ラパトルは9メートルもない
左手親指の中手骨のみから知られる獣脚類・ラパトルはさまざまな媒体で「推定全長9メートル」と紹介されてきました。
しかし、オーストラリアの博物館・オーストラリアンエイジオブダイナソーミュージアムの公式ページではもっと小さな数値を掲載しています。
『Rapator was a theropod probably similar in shape too, but slightly smaller than, Australovenator, at about 4–5m long.』
ラパトルもおそらくアウストラロヴェナトルと似てるけどより小さく全長4〜5メートルだった(筆者訳)
なんと半分。なぜこんなに数値が割れるのでしょう?実際に化石を見て考えてみることにします。
このページを見てください。これは2013年の論文で使用された、アウストラロヴェナトルとラパトルの中手骨の比較です(権利上直接画像貼ることができないのでリンクからお願いします)。
Aがアウストラロヴェナトルの中手骨、Bがラパトルの中手骨。重複化石証拠がこれだけなので他の部位の比較はできませんが、少なくとも中手骨での比較では、ラパトルはアウストラロヴェナトル(記載論文で全長6メートルであると推定されている)より小さいのです。
系統と復元の変遷
ラパトルは当初、単に獣脚類の中手骨として記載されました。
現在のようなメガラプトラ復元が一般的となった要因は、2009年のアウストラロヴェナトルの記載です。
さて、9メートルのラパトルの推定はいつ行われたものなのでしょう?探した限り、最も古いものは1998年の書籍(Long, J.A. Dinosaurs of Australia and New Zealand and Other Animals of the Mesozoic Era, Harvard University Press, p. 104)でした。ラパトルの9メートル推定は、アウストラロヴェナトル記載以前に推定された数値だったのです。
これがアウストラロヴェナトル記載前のラパトルです。アロサウルス的なビジュアルで、腕はそこそこ長く描かれていますが、“手”はそれほど大きくありません。
ここから、9メートルの推定はアロサウルスのような体型での見積もりであり、“手”が極端に大きなメガラプトラとしての復元ではないと考えられます。
最後に興味深い話を一つ。アンドレア・カウ先生のブログ「Theropoda」によれば、前回南極アロサウルス(オッシー)として紹介した尺骨(NMVP186076)はラパトルに由来する可能性があるというのです。
メガラプトラの尺骨は内側に指の筋肉がつく場所大きめにがとられていたりはしますが、サイズに関しては他の獣脚類と比べて特段大きいわけではありません。アロサウルス風復元でもメガラプトラ復元でも尺骨による全長推定値はさほど変わらないでしょう。
“オッシー”はアロサウルス類として紹介された複数のブログで、全長4メートル程度であると紹介されており、面白いことにオーストラリアンエイジオブダイナソーミュージアムの推定全長と合致します。