謎めいた職業「古本屋」になりたいあなたへ 第2回
古書からすうり
古本が好きで職業にしたい、あるいは古本屋になりたいのだけど不安もあって悩んでいる…そんな方々に少しでもお役に立てればと思い書いているこの記事。
今回は「実践編」として、実務的な点を取り上げていきたいと思います。
【実践編】
◆実は意外と「肉体労働」で「長時間労働」
古本屋の仕事といえば、「儲からないけど楽な仕事」とか「本を読みながらレジに座ってて、時折お客さんに鋭い一瞥を投げかける」…映画や小説だと大体こんな感じですが、まったく完全に違います(笑)
古本の仕入作業に汗を流し、延々と値付けをし、ネット注文の古本を次々と発送しています。
だから、レジに座っている古本屋さんは暇なのでなく、やっと仕入から帰ってきて、肝心の値付作業かネット販売作業に取り掛かっているのが、本当のところなのです。
例えば、本棚3本分の買取依頼があったとします。
ぜんぶ単行本だったら、ざっと750冊、重さは300kg。
書斎は2階にあることが多く、階段を何往復もして本を運び下ろし、さらに玄関先から庭や石段を通って店の車まで運ぶ…季節が真夏だったらけっこう汗をかきます。
何しろ本って冊数があれば重いんですよ!
これがどのぐらい時間がかかるかと言えば、
作業と休憩、移動も考えると、結局半日くらいはかかることになります。
そこから、本の仕分けを経て、仮に半分の冊数375冊をクリーニングして値付けをするとしても、1冊あたり2分で済ませても12時間半…ネットに出品するなら登録作業にさらに時間がかかります。
こんな買取が何件も続けば、それはそれで嬉しいですが、確実に寝る時間がなくなります(笑)
「本は自然にどんどん増える」、この先輩古本屋さんの言葉はしみじみ実感します。
◆店舗販売は意外に難しい
こうして、新しく仕入れた古本がどんどん店舗に並んでいく訳なのですが、ところが店舗ではそんなに売れない(笑)
これは不思議なんですが、大体どの古本屋さんに聞いても、店舗では売れないそうです。
古書からすうりが店舗を構える三重県名張市は人口8万人の町…本好きの方の絶対数が少ないのは間違いないでしょう、本好きといっても新刊は読んでも古本は読まない方もいますし。
では、都市部はどうかというと、確かに地方よりずっと多くの古本が店舗で売れるけれど、テナント料が高いせいで、結局、店舗を維持するほどの売上にならない訳です。
店舗販売だけで古本屋を営むのは、難易度が高いのは間違いないと思います。
◆意外と知られていない「ネット販売」と「イベント販売」
では、古本屋さんはどこで収益を得ているかと言うと、「ネット販売」と「イベント販売」です。
代表的なサイトとして、アマゾン、ヤフオク、日本の古本屋などがあります。
売れ筋の本の種類、価格帯、出店条件が異なるため、アマゾン/ヤフオク派と日本の古本屋派に別れるように思います。
ちなみに日本の古本屋だけは、古書組合に所属している古本屋さんしか出店できません。
日本全国あるいは海外の方から注文が入りますから、数多く出品すれば売上は安定します。
イベント販売、これは古書即売会と言いますが、土日のみのものから、1週間近く続くものまで、規模はさまざまです。
当然準備が必要で、たくさんの古本を用意し、それを毎回会場まで運ぶ…結構体力勝負です。
大規模な即売会となれば、数千冊の本をトラックを借りて運ばねばなりません。
それでも、即売会はいわばお祭りであって出店自体が楽しいですし、まとまった売上も期待できます。
◆倉庫が必要なのは意外ではない
繰り返し大量の本を扱うことになると書いてきたので、倉庫は絶対必要なのはもう明らかですね。
実店舗ありなしの営業形態を問わず、倉庫がないと大変です!
買取や仕入で数百冊の本が入ってきた時、店舗に置くと、歩く場所がなくなります。
あまり知られていませんが、ネット販売用あるいはイベント出店用の古本は、作業がしやすいよう店舗用の古本とは別にしています。
つまり、お店にならんでいる古本の数倍の量を在庫として持っているのは普通です。
その倉庫も本があり過ぎて、まっすぐ歩けないのも古本屋では普通みたいです(笑)
だから、開業時には倉庫も探しておき、きちんと収納できるようスチールラックなども用意した方があとあと絶対楽です。
かくゆう古書からすうりは、倉庫の引っ越しを3回もする羽目になり、その度ごとに、どこに何があるのか大混乱でした。
地方だと、倉庫物件はあまりなく、仕方なく一般住宅を倉庫代わりにする方も多いようです。
また、本の重みで床が傷みやすいので、その点も大丈夫な物件を探しておくことをおすすめします。
◆意外な落とし穴、店舗所在地
結局、ネット販売があるんだから好きな土地で古本屋を開業しよう!…というのは実は要注意。
古本屋の生命線は仕入なのです。
だから、大量の古本を仕入られる大きな業者市がある都市部、このあたりだと大阪、京都、名古屋から遠すぎると不便です。
買取だって人口が少ないと期待できません。
販売すべき古本が手元になければ、ネット販売もイベント販売もできないからです。
簡単に都市部へのアクセスでき、人口もそこそこある土地を選ぶのが賢明だと思います。
◆まとめ
まだまだ書きたいことがあるけど、終わりそうもないので、このあたりでまとめます。
古書からすうりの場合、「古本屋になった!」ではなく、日々気付きがあって「古本屋になっていった」という実感が強いです。これまで挙げた事柄も、その気付きの一部です。
古本屋になるにあたって、まずは、一般の方も参加できるイベント「一箱古本市」、あるいはメルカリなどのオークションを体験してから、自分にあった形態で古本屋を開業するのが一番おすすめです。
それと、自分なりにこれはと思う古本屋さんに話を聞きに行くことも強く勧めます。古本屋はいわば絶滅危惧種の職業、同業者が増えるのは嬉しいことです。
古書からすうりも、そうやって訪問した先輩古本屋さんとのご縁で、イベント出店のお誘いを受けたり、他の同業者を紹介して頂いたりと、古本屋として幅が広がっていきました。
孤独に本に囲まれているイメージもある古本屋ですが、やっぱり古本屋も商売、人と人の関係は大事にしていきたいものです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
おまけとして細かい点を少し。
<魅力ある店舗したいからギャラリーやカフェを併設したい>
「やめておいた方が良い」というのが答えです。
古書からすうりも当初カフェを併設していましたが、ほぼ相乗効果はなく仕事量が増えるだけでした。
カフェ利用の方は本に興味がなく、雰囲気作りの調度品と捉えているようでした。
一方、本好きの方は、コーヒーを飲むくらいならもう1冊本を買いたいと、これまた相乗効果なしでした。
考えてみれば、異なるジャンルを1度に楽しみたいという方って、そんなにいないですよね。
それでも雰囲気作りを重視してあえて併設を試みるなら、別の方に経営自体を任せる「場所貸し」という形が無難と思います。
<バナナ箱、リンゴ箱、ミカン箱?>
本を運ぶダンボール箱のことです。
普通のダンボール箱だとすぐ壊れて役には立ちません。
男性におすすめはバナナ箱、とにかく頑丈で古本が沢山入ります。
目一杯入れて何段にも積み上げても壊れません。
ただし20kgはあるので女性にはきついと思います。
また、サイズの関係でトラックやバンには積みやすいけど、普通車の場合はミカン箱が積みやすいように感じます。