檸檬堂を求めて
ここのところ、家でお酒を飲むときはレモンサワーを選びがちだ。以前はハイボール派だったが、少々味がストイックに感じ、つまみを食べすぎてしまうという欠点があった。レモンサワーというとどうしてもLDH的なイメージがあり、なんとなく敬遠していたのだが、飲みだすと結構ハマってしまった。ほどよい甘みと爽やかな香りで、つまみを頻繁に口に運ばなくともごくごく飲める。それでいて、ほかの果実系チューハイとは違って甘すぎず、食事にも合う。
先日「檸檬堂」という商品が発売された。私が初めて檸檬堂を知ったのはテレビCMだ。阿部寛が「檸檬堂」という架空の居酒屋の店主役で、丁寧に皮ごと果実を絞り、レモンサワーを作るといった内容である。つい最近「結婚できない男」をNetflixで一気見し、それ以来すっかり阿部寛の虜となってしまった私は、檸檬堂のことが俄然気になった。早速調べてみたところ、檸檬堂には4種類あるらしい。アルコール度数が3%の蜂蜜レモン、5%の定番レモン、7%の塩レモン、9%の鬼レモンだ。定番レモンは定番レモンというだけあってやはり定番的な味がするのだろうし、鬼レモンはいわゆるストロング系なのだろうなと、なんとなく予想がついた。そのため、私は蜂蜜レモンと塩レモン、珍しい2種類が気になった。
次の日の帰り、近所のスーパーのチューハイコーナーに立ち寄った。ところが、そこにあったのは定番レモンと鬼レモンの2種類のみだった。少々残念に思いながらも、定番レモンを1缶購入して帰った。家に帰り、早速飲んでみる。定番レモンのアルコール度数は5%だが、アルコールの味はあまり感じない。そして、ほかのレモンサワーと比べてだいぶん甘く、疲れた体に染み渡る優しい味だ。おいしい。一瞬自分が蜂蜜レモンと鬼レモンを探していたことを忘れそうになった。しかしきちんと思い出し、次の日は帰り道のドラッグストアに寄り、蜂蜜と塩を探すことにした。
次の日、昨日決めていた通りに帰り道のドラッグストアに足を運んだ。しかし、なんとそこにはどの檸檬堂も置かれていなかった。確かに、ドラッグストアの食品コーナーというものは、流行りものがあまり置かれず、マイナーな商品が置かれているイメージがある。であればまーしょうがないか。と思い、その足でコンビニに向かった。ピンポンパンポンピポーン、ピンポンパンポンパン♪という小気味のいいメロディとともに入店し、酒類の陳列棚に向かった。しかしそこには、昨日のスーパーと同じく、定番レモンと鬼レモンだけが置かれていた。私はひどく落胆した。定番レモンも鬼レモンも、ほかのレモンサワーで似たものがあるじゃあないか。なぜ、檸檬堂ならではの蜂蜜レモンと鬼レモンを置かないんですか?と、店長をつかまえて問い質したい気持ちをぐっとこらえて、コンビニを出て家路についた。
残りの平日は、どうやって檸檬堂を手に入れようかということを考えながら過ごした。最初に思いついたのは、職場近くのコンビニを探すという方法である。しかし、オフィス街で缶チューハイを購入するのは若干気が引けると思ったのと、帰りに電車で持って帰るのは重いし邪魔になるし大変だと思い、この方法はやめた。次に通販で購入することも思いついたが、6缶セット以上しか見当たらず、飲んだこともないのにいきなり6本買うのはリスキーだと思いやめた。最後に思いついたのが、週末に2駅隣のカクヤスへ行くという方法だ。酒類専門店のカクヤスであれば在庫がある可能性は非常に高いし、週末は家でゴロゴロするくらいしか予定がないので、この方法をとることにした。カクヤスへ行くことを楽しみに、金曜日の仕事を消化した。
土曜日、午前中は寝て過ごした。午後はテレビを見たり漫画を読んだりしながらまったりと過ごし、16時ごろにようやく家を出た。駅に向かう。通勤に使う道と同じだが、夕方は朝とは逆で駅から住宅街のある方へ向かう人が多く、たくさんの人とすれ違った。駅に着いて、電車に乗る。缶チューハイを買うためだけに電車に乗ったのは初めてだった。10分足らずで、カクヤスのある駅に着いた。先ほどまでは家でまったり過ごしていたのに、はやる気持ちが急に抑えきれなくなり、カクヤスへの道を急いだ。しばらく歩くと、ショッキングピンクに白地で「カクヤス」と書かれた看板が目に入った。少し緊張して店に入ると、まさにそこは檸檬堂祭りであった。入ってすぐの棚におびただしい数の檸檬堂が、全種並べられていた。しかも、6本買うと檸檬堂オリジナル豆皿をプレゼントとのことだった。少し気になったが、「6本も買うと重いか」と冷静になり、蜂蜜レモンと塩レモンを2本ずつ購入した。
自宅の最寄り駅についた。夕ご飯の買い物をすべく、近所のスーパーに寄った。はじめに檸檬堂を探したスーパーである。食材等をカゴに入れ、レジに向かう途中にチューハイコーナーを横切ると、檸檬堂が目に入った。しかも4種類。数日前には確かに定番と鬼しかなかったその場所に、いかにも「え?我々も前からおりましたよ」といった様子で、蜂蜜と塩が定番・鬼とともに並んでいた。一瞬、自分のことが信じられなくなる。本当は数日前にもあったのに、私は見逃していたのではないだろうか。私は今日、何のためにわざわざ2駅先まで行ってきたのだろうか。と、気もそぞろに会計をして店を出た。しかし、家に向かって歩いているうちに、「これからは近所で気に入った檸檬堂をどれでも買えるわけだし、結果的にはよかったな」と思い直した。
その夜、蜂蜜レモンと塩レモンを1本ずつ飲んだ。蜂蜜のほうは、飲んだ瞬間に蜂蜜の香りを強く感じた。作りものではなく本物の蜂蜜の香り。飲むヨーグルトで割ってもおいしそうだ。癒されたいけど酔いたくない平日の半ばなど、これを飲んだら幸せだろう。塩レモンは、やはり蜂蜜・定番と比べると甘さが控えめで、微かに塩味のアクセント。それでもやはり、ほかの7%のものよりもだいぶんマイルドで、ぐびぐび飲める。鬼はまだ飲んだことがないが、9%はどうも私には強すぎるので、ここで私の檸檬堂探しの旅は幕を閉じた。その後も頻繁に檸檬堂を買っている。阿部寛が店主を務める檸檬堂では、つまみは何を出しているのだろうか。最近はそれが気になる。
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