混乱渦巻く:シノプリオサウルス属
古生物ファンの間ではスピノサウルス科の話になったときしばしば「シノプリオサウルス」の名が上がります。
「シノプリオサウルス」は首長竜であるにもかかわらず。今回の記事はそんな混乱渦巻くシノプリオサウルスの歴史です。
黎明:1944
中国のジュラ紀自流井層から大腿骨と坐骨、椎骨、歯が産出しました。断片的ではあるものの、保存状態は良好で、ぺしゃんこにならず三次元的に保存されていました。楊鍾健はこの化石を首長竜と同定し、1944年これを元に「シノプリオサウルス・ウェイユアネンシスSinopliosaurus weiyuanensis」を記載します。
シノプリオサウルスは発見された地層から、淡水の首長竜であったと考えられました。
また、発見された標本のうち、坐骨はレウロスポンディルスLeurospondylusを彷彿とさせると注目されました。
なおレウロスポンディルスの分類は詳しいことはわかっておらず、プリオサウルス類になったりプレシオサウルス類になったりしています。
一転:1975
1975年。前期白亜紀那派層から見つかった歯がシノプリオサウルス属の新種「シノプリオサウルス・フスイエンシスSinopliosaurus fusuiensis」として記載されます。前述した歯のみに基づく分類です。
異論:2008
2008年、ビュフェタウトらが「シノプリオサウルス・フスイエンシス」に異論を唱えます。
フスイエンシスはシノプリオサウルス属でないどころか、そもそも首長竜ではないというのです。歯冠の湾局面に鋭利なキールを持ち、首長竜類にはない特徴だと指摘しました。
そして、この歯の主は恐竜スピノサウルス科であるとしたのです。
フスイエンシスの歯は鋸歯がなく畝がある特徴をもち、鋸歯がない点でスピノサウルス亜科的、畝がある点でバリオニクス亜科的だとされています。
特徴や地理からフスイエンシスはスピノサウルス科のなかでもシアモサウルスに近いことが示唆されています。
のさばるフスイエンシス、忘れられるウェイユアネンシス
このように研究が進められてきたシノプリオサウルス。
模式種ウェイユアネンシスは首長竜のため、シノプリオサウルス属は首長竜の属です。フスイエンシスはシノプリオサウルス属ではないことがわかっているため、シノプリオサウルスと呼ばれるべきではありません。
しかし、“フスイエンシス”のイメージが強いのか、インターネットの世界はフスイエンシスに支配されています。
シノプリオサウルスはそもそも有名な属ではないので、ついこの間までは大々的にフスイエンシスのイメージがつくこともなかったのですが、PNSOが“シノプリオサウルス”としてスピノサウルス科のフィギュアを出しやがった出した影響が大きいでしょう。
上位画像検索結果では、ウェイユアネンシスは筆者が用意した画像しかありません。
何度も言いますが、“フスイエンシス”はシノプリオサウルスと呼ばれるべきではありません。現状特に学名のない“シアモサウルス的な何か”です。
当noteを読んでくれた皆様、ぜひシノプリオサウルスは首長竜と覚えていってください。