“スタートの一手”には“ゴールの一手”と同じ価値がある!
1月に開催された【キャンパラバトル】。“車いすクライマー”によるコンペです。大会名は、“キャンパシング”という両腕で体を持ち上げるクライミングの技術に由来します。
足が使えない彼らは、キャンパシングによる両腕だけで壁を駆け登ります。車いすの人間がクライミングに挑むというのは、一見ミスマッチのようですが、れっきとしたスポーツであり、エンターテイメントであり、障害者クライミング=【パラクライミング】という競技として成立しています。
そんなキャンパラバトルに挑む5人のクライマーたちが、パラクライミングの競技人口をいかに増やしていくかについて語り合いました。
▼ゴールまでの一手と、スタートの一手に大差はない
大内秀之:今回のキャンパラバトルは初心者というか、登れない人も壁に登れる機会になればいいのかなと思っていて。大阪から障害のある子どもたちを呼んでいる。
大内:小学生と高校生。小学生の男の子は脳性麻痺、もう一人の女の子は水泳をしている車いす。脊椎損傷かな。高校生の女の子も脳性麻痺。二足歩行はできるが、クライミングするときは、ロープで引っ張ってもらわないと登れない。でも、ゴールにあと一歩で辿り着くっていう一手と、スタート地点から踏み出す一手って、あまり大差がない気がしていて、彼らのような初心者のクライマーが、一生懸命に一手を出そうとする姿に感動した。その感動をこのキャンパルバトルで是非みんなに見てもらいたいと思った。
大内:僕たち5人の登りより、そっちの3人の登りの方が盛り上がる気がする(笑)。そこに負けないようにやっていかんとな。
▼障害者とオリンピック選手が一緒に参加できる競技に
大内:いま車いすのクライマーってそれぞれ症状も違う。選手層が10人20人となっていったら、まるのクラス、平井君のクラスって、いろいろなクラスができてきたら、もっと公平なクライミングになっていくんじゃないかな。
畠山直久:車いすバスケでも、ローポインターとハイポインターが一緒になって戦っているみたいにね。
丸山晴生(通称まる):おもしろい仕組みとかできないですかね。例えばバスケットは健常者が出ても制度上は成り立つ。でもクライミングは、健常者と車いすは同時には並べないのが現実。健常者と我々が同じ土台で戦う仕組みができれば究極のルール。それができれば僕らは、残存機能のことを考えなくてもよくなる。
大内:実はちょっと考えていて、チーム戦なのかな。例えば、健常者と車いすと視覚障害者が3人そろわないとチームが成立しないみたいな。障害者とオリンピックに出たようなクライマーが一緒に出られるような競技にしたらおもしろいのかな。それを「ユニバーサルコンペ」略して「ユニコーン」というコンペを構想している。ユニコーンは現代にはない幻想的なもの。そんなコンペを作ることを考えていて。引退した人とかシニア、小さい子供とかも参加しやすくなるのかな。そうしたら誰もが参加できるじゃないですか。そうすると、障害のある人とない人のコミュニケーションが生まれてくるのでは。
まる:個人でやるもの、という先入観にとらわれていたので、おもしろそう!性別×年齢×筋肉量とかね。
大内:肺活量とか(笑)。そういう数値化できるものでハンディをつけてもおもしろいかな。その中心にいるのがこの5人であって欲しいなと勝手に思っています。代表レベル、世界レベルの話をするのも大事だけれど、楽しむためにどういった工夫をするか。車いすで初めてジム行くときにはめっちゃ勇気いるじゃないですか。それってどうやって勇気を振り絞っている、みたいなことを話し合えたらめちゃくちゃおもしろい。
競技志向のコミュニティにしたいわけではない。もちろん戦うときは、この5人がライバルになるが、誰かが1人が登っていたら、そのほかの4人は応援者であってほしい。誰もが参加できる方法ってないかなって。キャンパラバトルもひとつの答えやし、ユニバーサルコンペもひとつの答え。もっといろいろな答えがあると思うし、いろいろクリエイトしていきたい。
平井亮太:こないだ公園で40回懸垂しているおじいさんに会ったのでスカウトしなきゃ!
▼女性の車いすクライマーも必要だよね
まる:競技人口を広げることも大事。競技人口を広げると使えるジムも広がる。毎回キャンパラバトルをやっても、この5人しかいないとなると飽きてしまうし、非常にもったいない。いろいろ工夫してルールを作り、発信し、競技人口を増やしていきたい。
片岡雅志:車いすクライマーは足が使えない。でも、スポーツを一緒に楽しんだり、応援し合えたりする。登っていてガンバガンバの声援の力ってすごくヤバイなあって。一人で登ったときにギャラリーがいないと、一手伸ばすのが怖かったんですよ。でも、この間登りに行ったときは、いろいろな人に応援してもらって、自分がトライした中で一番登れた。声援ってでかいなって思う。障害なんて関係ない。平等だなって。いろいろな人の応援や、支えてくれる両親、一緒に登っている仲間に対して、感謝の気持ちを持っていれば、自分の熱意が伝わるのかな。そこを大事にしていけば、分かってくれる人、見てくれる人は絶対いると思う。全力で自分の熱意を自分の背中で語れるようなパフォーマンスをしていきたい。
大内:立派になったなあ。
平井:熱い男だな。
片岡:たまに暑苦しいって言われますけどね(笑)
片岡:まだやりだして2年だが、2021年のモスクワの世界選手権のときに、カテゴリーが成立してないクラスがあるのを見たりすると、一人のクライマーとして見過ごせない。東京オリンピックでスポーツクライミングが取り上げられたが、まだクライミングというスポーツ自体も世間に浸透しきっていないと思う。そうするとパラクライミングってもっと何?っていう話になってくる。僕は、知り合いの障害を持っている人に、登らない?ってナンパしまくっている。そこで感じたのは、出来ないって思っている人、出来ないって最初から決めつけている人が多い。スポーツは楽しいからやるわけで、誰かに強制されてやるわけではないから、その人たちを説得するのはすごく大変。
このあいだ、SNSで 0.00001%でもいいから、クライミングやりたい人は連絡ちょうだいって発信した。そうしたら、大学の友達が声をかけてくれて、ジムに来てくれた。僕はまだ28歳なので、まだまだ体力は有り余っている。もちろん競技で勝ちたいというのもあるが、知ってもらわなければ広がらない。障害ある人にも障害ない人にも知ってもらいたい。
平井:知ってほしいというのが一番。1人でも多くの人に知ってもらいたい。
畠山:女性クライマーも必要だよね。
まる:確かに。このメンバー、花がないですよね(笑)
平井:女性にはハードル高いですよね。
まる:補助ありきで参加してもらって、ホールドに触れてもらうというところから始めることが大事ですかね。女性には敬遠されがち。どうせ力自慢なんでしょうって。でも、健常者のクライミングも、インナーマッスルを鍛えるとかいって、女性ファンを獲得してきた。パラクライミングも、気軽に楽しめますよ、ということを前面に押し出して、花を増やしていきたいですよね。
大内:アメリカには、脊髄損傷の女性クライマーがいて、彼女が話していたけど、アメリカにも車いすクライマーって少ないんだよねって。片足の女性クライマーはいて、彼女はすごく強かった。マッチョで、モデルとクライマーをやってる。
畠山:車いすの男女比って男性の方が多いってイメージあるよね。
まる:だったらなおさら頑張らないと。クライミングって考える楽しみもある。考えることに重きを置いたクライミングがあってもいいですよね。
大内:さっきのユニバーサルクライミングには、応援する役割の人を置いてもいいよね。声量でポイントになるとか!
大内:今日の話だけでも、未来のクライミングがイメージできるいいトークになりました。みんな、ありがとね。
(了)
撮影協力:写真の力で、もっといい社会へ。『ソー写ルグッド』
パラクライマーたちの語らいは、こちらの記事で一覧できます↓
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