商品貨幣論7 ―重農主義という理想―
重商主義はぶっちゃけ、
第一身分の聖職者と第二身分の王侯貴族という特権階級のみが
「金貨・銀貨」といった「貨幣」を「大量に集金する」ことで
「国家運営のための富を形成する」
という政策です。
しかし、おそらくそんな現状のフランスを見て、農家出身の医者にして貴族となった、18世紀の当代随一の啓蒙思想家にして知識人のフランソワ・ケネーはこう思ったのだと思います。
ほら、この考え、以前話したあれに似ていますよね?
そう、貨幣は本来は価値なんかない、価値と価値の間を通り抜けるヴェールのようなものだ、といった「貨幣ヴェール説」です。
因みに、この場合の「貨幣」のことを「名目値」、「食料・石炭・鉄・木材など」のことを「実質値」、と二分して考えることを、以前は、ややこしいので、と説明を省略した「古典派の二分法」と言います。
このことから、ケネーは農産物を生産する農業、そしてそれに従事する農民の身分の価値向上のため
『経済表』という著書を出版し、
「重農主義」
を提唱しました。
金貨や銀貨といった貨幣は本物の富の代替物に過ぎず、富の源泉たる農産物こそ本物の富だ!という思想が提唱されたわけです。
『経済表』は簡単に解説すると次のようなものになります。
農家が余剰価値としての農産物を生み出す
それを農産物の一部を地代として地主(貴族)に支払う
地主は農産物を元手に貨幣を手に入れ、製造加工商品を買う
製造加工業者は商品を買って貰った貨幣で農家が生産した農産物を買う
農家は手に入れた貨幣元手に農業を行い、余剰を生み出す
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この
「富の価値・貨幣の価値の流れ」
を示しているのが『経済表』となります。
この考えに基づけば、農家が余剰価値の農産物を生産すればするほど、経済は成長し、逆に減少すれば経済が縮小してしまいます。
ケネーは、農家の穀物の低価格政策などの規制を止め、貨幣が特権階級層に独占される原因となった保護貿易の無用論を展開しました。
これが
「レッセフェール(自由放任主義)」
という思想の誕生です。
レッセフェールについては、以前、「貨幣数量説」のところでも書きました
富の偏在は、市場を活性化して交換を促進すれば、時間が経過すると「均(なら)されて」改善する
という考えです。
ケネーは間違いなく、
市場活性による貨幣の偏在の是正と、是正されることによる
貨幣の無価値化(ヴェール化)を前提に重農主義を唱えていたのでしょう。
しかしながら、
放置すればするほど格差は拡大し、
市場取引が加速すればするほど
貧困層が増えるのが、
現実のレッセフェールである
ということは、繰り返しになりますが、レッセフェールを同じく唱える現代の主流派経済学を見れば明らかなのです。