言います。

室崎さん「死亡原因を調べると当然圧死が多いのですが、低体温症や凍死も多いんです。1月の寒い中、家に放っておかれた結果です。まさに地震直後の支援体制が弱かった。」

また地域の力が弱いことも指摘し、それは石川県だけではなく、日本全体の話であり、「世界の助け合い指数」の資料から日本がワースト2位であることを踏まえ、どうしてこうなっていったのかを分析する必要があると言います。

解体の必要な建物が約2万棟あるにも関わらず、公費解体が進まない現状についても「日本はいつまでに、という期限の話がないから」と語ります。能登では9年かけて復興計画が進行しているものの、2年以内という考え方が必要だと警告しました。その上で、「台湾やアメリカ、イタリアの官民連携を学ぶ必要がある。日本ではいつまでに、という目標がないので、もっと民間団体に任せて、スピード感をもって望まなければならない」と強調しました。

李さん「情報発信の解像度をあげる必要がある」

にいがた災害ボランティアネットワークの理事長・李仁鉄(りじんてつ)さん

次に登壇したのはにいがた災害ボランティアネットワークの理事長・李仁鉄さんです。

李さんは支援Pと呼ばれる新潟中越地震の教訓から生まれた企業・社会福祉協議会・NPO・共同募金会が協働するネットワーク組織の統括として、社協からの要請に基づいて市町村の現場に入ってボランティアセンターを運営するアドバイザー的立場で現地入りされました。

李さん「自分の仕事はボランティアセンターを運営することですが、今回の能登地震の支援では、通常の支援の一つ手前である、職員さんが辞めてしまわないように人を支えないとまずい、という考えのひとつ手前からスタートしました。ひとつ手前とは【職員さんが死なないように】です。辞めるに辞められず自死を選んでもおかしくない状況なので、無理に引き止めるのは辞めて、きれいに辞められるように支援することからはじめました。」

今のところ、周囲で自死の話は聞かないものの、油断はしていないと語ります。「これは社協だけの話ではなく、行政職員や自治会のリーダー層など、責任を背負ってがんばろうとしている人が危うい場面はある」と経験上感じているそうです。

また、社協との勉強会では後方支援、直接支援、広域支援、広域調整の4つのポイントが大事だと整理したそうです。

李さん「例えばウェブサイトを構築したり、ボランティア活動の証明書や、さまざまなところを本部で引き取る作業です。被災地の現場のミーティングをzoomでつないで議事録をとってくれる人が大阪など被災地外にいる状況ができればうれしいです。現状は現場を知っている担当者が議事録をとる作業をして自分が意見を言えない状況になっていてもったいない。また、先を読んで先手を打って情報発信する、といったこともしたいですが、そういったことに気づけないくらい忙しいのが現状です。」

李さんは地震直後、ボランティアが石川県に入ってこなかったことに後悔を感じているそうです。

李さん「ボランティアが現地に行くべきかやめるべきかといった大雑把な議論になっていて、情報の解像度が低すぎたと感じています。例えば現地でトイレを使うとトイレのタンクの容量というリソースを使うことになります。人間は存在するだけでリソースを使うので、それらを被災地での活動の経験上理解して自己完結できる人、トイレを持参できる人など高度なスキルをもったボランティアの人たちは現地に入る意味があったと思います。」

明城さん「OSNのような中間支援組織が石川県になかった」

全国災害ボランティア支援団体ネットワークJVOADの事務局長・明城(みょうじょう)徹也さん

次に登壇したのは全国災害ボランティア支援団体ネットワークJVOADの事務局長・明城徹也さんです。最初にモニターに映し出されたのは、被災者が避難している場所をあらわす1から15番までのリストです。

大まかに1〜6が避難所扱いになっている場所であり、7〜13は仮住まい人たちをあらわしています。ただし在宅や車中泊は何人いるのかわからないのが現状と言います。

明城さん「それぞれの役所の中の担当者が違うから細かくわけないと支援が行われているのかわからなくなってしまう現状があります。実は最近も県営住宅にはあまり支援の情報が届いていないことに気づくことがありました。そういうことを日々確認しながら調整しています。」

また、6月13日の時点で317団体のNPOなどの活動状況を把握しているとのこと。多様な得意技をもち、それぞれが活動を展開しているものの、石川県にはOSNのような災害の中間支援組織がなかったためJVOADが直接現地に入り、国や県などと避難所でNPOが関われるような働きかけや、在宅避難者への訪問調査などさまざまな調整を行ったと言います。

明城さん「支援がなかなか進まない要因のひとつに残置物の問題があります。いらないものを置いておいてよいのか、事前に撤去しないといけないのかです。事前に取り出してくださいと行政の方は言うけれど、なかなか住民の方だけで取り出せないのでそのあたりのことがなかなか進まない要因のひとつです。」

NPOなどへのサポートとして高速道路の無料化措置や保険の紹介、助成金情報、物資のマッチングなども行っていて、3名のJVOAD職員だけでは追いつかないため、OSNなど各地の災害中間支援組織から応援職員を迎えていっしょに活動してきたそうです。

明城さん「国はNPOの活動をどう見ているのかについての資料(内閣府|令和6年能登半島地震に係る災害応急対応の 自主点検レポート 45ページ目)があるのですが、これまでの関係性を踏み込んで改正しないともうダメだという認識がついてきているようです。」

また、連携に関する課題もあげました。まず行政と民間の認識にズレがあると語ります。

明城さん「自治体職員の入らない避難所がたくさんありました。なぜなのか自治体に確認したところ、避難所に自治体職員が入ると自主運営をさまたげるから、という回答でした。でもそんな状況じゃない。そういう認識のズレを事前に共有する必要があると感じました。」

自治体によるNPOに対する認識も低いと言います。どんな団体がどんな活動をしているのかしっかり取りまとめることが大事だと語りました。


第二部 それぞれのゲストとクロストーク

1時間以上経過したのでここで少し休憩をとり、会場の机を動かしてグループワークの準備が行われました。第二部では3名のゲストに聞きたいことをそれぞれのグループで質問する時間となりました。

以下、それぞれのゲストへの質問と回答を一部抜き出し、簡略化してお届けします。

室崎さんへの質問

Q 大阪の災害時の官民連携はまず何からはじめたらいい?
A まず信頼関係をどうつくるかが大事です。今日のOSNの定例会のような会合に台湾あれば行政も参加して議論するんです。それがひとつ目。二つ目は情報のシステムですが台湾の場合はLINEです。行政と被災者と市民がさまざまなLINEのグループで動いていて、意見が出てまとめて決まる。そういうネットワークをきっちりつくっていかないとダメです。三つ目は災害対策本部にNPOが入らないとダメ。

Q NPOはお金がないので動けない。どうしたらいい?
A 台湾は行政からお金が出ている団体と、自分たちで集めている団体があります。台湾の大金持ちの宗教団体は地震が起きた3時間後には避難所にテントを全部並べるぐらいのスピードで駆けつける機能があります。イタリアのカリタスというキリスト教系の団体は日頃から救急車を持っていて、普段から病院への送り迎えをしていて、国から救急車を譲り受けたりしています。イタリア政府自体が貧しいので民間にお金を渡した方が効果が高いんですね。例えば大阪府も避難所運営にNPOにお金を渡して運営してもらったり、住宅の調査も建築士会や大阪大学の建築学科にお金を渡すなどしたほうがずっと効果的だと思います。

明城さんへの質問

Q 大阪の災害時の官民連携はまず何からはじめたらいい?
A 大きく2つあります。社会課題に向き合っている人たちはもっとたくさんいるので災害時に関わる余地を増やす。そして大阪府や社協の関係、役割分担をもっと深掘りするのがよい。

Q NPOが行政に信頼されていないということでしょうか?
A 石川県の場合はそうでした。当初、県からするとわれわれは謎の団体でしかなかったけれど、こういう情報をもっていて、こういう調整をしてくれるんだ、とわかると少しずつ信頼度が変わっていきました。例えば市町村においても炊き出しの調整とかいろんな申し出があったときに「うちの団体は炊き出しが得意なので引き受けますよ」という団体があって、お任せしたことがきっかけに相談しやすい雰囲気になったことがありました。

Q 実際に派遣された各地の中間支援団体の方たちはどんな活動をされていましたか?
A 1週間ぐらいの交代で入ってもらったので、本当はもっといろんな調整を任せたかったけれどそれは難しかったので団体情報の更新や会議の議事録をとってもらうなどの仕事が多かったです。また、高速道路の無料化措置の確認の手続きにはひとり常駐しないといけない事情もあり、その役割を担ってもらいました。

李さんへの質問

Q 大阪は寄付が少ない。意識を変えるにはどうしたらよい?
A まず僕は日本は別に寄付がそこまで少ないとは思っていないです。ただ、寄付の内容が例えば義援金と支援金、見舞い金と活動団体への支援金と言った時に、義援金が圧倒的に多い。あとは個人寄付と団体の寄付、政治献金もそうですけども、個人でNPOに寄付している人がそこまで多くないけれど、例えば町内会とか会社みたいな組織を通すと、意外と集まってきたりするところで見ると、もうちょっと内容をちゃんと精査して、全体像を見た方がいいのかなと思います。
 団体としてどうお金をやりくりしていくか、という話に移りますと、NPOだと寄付で賄うモデルと、事業型のモデル、指定管理などの委託型がありますが、ひとつに絞らずミックスが良いと思っています。うちの団体は今日のような研修の講師とかで自分たちで稼いで運営する方法が大きいのですが、これはやはり災害が起きた時に時間の制約は出るのですが、お金が全部手元にあるので動きやすいと思っています。

Q 公益を担うNPOに政府からお金を流すという考えについてはどう思われますか?
A 僕は室崎先生とは意見が違って現状では反対です。なぜならアメリカやイタリアなどはお金を出している政府がNPOの活動に指示を出してきたときに、それぞれの国のNPOは政府にノーを言えるじゃないですか。それを日本でできるかというと、お金を出している政府に逆らうとは何事だ、という世論になりませんか? ある市町村では「ごちゃごちゃ言うなら補助金切るぞ」と暴言を吐いた役所の人がいますからね。例えば避難所運営も「あまり長く居座られると困るからはやく追い出してくれ」と言われた時に本当にノーと言えますか? これは僕の意見です。どちらが正しいという話ではなくて、このあたりの議論は必要だと思います。


第三部 ふりかえりグループワーク

第三部ではゲストの話を受けて「私の気づき、これからどうする?」をテーマにグループでふりかえる時間となりました。

ここではひとつのグループの感想をいくつか列挙します。

・私自身が能登の応援で現地に行った時の経験も含めての感想にはなりますが、行政とやりとりした際、こちらからの申し出の内容によってだいぶ受け止められ方が異なったのもあり驚きました。

・社協の立場として顔の見える関係性をつくっていくのが大事だと感じました。三者連携ということで、今、大阪府と社協が災害時にどういう役割分担が行えるのか整理していかないといけないと感じました。SNSの情報発信の仕方も非常に難しいと感じていて、ボランティアさんとの話の仕方についても、受け止め方がそれぞれ違うので、具体的にどういう情報を出したらいいのかを考えていけるような機会をつくっていきたいと思いました。

ほかにも資金源に言及する方や、行政と民間の関係は有事ではいきなりつくれないので普段から顔の見える関係をつくる必要があるという感想があり、それぞれの団体が自分たちのあり方や事業を改めて見つめ直すきっかけにもなったようです。


さいごに

最後のまとめとして、三人の登壇者がそれぞれ感じたことを話す時間になりました。その一部を紹介します。

室崎さん「復興税をとらなくてもいいからクラウドファンディングでみんなでお金を出してもらってまで被災地を支えないといけないと思っています。」


李さん「今回新潟市西区のボランティアセンターでは受付の手間を省くために、Googleフォームに人数管理のスクリプトを組んでもらい、アウトリーチチームと電話受付ニーズ班の方に全投入してもらうようにしました。まとめではないですが補足でした。」

明城さん「石川県の114万人でこんなにたいへんなのに、大阪などの大都市だとどうなるのか考えるだけでゾッとします。避難所を病院に任せたらどうかという意見もありますが、ふだん社会課題に取り組んでいるNPOの方々が少しノウハウを身につければできることもあるので、OSNなどで担い手を増やしていくなども大事かと思いました。」

最後に運営事務局からの呼びかけで、会場に集まった団体がそれぞれの活動の告知をする時間となりました。

大阪ボランティア協会からは七尾市中島町にある被災地NGO協働センターの現地支援拠点に、リレー方式で活動している話や7/15にチャリティイベントが箕面市立かやの広場で開催されることが共有されました。

また、ペット防災活動協会からは珠洲市などでのボランティア活動報告あらいぐま大阪からは被災した写真を洗浄する活動について報告がありました。

オンライン参加の大阪公立大学(V-station)からは、8月中旬にボランティアバスで輪島市や能登町に参加する大学生の募集とその活動の寄付のお願いなどがありました。

活動告知を聞く時間は顔の見える関係の第一歩となりました。将来、避難所で顔をあわせるかもしれない自治体職員をこの場に呼ぶことが次の一歩だと感じました。

(構成=狩野哲也

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