“歩けない僕”と“見えない私”の交換日記⑮by大内秀之
パラクライミング世界選手権“視覚障害”クラスで4連覇のレジェンド・小林幸一郎さんと、“車いす”クラス銀メダリストのルーキー・大内秀之さんが、クライミングへの思いを語り合うため、交換日記を始めました。
前回、小林さんから【俺たちはこれからどんなことができるんだろう?】という問いを受けた大内さん。この壮大な問いに対する大内さんの答えとは!?
▼好きなことに対してどストレートに進んでいくエネルギー
小林さん、お久しぶりです。大内です。大阪は絶賛雨が降っています。まずはモスクワでのパラクライミング世界選手権、お疲れ様でした。僕たちの応援が届いていたのかどうかわからないんですけれども、もっともっと激しい応援をしていたら小林さんはきっと予選を通過していたんじゃないかなというのが本心で、とてもとても悔しいです。小林さんもビデオレターで言っていましたが、僕も日本のみんなも、小林さんをファイナルで見れなかったことは悔しい気持ちでいっぱいでした。ただ、こうやって遠く離れた僕たちでも、一緒になって大会を感じることができたというのは、すごい経験をしたなと思っています。小林さんと白井唯ちゃんのペアが、残念ながら決勝に行けなかったんですけれども、その悔しい気持ちをみんなで味わえたというのは、パラクライミングにとって大きな財産になったんではないかと思っています。
自身のクライミングだけじゃなくて、日本パラクライミング協会の代表として、日本代表の選手がメダルを多くとったり、ほかの予選落ちした選手のフォローだったり、大変だったかと思います。隔離が終わったら、すぐアメリカのロサンゼルスに行って、アメリカのワールドカップに出場。ほんっとに元気ですね。ワールドカップでは見事に優勝、本当におめでとうございます。ワールドカップのファイナルも、朝3時に起きて生配信を見ていました。めちゃくちゃ良かったです。メダルの色がどうのこうのではなく、世界の舞台で一生懸命頑張っている小林さんを応援するのが、僕のクライミングのライフスタイルのひとつになっています。映画の収録が続けてアメリカであったということで、最近までアメリカにいたそうですね。小林さんを見ていると、好きなことに対してどストレートに進んでいくエネルギーを感じます。それは誰もが持っているものではないので、自分も小林さんにちょっとでも近づけるように、好きなことにエネルギッシュに生活していきたいなと思っています。
ここ数か月、いろんな国でいろんな人と出会って、小林さんの人生において、この2021年は素晴らしいものになったのではないでしょうか。でも、まだ11月20日にはジャパンシリーズ第1戦があって、年明けには第2戦があって、その間にモンキーマジックのいろいろなイベントがあって。僕もフォースタートの代表として活動してきた中で、この2021年というのは忘れられない年になるのではないかと。コロナが爆発的に拡大したかと思えば、 感染者数がいきなり減る。これまでの常識が今日には崩れ去り、今日の常識が明日には崩れ去る。この時代を生きるのは、楽しいようで、苦しいようで、歯がゆいようで、笑えるような。そんな時代を懸命に生きています。
▼今日生まれた子が生まれてきてよかったと思える未来を残すために
小林さんから頂いたビデオレターに、“一緒に何ができるのだろう”という話があったと思います。一緒に何ができるか…何でもできると思っています。例えば、パラクライミングのファンを増やす、見てもらえる人を増やす、パラリンピックの追加種目になるために競技人口を増やす。そういったことも一緒にできることだと思いますし、視覚障害のある人がもっと自分の夢を目指しやすい環境をつくり上げることもそう、車いすに乗っている障害者が、たくさんのスポーツに出会えるきっかけをつくれるようにすることもそう。ただ、それは何のために?ただ単に車いすの人が幸せになるため?視覚障害の人が便利な世の中になるため?それだけではない気がしています。今日生まれた子が、生まれてきて良かったなと思える未来を残すために、何ができるかということを真剣に考えなければいけないなと思っています。
そこで一度、実際に会ってお話ししたいなと思っています。僕たちは何を作れるのだろう、何ができるんだろう、という問いを、お会いして、一緒にお話しして探して行きたいなと。何を作るか、何をやるか、というのは方法論だと思っていて、5年後10年後20年後、どういった世界を僕たちが残していけるか、そこを軸に考えていきたいなと思っています。それは、別にクライミングだけじゃなくて、法人の代表という立場だけでもなくて、いろいろな可能性があると思います。そういったことを、小林さんと会って話して模索したいなと思っています。
本当に小林さん、ロシア、アメリカ、大活躍されて、本当にお疲れ様でした。見ている人たちはずっとあなたを応援しています。では11月にまた会いましょう、さようなら~
(了)
“歩けない”大内さんと、“見えない”小林さん
▼大内秀之さん
兵庫県出身
生まれながら脊髄にガンを抱える
ガンは摘出するも、腹筋から下にまひが残り、車いす生活に
13歳、車いすバスケを始める
大学で社会福祉士の資格を取得
現在、大阪府堺市立健康福祉プラザに勤務
36歳、小林と出会い、クライミングを始める
38歳、一般社団法人フォースタート設立。車いすバスケチーム「SAKAIsuns(サカイスンズ)」を運営
2018年パラクライミング世界選手権インスブルク大会(オーストリア)AL1(車いす)クラス初出場
2019年ブリアンソン大会(フランス)AL1クラス準優勝
▼小林幸一郎さん
東京都出身
16歳でフリークライミングと出会う
大学卒業後、アウトドアインストラクターとして活躍
28歳、「網膜色素変性症」が発覚。将来失明すると宣告される
34歳、米国の全盲登山家エリック・ヴァイエンマイヤーとの出会いから、障害者クライミング普及を目指す
37歳、NPO法人「モンキーマジック」設立。同年、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ登頂
2011年パラクライミング世界選手権イタリア大会(アルコ)視覚障害B2クラス優勝
2012年フランス大会(パリ)B2クラス準優勝
2014年スペイン大会(ヒフォン)B1クラス優勝
2016年フランス大会(パリ)B1クラス優勝
2018年オーストリア大会(インスブルク)B1クラス優勝
2019年フランス大会(ブリアンソン)B1クラス優勝 4連覇
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