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【白杖の金メダリスト】と【車いすの銀メダリスト】 パラクライミングの可能性を語る

2022年1月に開催された、“車いすクライマー”によるコンペ「キャンパラバトル」。主催したのは、世界選手権の銅メダリスト、車いすの大内秀之さん。そしてゲストとして、子どもたちとのデモンストレーションで登りを披露した、世界選手権の金メダリスト、視覚障害者の小林幸一郎さん。そんな2人がコンペを振り返りながら、クライミングの持つ可能性、そして目指す未来について語り合いました。

大内秀之選手 (4)
小林幸一郎さん(左)と大内秀之さん(右)

▼感動を伝えられる、勇気を与えられるクライミング

小林:僕は第三者的な立場で呼んでもらったけど、何をするの?って感じで(笑)。デモンストレーションでは、小学生から高校生までの3人子どもたちと関わって、彼らにナビゲートしてもらって登る機会をもらった。視覚障害者をナビゲートするには3つのステップ、H(方向)K(距離)K(形) があって、それぞれに役割を持ってもらった。子どもたち3人で一緒になってはじめて、ひとつのことができるっていう経験につながったらいいなと。彼らは一生懸命、ナビゲートの準備してくれた。関わってくれた3人が、自分が登るのとは違う関わりの中で、輝く姿を周りの人に見せられた時間が作れたのは、自分が関われて良かったと思えた瞬間でした。

子どもナビ
小林さんのナビをする子どもたち

大内:子どもたち自身にもデモンストレーションとして登ってもらった。登るのはほとんど初めてに近かったから仕方がないけど、いちばんレベルの低い登りだった。でも、いちばんの歓声が上がっていた。クオリティが低くても応援されるってことは、誰でも応援されることができるってこと。新しいことにチャレンジすることって、初めてなんだから誰でもクオリティが低くなるものじゃないですか。それでも、あれだけ声援がもらえるっていうのは勇気になる。飛行機も、飛び立つ瞬間にめっちゃエネルギーがいるじゃないですか。最初の努力がしんどいって、みんな知っているから、ガンバって声が出る。みんなもっともっと応援できるのにしていないことに気づいて欲しいな。

小林:スポーツって何って考えてみると、きっとルールがあるからスポーツなんだよね。キャンパラバトルもオリンピックもルールがあって、規定されている中で競い合うから盛り上がる。それに対してクライミングって、もっと広い意味でのスポーツで、サーフィンとか山登りとかと一緒で、楽しむスポーツ。別に勝ったり負けたりの中でやっているわけではない。競技でやっているスポーツと、楽しむスポーツは似て非なるものだと思う。子どもたちの登りは、楽しむスポーツであって、ルールという枠がなかったのにも関わらず、多くの人たちに感動を伝えることができて、勇気を与えることができたというのは、クライミングの持つ魅力なんじゃないのかな。

子どもクライミング
クライミングに挑戦する子どもたち

小林:キャンパラバトル本戦に関しては、お互いにパラクライミングに関わっている中で、自分の出場クラス(車いす部門)を盛り上げていこうっていう大内の姿勢が、前回大会よりもより強く感じられて、正直、焦りを感じるぐらいだった。車いすでクライミングに向き合う仲間たちの数が確実に増えていて、じゃあ自分の視覚障害者クラスはどうなんだ、アスリートの卵たちが増えているのか、クライミングを楽しいと思ってくれる障害者たちが増えてのるかってことをすごく考えさせられる一日だった。

大内:まったく焦らなくていいですよ(汗)15年間走り続けている小林さんがいなかったら、パラクライミング自体が日本になかったし、僕もやっていない。一緒にMCをやるのは面白かったですね。小林さんと一緒に、徹子の部屋みたいなことをやって、ほかの若い子を鼓舞できたりしないかな(笑)

小林:僕が15年前にモンキーマジックを始めたっていうのは過去の話でしかなくて。大内がやろうとしてくれていることは、未来をつくるための動きで、自分も同じように未来をつくろうとしている立場なので、やっぱり焦りを感じる。

あおり
コンペに出場した5人の選手

▼人生で大事なのは、創意工夫をあきらめないこと

大内:今回、かなりいいもになりすぎちゃって、次のキャンパラバトルは、もっと良くしていかないといけないじゃないですか(汗)。次に出せるものって何かなって考えると、女性のパラクライマーが参加できたらいいなとか、日本にいる海外のパラクライマーとか、高齢者とか。たまには、ハズれの会、ダサい会もあると思うけど…。人が生きていく上で大事なのは、創意工夫をあきらめないってことだと思う。

車いすクライマーにも、登れる人、登れない人がいる。同じ土俵に立って戦うレースもあれば、創意工夫が必要なフィールドも必要。なぜかというと「誰もが主役になれる」ということが大切だから。君は登れるから主役だよ、君は登れないから脇役だよっていうのは、社会の縮図そのままやと思う。そんなん面白くなくて、「あなたがこの場に来てくれたことが価値なんだよ」と思いたい。誰もが生きやすさを感じられるように、生き方やルールを創意工夫したい。それを僕は【ポジティブ】と呼んでいる。それって、子どもと大人が遊ぶときにどうしたらいいか、目の見えない人と耳の聞こえない人が同じ授業を受けるためにはどうしらたらいいかということに精通していくと思う。創意工夫でいろいろ考えていこうよっていうことを次世代に伝えていきたい。

集合写真 (3)
選手、観客、スタッフ、全員で記念撮影

小林:モンキーマジックでも「見ざるチャレンジクライミング」というものをやっている。目が見えるとか見えないとか関係なく、全員が意図して“見ざる”。大人も子どもも、男子も女子もみんな一緒に、目隠しをして同じ条件で結果を競う。大内のいう創意工夫って、すごく素敵な話だなあと思って聞いていた。

大内:創意工夫をあきらめた社会って腐っていくだけやと思う。能力のある人だけが残っていって、能力のない人が隅っこに追いやられていく社会になる。これから人口が減っていく国で、あいつ嫌い、うざい、きもいっていうんじゃなくて、あいつとこいつとそいつを一緒にしてガラガラポンして遊ぼうぜって。そこから生まれるものに価値があると思っているので。歩けない大内と、見えない小林さんが創意工夫していったら、めっちゃ面白いビッグバンが生まれたりして。

僕自身、クライミングに出会って気づいたことが多い。バスケってだまし合い。ずるい奴が勝つんですよ。フェイントも右から抜きますよって演技がうまいやつが抜ける。あとシュートを決めることが誉れみたいな感じで。ほかの選手4人がいるから、1人がシュートを決められるのだけれど、シューターしか注目されにくい。それはそれで楽しいんですけど、クライミングって純粋に自分との勝負じゃないですか。あいつがどこまで登れたかより、自分がどこまで登れるか。純粋に仲間でありライバルでいられるところがいいですよね。

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主催者である大内さんのトライ

大内:あと成功体験を感じやすいなと思います。車いすバスケって、ふつうのバスケのリングの高さにシュートを打たなければいけないので、素人がシュート決めるってことがめちゃくちゃ難しい。でもクライミングは、自分の一手二手は自分次第。成功体験が手に入りやすいから共感しやすくて応援しやすいのかな。

(了)

大内さんと小林さんについて

▼大内秀之さん

・兵庫県出身。
・生まれながら脊髄にガンを抱える。
・ガンは摘出するも、腹筋から下にマヒが残り、車いす生活に。
・13歳、車いすバスケを始める。
・大学で社会福祉士の資格を取得。
・現在、大阪府堺市立健康福祉プラザに勤務。
・36歳、小林さんと出会い、クライミングを始める。
・38歳、一般社団法人フォースタート設立。車いすバスケチーム「SAKAIsuns(サカイスンズ)」を運営。
・2018年、パラクライミング世界選手権インスブルク大会(オーストリア)AL1クラスに初出場
・2019年、世界選手権ブリアンソン大会(フランス)AL1クラス準優勝

▼小林幸一郎さん

・東京都出身。
・16歳でフリークライミングと出会う。
・大学卒業後、アウトドアインストラクターとして活躍。
・28歳、「網膜色素変性症」が発覚。将来失明すると宣告される。
・34歳、米国の全盲登山家エリック・ヴァイエンマイヤーとの出会いから、障害者クライミングの普及を目指す。
・37歳、NPO法人「モンキーマジック」設立。
 同年、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ登頂。
・世界選手権“視覚障害”クラスでの優勝4回。
・2023年、競技者としてのパラクライミングから引退。
・現在、日本パラクライミング協会 共同代表を務める。

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