幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 15.悔やみきれない失言①
実を言うと僕は、咲笑ちゃんがこのまま幸せな気持ちを持ち続けられるとは思っていなかった。
過去からの大きな苦しみから抜け出すのは簡単なことではない。
それはここまでに至る道程を見れば明らかだった。
だから僕は、咲笑ちゃんが苦しみを思い出すタイミングが少しでも先であることを、咲笑ちゃんが今の幸せを感じる時間が少しでも長いことを祈っていた。
「『好かれているのかも』を信じようとしたら、『いつか好かれなくなるんだ』が怖くなって、またlove hungerの発作が出て眠れなくなった。
つらくなったから父親役をしてくれてる友達に連絡して、ごはん作ってもらって泊めて貰った。
まだまだ弱いけど頑張る。」
このメッセージを受け取った時、咲笑ちゃんが幸せを手に入れてからまだ1か月も経っていなかった。
やっとスタートラインに立てたのに、ここからが大事だったのに、そしてこれまで一言一言を吟味して最大限の注意を払ってきたのに、僕は不用意な返答をしてしまった。
この時に返したメッセージを、僕はこのあとずっと後悔し続けることになる。
「そうだね。
もう少し先だと思ってたけど、揺り返しだね。
実は、ここからが本当の『幸せになる勇気』だと思う。
幸せに慣れる事は、咲笑ちゃんにとっては大変な事だと思う。
今は愛されるのを『普通』だと思う過程が必要かもしれない。
自律訓練法で暗示を入れるのもいいかもしれない。
そして、気持ちの変化に対応してくれてる身体にセルフラブするのもいいかもしれない。
いろんな方法を、咲笑ちゃんはもう知ってるよね。
今は敢えてこの言葉を。
『頑張れ。』いつだって応援してるよ。」
「揺り返し、なのか…。」
「多分ね。
だからまた逆に振れるよ。
幸せの側に。
でもまた不安が来るかもしれない。
不安な時に『前の方が楽だ。』って戻らなければ大丈夫。
今の咲笑ちゃんなら、大丈夫。
ちゃんと最後に幸せの側に行けるから。」
「こわいよ。」
「怖いよね。
でも、怖さを感じるのは前に進もうとしてるのが理由だから。
怖くていいんだよ。
気付かずに走り出すと躓いて進めなくなるかもしれないけど、気付いていれば、怖くてもちゃんと進めるから。」
「うーん、そうなのか。」
「そうだよ。大丈夫!」
「いつも怖くて戻ってたの、愛されないのが当然、いつかバレるって。」
「そうだったね。
でも、このままじゃまだ割に合わないよね。
しっかりと幸せになろう。
頑張って幸せに耐えよう。
今が踏ん張り時だよ。」
「うん…。」
僕は「またプラスに振れる」ことに焦点を置いて話をしたつもりだった。
でも咲笑ちゃんは「マイナスに振れた」ことに焦点を置いてしまった。
一度伝えた言葉は取り消せない。
「揺り返し」という言葉に怯える咲笑ちゃんを、僕は必死でフォローしていた。
しかし僕の失言が招いた不安のなかにいる咲笑ちゃんに、つらい現実が襲い掛かる。
幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
自分の考えやいいと思うことを、相手が同じように受け止めるわけではない。
分かってるつもりでも、これが原因でこじれる問題は多い。
僕もちゃんと考えて用意した答えのつもりだった。
でも、思ってた通りの展開だと思った僕の心には、少し油断があったんだと思う。
だからこその後悔。
続きは明日更新します。
よろしければ是非おつきあいください。