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“歩けない僕”と“見えない私”の交換日記⑥by小林幸一郎

パラクライミング世界選手権“視覚障害”クラスで4連覇のレジェンド・小林幸一郎さんと、“車いす”クラス銀メダリストのルーキー・大内秀之さんが、クライミングへの思いを語り合うため、交換日記を始めました。

前回、大内さんからは、厳しいトレーニングに取り組むことで、コロナ禍という辛い時期だからこそ成長したいと思えるようになった、ということが語られました。そんなストイックな大内さんに対して、小林さんは、“楽しむこと”について語ってくれました。


▼良いことは続きにくい けど楽しいことは放っておいても続く

ゴールデンウィークが慌ただしく過ぎていってしまいました。東京も、緊急事態宣言が延期になって、今月末までという感じです。
送ってもらったビデオレターで語られていた、大阪の急性アルコールの若者が、病院に行けずに亡くなってしまった、そのことから自分の生活が変化したという冒頭の話は、自分にとってもすごくショックでした。
東京が今どうかというと、おそらく東京は今の大阪ほど医療の状況はひっ迫していなくて、そこまでのリアルな現実の話を聞いたことがなかった分、自分にとってもショックな話で。去年の今ごろ、ステイホーム、ステイセーフって、いろんなところで聞いていた頃の感覚を思い起こさせるような話だった。

早く、元に戻っていって欲しいなと思うけれど、ほかの国々のように、ワクチンが日本でも多く広がっていって、コロナの前の生活がもう一度戻ってくるとは思わないけれど、できるだけに昔に戻っていきたいな。
だって、1年半くらい前までの方が、自由だったなと思うし、楽しかったなと思う。そんな楽しい日々が、自分のベースにあるんだなと思う。最近よく俺の考えを話するときに、「良いことは続きにくい、けど楽しいことは放っておいても続く」っていう話をよくする。
良いことは、どこかにちょっと無理があって、でも楽しいことは、みんな放っておいたってやりたいから、どんどん前に進んでいく。自分自身は楽しいことをどんどん作っていきたいって最近は思えるようになっています。

じゃあ、その楽しいことってなんだろうみたいなことを考えていると、ちょうど昨日の夜、NHK スペシャルで“ビジョンハッカー”っていう特集をしていました。
若い世代が社会をどう変革していくのか。行動すること、そしてビジョンを持つことについて取り上げている特集番組でした。めちゃくちゃ面白かったんだけど、彼ら20代の世代からしたら、俺みたいのはもうおじいさんだと思う。けど年齢ではなくて、大事なことは考え方なんだろうなという刺激があって。自分は何歳になっても、どんな状況になっても、こんなふうになったらいいなって発想することを大事にし続けたいっていうことを考えさせられました。

1月に大内が東京に来てくれて、めちゃくちゃ刺激的なキャンバラバトルをやってくれた。その名前にもめちゃくちゃ刺激を受けたし、やっている内容にも刺激を受けたし、こうじゃなきゃだめだな、俺も頑張ろう。
いまの時代って、大内のミニ四駆のイベントが出来なくなったり、大阪のバム(大内さんが通っているクライミングジム)がお店を閉めなきゃいけなかったり、東京でもNPO法人モンキーマジックのイベントがいろいろ出来なかったり。
どうしても考え方が後ろ向きになるけれど、自分たちがどうやって前に向かっていくのかっていうこと、そういうときに立ち返るビジョンを見続けていないと、ブレちゃうと思うのね。

キャンパラ1
大内さんが企画した両腕だけのクライミングコンペ「キャンパラバトル」

俺なんかは少なくとも「俺、だめなんじゃないかな」と沈んでしまうことがある。
俺たちはパラクライミングに向き合っているアスリート。じゃあ、自分たちは、どうしたいから、あんな苦しいトレーニングをしたりして、このスポーツに向き合っているのかな。自分はどんな社会を作っていきたいのかな。自分は何でクライミングの大会に向き合おうとしているのかな。
大内はいま、一般社団法人フォースタートの中でどんなことをして、どんな社会を作りたいんだろう。大内は今、クライマーとして、こうして一緒にパラクライミングに向き合っていて、なんであんなに大変なトレーニングに付き合えるんだろう。
じゃあ、コバさんは?って言われると、えっ!て思うかもしれないけど。どんな返事が返ってくるのか楽しみにしています。

今月いっぱい、東京も大阪も、まだまだ緊急事態宣言。周りが落ち着くまで大変だけど、できることをひとつひとつ頑張っていこうね。また連絡します。毎日毎日動画上げてるんでしょ?毎朝5時20分からトレーニングしているでしょ?本当に偉いよね。自分のダメさ加減が痛くなります。頑張ります。また連絡します。じゃあね~

(了)

“歩けない”大内さんと、“見えない”小林さん

▼大内秀之さん

  • 兵庫県出身

  • 生まれながら脊髄にガンを抱える

  • ガンは摘出するも、腹筋から下にまひが残り、車いす生活に

  • 13歳、車いすバスケを始める

  • 大学で社会福祉士の資格を取得

  • 現在、大阪府堺市立健康福祉プラザに勤務

  • 36歳、小林と出会い、クライミングを始める

  • 38歳、一般社団法人フォースタート設立。車いすバスケチーム「SAKAIsuns(サカイスンズ)」を運営

  • 2018年パラクライミング世界選手権インスブルク大会(オーストリア)AL1(車いす)クラス初出場

  • 2019年ブリアンソン大会(フランス)AL1クラス準優勝

▼小林幸一郎さん

  • 東京都出身

  • 16歳でフリークライミングと出会う

  • 大学卒業後、アウトドアインストラクターとして活躍

  • 28歳、「網膜色素変性症」が発覚。将来失明すると宣告される

  • 34歳、米国の全盲登山家エリック・ヴァイエンマイヤーとの出会いから、障害者クライミング普及を目指す

  • 37歳、NPO法人「モンキーマジック」設立。同年、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ登頂

  • 2011年パラクライミング世界選手権イタリア大会(アルコ)視覚障害B2クラス優勝

  • 2012年フランス大会(パリ)B2クラス準優勝

  • 2014年スペイン大会(ヒフォン)B1クラス優勝

  • 2016年フランス大会(パリ)B1クラス優勝

  • 2018年オーストリア大会(インスブルク)B1クラス優勝

  • 2019年フランス大会(ブリアンソン)B1クラス優勝 4連覇

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