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幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 28.二度目の誕生日

 この後、咲笑ちゃんからの連絡は数カ月に亘って途絶えることになる。



 僕にとって彼女のSNS投稿は安否確認の手段となり、ただ祈るだけしか出来ない日が続いていた。


そんななか、僕の転勤が決まる。またもや大阪へ。僕がそれをSNSに投稿したのは、実は咲笑ちゃんに知ってもらうためだった。

でも相変わらず、咲笑ちゃんからの連絡はないままだった。




 しかし僕自身においては、ここで大きな転機が訪れる。

 僕は東京への出張があり、共に卒業レポートを発表した佐野さんと約束の再会、そして日本メンタルヘルス協会東京校での初受講を果たすことになる。



 佐野さんとの再会では、かとうさやかさんとの初対面も実現する予定だった。

ところが、さやかさんは水疱瘡で外出禁止になってしまった。


佐野さんは僕からの連絡に際して喜んで再会に応じてくれたが、一回りほども歳の離れた僕とほぼ初対面に近い状態で、しかもさやかさん抜きでは、再会はキャンセルされる可能性が高いと僕は思っていた。


ところが確認の連絡を入れると、「さやかちゃん残念ですよね…。2人でも楽しみましょ!」という返事が返ってきた。

そして驚くことに、この挨拶以外の会話をほとんどしたことがなかった2人は、食事をしながら4時間も話し込むことになる。




 同期でも1対1で長時間を共にすることは少ない。

今でこそ複数の仲間たちと話す機会を得ることが出来ているが、少なくともこの時の僕にはその経験がなかった。


お互いのことをじっくりと語り、学びや気づきを共有する。それは至福の時間だった。

過去について、日本メンタルヘルス協会での学びについて、卒業レポートについて、将来の目標について、僕らは語り合い、もう一度再開を約束して別れた。





 2日後、僕は幸せな気持ちを保ったままで日本メンタルヘルス協会東京校に足を踏み入れた。

大阪校とは違う教室、でも同じように柔らかな空気。

そしてここでも僕を幸せが待っていた。




 以前大阪校で知り合っていた、佐野さんと同期の女性が、僕が来ることを同期グループのSNSで伝えていてくれたらしく、たくさんの人が僕に会いに来てくれていた。


その日の担当講師の丸山先生は「今日はこんな風に大人数で、キャンセル待ちになってたりするんです。大阪校の人がリピートで初めて東京校に来てくれていまして、その人が来ると決まってから急にリピートの申し込みが増えましてね。愛されてるなぁと思いますね。では今日の講座ですが、…」と話しながら講座に入っていった。


東京での全ての時間が、僕を幸せにしてくれていた。





 出張が終わり大阪に帰る新幹線の中で、僕は東京で過ごした時間を振り返っていた。


最初に思い浮かべたのは、佐野さんと過ごした時間。

そういえばあの時、佐野さんは「さやかちゃんが来れなかったことにも意味がある筈。」って言ってた。


そして東京校での出会い。「今日は、しんさんが来るって聞いて、会えたらいいなぁって思ってたんですよ。」こんな言葉をかけてくれた人もいた。

そういえば丸山先生も以前「まことさんは世界から愛されてますね。」って言ってくれてたな…。




 そして、「あぁ、幸せだなぁ。」と呟いた自分に、僕は心の底から驚いた。




 これまで、自分の深層心理に刻み込むことを意識して「僕は幸せだ」と声に出したことはあった。

しかし特に意識をせず、何気なくこの言葉を口にしたのは生まれて初めてだったのではないだろうか。


「!?いま僕、幸せって言った?」自分の口から出た言葉が僕は信じられなかった。

衝撃だった。パラダイムシフトが起きた。

自分でこの言葉を口にしたことが、僕のなかにあった世界観や常識を根底からひっくり返してくれた。


「あれ?僕はひょっとしたら、たくさんの人から愛されてるのかもしれない…。」ここに至って僕は初めて、プロコースの仲間達から受けていた愛情や、恵まれていた過去の自分を受け入れることができた。




 日本メンタルヘルス協会の講座のなかで、「子供は愛されないと生きていけない。でも大人は愛されなくても生きていける。」そんな言葉を先生から教わった。

僕はその時、寂しくても、愛されていなくても、強く生きていこうと思った。


でも本当は違った。僕はみんなから愛されていた。

確かに愛がなくても大人は生きていけるのかもしれない。

でも愛があると信じられれば、それは自分を強くしてくれる。

僕は自分が初めて強くなれたと感じることができた。




 そして大阪に着いた時、郵便受けに入っていたのはプロコースで学んだ時間が詰まった写真集だった。

同期の一人が編集して送ってくれたものだった。

僕はそれを見ながら、そこに写っている自分に向かって、「ほら、愛されてるじゃん。」と呟いていた。




 僕はその日から生まれ変わった。

どんな状況でも自分が幸せであると胸を張って言えるようになった。

その日が、僕にとっての二度目の誕生日だった。










幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~



最後までお読みくださり、ありがとうございました。



パラダイムシフト。

その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいいます。(Wikipediaより)


なかなか起きることではありませんが、だからこそ革命的な出来事なんです。


本当に幸せな経験ができたと思います。


これを咲笑ちゃんにどう伝えるか。
それが次の課題でした。




次回はまた明日更新します。

よろしければ是非おつきあいください。

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