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ベーシックインカムは極めて怪しい.11―国内的CPインフレと国外的CPインフレ―
■国外的CPインフレ
さて、なぜカナダ人は「最低所得保証(BI)」を得ても退職しなかったのでしょうか?
前回言った通り、「いつ止めるか分からない社会実験なのに、退職するはずがないでしょう」というのが、常識的な考えですが、それ以外にも理由があります。
それはカナダと、そしてイランの事例を比較することで分かります。
以前、私は
「BIは当初はディマンドプルインフレになるが、直ぐにコストプッシュインフレ(CPインフレ)をもたらす」
ことを書きました。
上記の記事に書かれているのは「国内的な政策要因によるCPインフレ」です。
これは自ら供給能力を棄損していく・自ら自分の職場である生産工場を破壊していくような行為で、結果的にCPインフレ「所得上昇が伴わない状態での物価上昇」を招くことを示しています。
一方で、CPインフレは、国外的要因によっても発生します。これはコロナ禍、ウクライナ・ロシア戦争などで皆さんも経験しましたよね?
1970年代は、2度に渡る世界的な「オイルショック」という強烈な「国外的CPインフレ」が発生した年代でもあります。
オイルショック、オイル・ショック(英語: Oil shock)とは、1970年代に2度発生した、原油の供給逼迫および原油価格の高騰に伴い、世界経済全体がきたした大きな混乱の総称である。石油危機(せきゆきき、英語: Oil crisis)または石油ショック、オイル危機とも称される。
このように世界情勢が不安定で、自分の所得が上昇しないのに物価が異常に上昇し続ける社会で、退職をして現在の所得を得る手段の一つを失うなんてことはできません。
MINCOMEは成果を上げたにもかかわらず、わずか3会計年度で終了した。マニトバ州当局は、経済的な懸念をその理由として挙げたという。
「熱意がなかったのは、インフレや失業率が関係していたと思う。『今は不景気だ』『ベーシックインカムというのはいいアイデアだと思うが、もっといい時期が来るまで待とう』というのがお決まりのセリフだった」
確かに不景気な時代だった。1970年代を通じてカナダは壊滅的な経済危機に直面し、それはMINCOMEを実施した時期と重なった。
インフレ率は1970年代に急上昇し、1980年代初頭には金利が2桁に達したとトロント・スターが報じている。
CTVニュースによると、金利のピークは1981年8月の21%で、その後、カナダは不況に陥ったという。
この時期には失業率も急上昇し、1980年代初頭には多くの人々にとって住宅の購入が不可能になった。
このときのインフレは、エネルギーと農産物の価格上昇によって引き起こされたとCTVニュースは報じている。
改めて、国民の生活が苦しくなる(可処分所得が実質減ってしまう)インフレ(物価上昇・通貨安)のことをCPインフレと言い、逆に国民の生活が楽になる(可処分所得が実質増加する)インフレのことをDPインフレというわけですが、政府の支給する「最低所得保証(BI)」はDPインフレではなく、国内的CPインフレを引き起こします。
カナダの事例は「最低所得保証(BI)(国内的CPインフレ)」で「オイルショックによる国外的CPインフレ」に対抗することは不可能なことを表しています。(限定的定額給付金・NITなら対抗は可能です)
当時のカナダ政府は国内のCPインフレを懸念して「事業を3会計年度で止めています」。もし、「最低所得保証(BI)」によりDPインフレになるのであれば、止める必要はないはずです。
■イランのCPインフレ
BIは国内的CPインフレを引き起こし、国外的要因のCPインフレに対して対抗できないことはイラン事例でもあきらかです。
イラン政府はBIを行いましたがその最中、核開発の経済制裁が行われました。国内的CPインフレと国外的CPインフレが同時に発生したのです。
結果、値上がりする物価にイラン政府は対抗しきれず、イラン国民の生活はBIを行っているにもかかわらず苦しいものとなりました。
BIにはCPインフレを防ぐ効果はないのです。
■まとめ:BIによる国内的CPインフレで国外的CPに抵抗することはできません
生活が苦しくなるインフレはCPインフレ。
生活が楽になるインフレはDPインフレです。
BIを行うことにより、
DPインフレを継続的に発生させ、
国外的CPインフレの影響を排除し、
継続的に国民の生活を豊かするDPを発生させることができる、という事例を、私は知りません。