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幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 4.展開②
思いがけないことに、この話をした後、話が別の方向に大きく展開し始めた。
「そうだったのね。
シェアしてくれてありがとうございます。
死ぬほどつらいことは、端から見たら分からないこともある。
私だって、新しいお父さんがいてくれて良かった、で話を終わらせることだって出来るんです。
小さいときから、お留守番が出来なくて叱られてきた。試し行為ばっかりして、叱られてきた。
孤独感も疎外感も、私の性格が悪いからだと言われて育ちました。
自己否定に走った過去を返して、と思ってしまいます。それがたぶん一番つらいんです。
部活も、受験も、留学も、恋も、思いっきりしたかった。
今になって分かることは、二世代に続く精神的虐待を受けた家系です。
夢だった『お母さんになる』という未来が絶たれたこともつらいです。
わたしは親になりたくない。わたしみたいな子を作りたくない。精神的虐待は繰り返します。」
明日会う予定の咲笑ちゃんが、明日話す予定の咲笑ちゃんが、いま話し始めている。
ひとつ深いところに足を踏み入れている。きっと今が大事な時なんだ。
僕はそう思い、本来避けるべきだと思っていた文字のみのカウンセリングを進めようと、心を決めた。
「気持ちは理屈で変える事が出来ないからね。
無理して受け止める必要はありません。
そして、今は心に関する知識を得た。
でもだからこそ、変化しない自分が嫌になることもあります。
落ち込んだっていい。泣いたっていい。
そこで終わらせるのではなく、知識を行動に代えて前に進めば、連鎖は必ず止められる。
咲笑ちゃんは知っている筈です。
幸せになるにも勇気が必要です。
僕は咲笑ちゃんの幸せになるための勇気を応援します。」
「負けそうです。あまりに高い壁です。
お母さんになる勇気ない。子供、大好きなのに。」
「うん、高い壁だと思うよね。
つらくて勇気が出ないよね。
今はそれでいいと思うよ。
それが今の咲笑ちゃん。
無理して元気になる必要はありません。
つらいと感じてる自分をしっかりと受け止めて、頑張ってきた自分を自分で愛してあげてください。
セルフラブしてください。」
「母の、お母さん役をしなきゃいけないの、疲れた。
父は無関心です。私は誰に甘えたらいいの?」
この言葉が、僕のなかで大きく弾けた。
最初は彼の話。
次に出てきたのがお父さんの話。
彼に甘えてしまうのはお父さんからの愛情を感じられなかったから。
でもここで出てきたのは…お母さん?
「咲笑ちゃん、本当はお母さんに甘えたいと思ってるの?」
「うん。お父さんにも。」
「そうか…。
甘えたい人に甘えられない状況がつらいって事なんだね。
誰かに甘えたかったのに、どこにも甘える相手がいなかった。
お父さんだけではなく、自分にはお母さんにすら甘える自由がない。
そして甘えられる人がいないから、自分だけで高い壁を乗り越える勇気が湧いてこないって事なんだね。」
「甘えたい人を、フォローしなきゃいけないんです。
だから甘える相手を求めていて、彼に対して過度な接し方をしてしまう。
これ以上、彼には甘えられない。
彼は、あくまでも彼であって、旦那様ではありません。」
「これは咲笑ちゃん自身の問題だから、彼には甘えたらいけないと思ってるってこと?
本当に甘えたい人は、彼じゃあないから…?」
「ううん、彼に甘えたい。
でも、彼にはそこまで求められないよ。
家族じゃない。それこそ『俺の知ったことか!』になる。」
「彼にはどこまで話したの? それとも話せなかった?」
「彼は充分優しくしてくれた。
オクトーバーフェスト、箕面の滝、フクロウカフェ、友達のレストラン、淡路島のお花畑、神戸のクルーズ、全部彼と一緒に行った。しかも短期間で。
淡路島の玉ねぎでスープも作ってくれたの。
彼に話したけど…ほんとにつらいことは言えなかった。泣けなかった。
嫌われると思うの。」
「なるほど。
充分過ぎるほど甘えさせてくれたと思ってるんだ。
そして、これ以上自分の根幹に関わる部分を見せると、きっと自分の事を嫌いになると思って、本当につらい部分は伝えられなかったんだ…。」
「その通り。でもほんとは、ごはんも寝るのも一緒がいい。
落ち着くまでは、毎日関わりたいの。
彼はそこまでは分かってない。ここまでつらいって言ってないから。
甘えさせてくれたの。もう十分。
これ以上言えない。負担になりたくないの。」
「彼に本当のつらさを分かってもらって、甘えさせて欲しいけど、これ以上彼に負担をかけて彼が離れていってしまうのが怖いんだ…。」
「うん。」
「彼に咲笑ちゃんの本当のつらさを伝えたら、最終的に離れていくと思ってるの?」
「うん。」
分からなくて不安になることも多いよね。」
「面倒くさいって言うと思う。」
「面倒くさいか…。
そう言われると思ったらつらいよね。」
「きっと言われる。しっかりしてないな!って。
彼は十分過ぎるほど自分を甘えさせてくれてる。
これ以上彼に頼っていると、きっと彼も自分から離れていく。
私は、それだけは耐えられない。」
幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
自分の本当の思いって、自分でも気付いていないこと、多いと思います。
カウンセリングで話を聴いていると、悩みの対象や理由が変わってくることがあります。
そんな時こそ、きちんと話を聴いて、そこにある思いを汲むことができるように意識しています。
慌てず、ゆっくり、そこにある思いを聴く。
そんな時間を大切にしたいと思っています。
また明日更新します。
よろしければ是非おつきあいください。
よろしくお願いします。