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【日記】ラオスにあったもの、中国

こんにちは。ここ2週間ほど、タイ・ラオスに調査に行っていました。水田がもつ水質浄化機能の程度を明らかにする調査です。農業に使う水の20-30%は蒸発散によって気体になりますが、残りの70-80%は失われないまま川、湖、海などに戻ります。「農業は大量に水を使いすぎている!」という主張があり、確かに大量に”使用”していることは否定しませんが、”消費”しているわけではありません。

研究の話は別の投稿に譲り、今日はラオスで考えたことをまとめたいと思います。

まず、村上春樹「ラオスにいったい何があるというんですか?」(文藝春秋、2015)を紹介します。
惹かれるタイトルですね。僕はラオスに行くのが初めてだったので、ラオスにはいったい何があるのかわかりませんでした。教授や友達に聞いても、口をそろえて「何もないから良いんだよ」と言われます。2020年時点で、ちょうど高知県と同じくらいのGDP埼玉県と同じくらいの人口で、そのうち約半数が18歳以下7割以上が農業従事者の国です。あと一応社会主義国です。この情報から、なんとなく自然豊かでのどかな国という印象を受けました。

実は、先ほど紹介した本は5年前のもので、そこには「国全体のGDPは、鳥取県の経済規模の約三分の一に相当する。」(p.134)と説明されています。実際、ラオスのGDPはこの7年でだいたい1.8倍になっています(村上春樹先生がラオスを訪れたのは7年よりもっと前でしょうが)。7年間の成長率が180%と考えるとメキメキ発展していることがわかります。

では、ラオスに到着してみていったい何があったのかと言うと、そこには中国がありました。中国語で書かれた「ようこそ、ラオスへ」を見て入国し、無数の中華料理店を通過してホテルに向かいます。中国の投資で敷かれた道路には中国の石碑が立ち、中国の投資で建てられたビルには中国の国旗が飾ってありました。最も中国だったのは、「中国ラオス鉄道」という鉄道の駅です。中国には行ったことがないのですが、あの駅は非常に中国でした。

ラオスの面積は日本の三分の二くらいですが、人口は埼玉県と同じくらいです。首都ビエンチャンに人口が集まっているため、首都以外の人口密度が非常に低く、土地が余っている状態です。すると、投資家が余っている土地を安く買い、開発が進んで値段が高騰したら売ります。現地の農家からすると、管理が大変な上に儲からない農地は売ってしまった方が豊かに暮らせるので、投資家の進出はポジティブに受け止められることが多いです。こうして利害が一致し、ラオスへ外国資本(主にお金があり距離が近い中国)が進出して急速に開発が進んでいます。GDPの成長もその表れです。

この状況を批判するつもりはありませんが、明確に問題になっていることがあります。それが環境社会配慮の欠如です。最近先進国では浸透してきていますが、環境社会配慮とは、ダムや道路などを建設するときに周囲の環境に与える影響に気を付けよう、という考え方です。日照権をめぐる問題がわかりやすいですが、配慮されずに辛い思いをした人が声を上げることで、後からルールが整備されることも少なくありません。

首都ビエンチャンで、気象レーダーの横に気象レーダーより高いビルがありました。これではビルの裏にある雨雲をレーダーが感知できないので、建造物の高さには制限を設ける必要がありますし、大抵の国にはそういうルールがあります。調べた限りでは、ラオスにはまだそういったルールがないようです。

ルールがない以上ルール違反とは言えないですし、土地開発で豊かな生活を手に入れた人々はたくさんいるので、外国資本による急速な発展に反対するつもりはありません。むしろ、先進国に住みながら「環境配慮を!」と言って開発を制限する主張の方が、よっぽど疑問に思います。ただ、森林の真横にそびえ立つ高層ビル、現地人には住めない高級住宅などを見ると、逆行が許されない開発の波を感じました。

あと5年もすれば、「ラオスにいったい何があるというんですか?」なんて言われることはないでしょう。少なくとも、ビエンチャンにないものはどんどんなくなっていきます。それは同時に、ラオスにあったものがなくなっていくということなのかもしれません。

ナムグムダム(ラオス)実は日本の会社が建設しました
中国ラオス鉄道、ビエンチャン駅。電光掲示板など、非常に中国です。


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