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幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 25.役者

 そんななか、咲笑ちゃんは誕生日の当日を迎えた。



「今日頑張って生きます。
ほとんど食べられなかった。

母は、私が生きてる気がしないのは、バロンがきて安定して刺激が少なくなったからじゃない?と言います。

何も伝わってません。」



「咲笑ちゃん、つらいけど、今日を生きてね。

お母さんは相変わらずなんだね…。

受け止めて欲しい思いが強いだけに、つらいよね。」



「頑張りました。とても楽しそうにできたと思います。

夜のパーティーはあんまり食べられなかったけど、来てくれたみんながよく食べたので良かったです。

どんどん痩せていきます。でもまだ生きてます。」


「咲笑ちゃん、今日を迎えてくれてありがとう。
つらかったね。頑張ったね。
苦しくても生きていこうね。」



「誕生日関連のイベントを全て終えました。

でも母に嫌な思いをさせてしまいました。死にたいです。」


「咲笑ちゃん、お疲れさま。
そして生きていてくれてありがとう。

お母さんとの関係は、なかなか思うようにならないけれど、ゆっくりでいいと思うよ。

咲笑ちゃんに生きていて欲しいのはみんな同じだと思うから。つらくても生きようね。」



 嫌な思いをさせたという咲笑ちゃんの言葉を、僕は比較的軽く捉えていた。
でも咲笑ちゃんにとっては、前に向きかけた自分の気持ちを後ろに引き戻す、大事件だった。



「『咲笑は何で人間失格を読んだん?
愛着障害のいろんなことを改めて刷り込んで刷り込んで、がんじがらめにしていってる気がするんだけどなぁ。

人間失格を読んで、気持ちは楽になった?
余計に生きていたくないないようになったんじゃないかなぁって感じる。』


母は私が、解決の糸口または自立のきっかけを見つけると、いつもこんな風に責めます。

ミュージカルのように、いつも大袈裟にハッピーを歌っていないと満足しないようです。


私は何度も『責めてないよ。』と言いました。

それでもやっぱり生きづらいことを訴えたかったんです。

この分かって欲しいと思う気持ちを断ち切りたいです。


昨日はパーティーに参加しました。

初めて会った海外の人と気が合って、家族のことを少し話しました。

その人は絶句して、何度も『つらかったね、かわいそうに。君の家族はそうすべきじゃなかった。』と言ってくれました。

『死んじゃだめだよ、強くいるんだよ、決してひとりではないからね。』って。


母は、私が置かれている状況の心細さを知りません。受けたショックの酷さを知りません。

母にとってはずっと事実としてあったことですが、私は自分が父の子ではないかもしれないと疑ったことさえありませんでした。


知り合った海外の人には『家族を信頼することができなくなった。

元彼のように、元母、元妹、そして元母の旦那さん、という風にしか家族を見られない。』と言いました。

すると、『君はもう大人だから、誰にも守られなくても大丈夫なんだよ。強くいるんだよ。』と励まされました。


何故ここまでのことが起きたのでしょうか。
母は私が前世で家族を大切にしなかった仕打ちだと言います。
私は違うと思います。



母は最後にはいつも、咲笑には友達がたくさんいていいよね。私にはそんなにいない。と言います。

私は100人の友達よりも本当の両親が欲しいです。


知り合った海外の人達が、『フレンドリーで誰とでも親しくなれるのは君の宝だよ、才能だよ。』と言いました。

『家族がいなくて寂しいからだよ。』と返すとまた悲しい顔をして黙ってしまいました。

申し訳ないことをしたと思います。」


「お母さんは今の自分を受け入れたくないのかもしれないね。
だから前世みたいな不明確なものに頼ろうとする。


咲笑ちゃんが両親を求めてるのは間違いないし、それが悪いことではないけれど、だからこそ咲笑ちゃんに友達が多いのは事実なんだろうね。

根底にある寂しさがつくってくれるものって確かにあると思うから。」




「皮肉だよね、両親が果たしてくれない役割を、友達が何十人も協力して果たしてくれている。

私が死なないように、みんなでリレーみたいに。
友達が私のことを大事に思ってくれてるのはよく分かるよ。


見えないもののせいにして、裏切らないものにすがれるから、宗教って良いビジネスだね。



愚痴ばかりごめんなさい。でも、まーくんにとっては何かの役に立つかもしれません。


精神的につらいと食欲がなくなります。
そして夜更かしするようになります。
体内時計が狂い、自律神経が乱れ、頭痛、立ちくらみ、動機がしています。

食べるとお腹が痛くなり、身体が怠いのでテキパキ動けず、どんどん夜が更けます。

このままでいると病気になるでしょう。


病は気からとは本当です。身体も死ぬ方向に動いています。身体中、そして頭も痛いです。




普段外食をあんまりしない母が、よりによって私の誕生日に友だちと外食をしました。

父と妹からはお祝いの連絡はもちろんありません。

何もありませんでした。10日ほど前に妹からはプレゼントをもらったので、文句は言えません。

いつ死んであげられるのか、いついなくなってあげられるのか、家の人が不憫です。」



「咲笑ちゃん、つらくて苦しいね。
愛してくれる人はこんなにたくさんいるのに、求めてる家族からの愛情は満たされない…。

いなくなってあげる、か。

その言葉が苦しさの象徴なんだろうね。

僕はいつまでも、咲笑ちゃんが生きている世界を望んでいるからね。」



「『咲笑のためにって思ってやってきたことが、そんなに駄目だったの?』

この言い方が負担です。母が怖いです。

会話の流れでもなく、なんの前触れもなく、私の心を切り刻む内容のメッセージを送ってきます。暴走です。


まだ生きておくつもりですが、死んでいないのほんとに偉いと思います。

私が癒されたと感じた小説を否定してくる。

結局母は『私に責められた。』と言うんです。

明日まだ生きてるかな…。


死んでも責められ、生きても責められ、どうしたらいいの?」




「まーくん、もう十分です。苦しいです。死んでいい?もういいよね?

約30分間、殺し合いのようなやりとりをして、返事が突然来なくなりました。


お母さん死んだらどうしよう。
去年の夏、母は自殺するといっていなくなりました。

もう二度と体験したくない。それなら私が先にいなくなりたい。」


「まず、咲笑ちゃん、苦しくても生きなきゃ。
生きていく道が必ずあるから。

咲笑ちゃん偉いと思う。凄いと思う。
お母さんにきちんと向き合って、今日まで生きてきて。」



「また一部、心が壊死しました。」



「お母さんが咲笑ちゃんとの関係をどうしたいのか分からないけど、関係を切りたくないのは確かだと思う。」



「別れた彼と同じ。母が見たい咲笑を演じきるしかない。」



「お母さんは、愛情の伝え方が分からないんじゃないかな。

自分から関わってくるんだから、娘に幸せになってもらうことは望んでいると思うんだけど。」


「もうだめ。もう死んじゃう。

そう思っていたら、東京にいる友達からプレゼントが届きました。

私が死んだらこの子泣いちゃう。この子だけじゃなくてたくさんの人を泣かせてしまう。


母は『大好きなら、大切なら、明るい言葉でいて欲しい。』と言いました。」


「咲笑ちゃん、ずっとそうやって生きてきたもんね。つらかったね。

そうだね。咲笑ちゃんが生きているこの世界が大切な人はたくさんいるんだから。」



「脚本も舞台監督も母です。

私は一役者に過ぎません。

子育ては彼女の趣味である舞台の台本だったんです。」



「お母さんにとっては、咲笑ちゃんは自分の理想を演じてもらう役者かもしれない。

でも、咲笑ちゃん自身がそうである必要はないんだよ。」



「台詞を間違えると怒られるんです。
でもどんなに嫌でも降板はさせてもらえない。」


「咲笑ちゃんに笑顔でいて欲しいのは、みんな同じかもしれない。

でも、お母さんは無理でも、笑顔じゃない咲笑ちゃんを拒絶する人ばかりじゃないよ。」


「ずっと役者をしてきました。

それでも母は不満が常にあり、私は本当は彼女の娘だから、本心もぶつけたくなるんです。

でも彼女はそんなこと聞きたくないんです。脚本に書いてないから。


うん、知ってる。泣かせてくれる人たくさんいる。先に泣いてくれる人もいるよ。

でも、私はダメな役者なんです。」



きっと違う。


咲笑ちゃんがお母さんに愛されたいのは知ってる。でも、だからお母さんの脚本通りに生きなきゃいけないって訳じゃない。


生きていくために演じるふりをするのが必要な時があるかもしれないけど、咲笑ちゃんには咲笑ちゃんの生き方がある。


こんなにも友達に愛されてる人としての生き方がある筈。

誰かにとってかけがえのない人としての生き方がある筈。」



「少なくともバロンにとっては、私は人間だけど彼の母で、これは舞台ではなく現実だね。



昨日、カナダからカードが届きました。

ストレスを解放するハーブティーと紅茶の香りのリップクリームとを一緒に送ってくれました。


『Saeへ。(これがいつ届くかによるんだけど)楽しいお誕生日を過ごしてね。または過ごされたことと思います。カナダからたくさんの愛を込めて。』


そして黒い犬のイラストの隣には『←バロン』と書いてありました。贈り物を探して、黒い犬のいるカードを探して、書いて、荷物を詰めて、郵便局に行って、送料を払って、送ってくれたんです。



母を、諦めなきゃね。

父も、諦めたのに。


愛されてることを理解したい。

両親に愛されない子が他人に愛されるわけない、彼らは騙されていると思ってしまう。

だから、私の本質がバレないように、と思ってしまう。」


「咲笑ちゃんがそう思ってるってことは、去年教えてもらったね。

まだ今は、その時になってないんじゃないかと思う。

お母さんのことも大事だけど、咲笑ちゃん自身が大事。」


「咲笑自身は、かなり死に近いところにいます。」



「でも、両親を知らない人も、愛されずに育った人も、全員が他の人から愛されない訳じゃないよね。

咲笑ちゃんが生きている世界を、いつも望んでいるよ。

僕の勝手な思いだけど、覚えておいてね。」


「うん。ありがとう。相手してくれてありがとうございました。」









幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~





最後までお付き合いいただきありがとうございました。

長くなりましたが、今回の内容は咲笑ちゃんの誕生日当日のやりとりを掲載しました。




『人生脚本』という心理学用語があります。

咲笑ちゃんは自分を縛っている人生脚本から脱出する真っ只中にいました。




次回はまた明日更新します。

咲笑ちゃんのことから少し離れて、カウンセラーとしての私の出来事をお伝えします。

よろしければ是非おつきあいください。

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