根の叫び
『あのね……
ボクは 今 生きている感覚がしないんだ
確かに息をしているはず
なのに
死んでいるみたい
これまで 人知れず何度も踏まれた
泣いた 闇に生きた
ボクハ ドコニ イルンダロウ
あの日、君が咲く軌跡を見るまでは
初めての 不思議な感覚……
そして、 ふと我を見失った
ここがどこか、も分からず
帰り道も 生き方も
君という華に染まり愛を注ぐ
ボクが何者かさえ気づかず
まだ 厳しい冬に耐えなくてはならないのに!!
春まで 待てないよ……
けれども
どこかで 何かと繋がっている
……確かに側にいる』
「キミは 雪に埋もれているんだよ
土の中で もがいている
早く芽をだしたいと
僕が 地上で繋ぎとめている
キミが行方知れずにならぬよう
光を浴びた身体は
誰よりも負けない深い緑-エニシ-」
『あのね、君のこと大好きなのに本当は大っ嫌い
ボクは埋もれて見えないから
君に伝わるよう 叫んでいた
けれども
もう、疲れちゃった……』
「……うん、大丈夫だよ
次は 僕が〈根っこ〉の時が来るから 少しの間 お休みするね
新しい芽が出る時まで
キミ それまで待っているかい?
それとも……
僕を 地下から引きずり落として土の中で一緒に過ごすかい?
それだと〈僕ら〉は咲けないね
キミは なかなか『うん』とは言わずに 泣きじゃくるばかり
輝く僕が嫌いなのに
くっついて離れようとしない
僕は
キミも世界や太陽、土も皆 大好きだし必要で
キミも僕も どちらもいなければ 咲けない
キミは
土に埋もれ踏みつけられ
いつしか芽吹くことを忘れ
世界が 大嫌いになった」
『ねぇ……君
君は 月光よりも美しい〈花〉を咲かせたね
そして
花には見たことのない〈実〉がなり大きくなった
その実は
地に落ちて
君と 〈とても似た芽〉をつけた』
「それも キミは嫌い、と言うね
ねぇ、教えてほしい
僕に 命を
独りで咲いた……と思っていた
けれども、キミが僕の根を支えていたんだ
キミは どんな花を咲かせるの
芽吹いてごらん 僕が見ているから
土に眠る キミ(根)の気持ち
僕なら よく知っている
いつまでも 待っているから
地上で 花(キミ) 開くのを
その時は
真っ先に 命 讃えるね
僕(根)が土の中で 愛 注ぐから……」
注)この作品には主人公が2人登場します。
『』で囲まれたセリフが ボク「」が 僕 です。