ヴィンツェンツォが出来上がるまでの一考察~21
叔父と書斎のソファで向き合っていた。いつものように香りの良い紅茶が届けられる。
アニタのアパートの前で立ち去りがたくしていたら、スマホが胸ポケットで鳴動した、出ると、いつもの青い目の護衛の男の声だった。「旦那様がお呼びです」すぐにベントレーが迎えに来た。護衛?いや監視されていたんだな。
叔父は紅茶を一口だけ飲むと、両手をすり合わせるようにし少しだけ首をかしげて、何かを言うのを遠慮しているように感じられた。
「ヴィンチェンツォ」
「はい」
「お前は、彼女はいないと言っていなかったか?」
顔が一気に上気した、きっと耳まで真っ赤だ。さっきのアニタとのキスが叔父に報告されているんだ。護衛は、護衛だけではなく、俺の行動を見張っていて叔父に報告をしたに違いない。だがそれは予測できたことだ。
「叔父さん、僕はその・・・」
叔父が右手を軽く振った。
「いや、いいんだ。誰と付き合おうとお前の自由だ。だがその子は以前フードバンクでも襲われているだろう?」
叔父は思った以上にあの日にフードバンクで起きたいざこざを知っているらしい。
「そうですが・・・」
「気を付けるんだ」
アニタにも身を気を付けろということ?そうなのか、俺が足を踏み込もうとしている世界ではそこまで必要なのか?
「お前の様子は少し聞いただけだが」軽く咳ばらいをすると叔父は続けた。
「誰かお前に興味がある奴がいたとして、そいつが彼女の家を特定してしまえるような行動は、慎んだほうがいい」
俺は耳まで真っ赤になって肩をすくめた。
素直に恥ずかしかった。あんな、まるで高校生のような事をするなんて、そしてそれを見咎められるなんて。自分でもまさか思ってもいなかったのだけど。アニタに少し冷たくされて、何かが堰を切ったように俺は・・・。
「それから、聞かせておきたい情報がある」
その男は、ミラノ市内に戻っていた。
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