『彼女の行方』【第1話】
「プロローグ」
間もなく部屋にたどり着く。
また今日も終電だ。
IT企業に勤める藤崎蓮は、ほぼ毎日会社と家の往復だけを繰り返していた。
32歳独身。
もっと優雅でゆとりのある生活が待っていると思っていたが、現実はそうでもない。
シンプルで機能的だが、殺風景な部屋。
ベランダの窓から東京タワーの見える立地が気に入っていた。
上着を脱いでネクタイをはずすと同時に、ベッドに倒れこむ。
体の重みで少し沈む感じが心地いい。
このところ残業続きでへとへとだった。
カーテンの隙間から差し込む光で目が覚める。
どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
なにげなく携帯に目をやると、新着メッセージを告げるアラートだ。
「有栖川、行方不明らしい・・・知ってた?」
「ウソだろ!?」
思わず携帯を握りしめたままそう呟いていた。
有栖川は旧姓で、現在は黒木といったか。
奈緒は世間知らずのお嬢様で、5年前に別れた彼女だった。
今年届いた年賀状に
「もう大丈夫だから」
と書かれていたことを思い出した。
何回か会いたいと連絡をもらっていたが、日々忙殺されて会えずにいた。
いや、本当のところは会わないほうがいいと思っていた。
「私やっぱり蓮が好きだわ~」
「こら、旦那さんに怒られるぞ」
「旦那さんね~誠さんはパパみたいな人だから。ねえ、蓮は今彼女とかいるの?」
「いないけど・・・」
「ふ~ん」
「酔ってるのか?」
「ううん、少し飲んでるだけ」
どこからか奈緒を呼ぶ声が聞こえ
「またね」と電話が切られた。
メッセージをくれた友人に連絡しようかと思ったが、いてもたってもいられず彼女の番号にかけていた。
コール音が耳に響く。
電源は入っているようだ。
数回コールの後
「はい、黒木です。」と低い声が聞こえてきた。
「藤咲と申します。こちら奈緒さんの携帯電話ですよね?」
「そうです。奈緒は私の妻ですが・・・」
少し怪訝そうな返事が返ってくる。
奈緒は携帯を置いていなくなったようだった。
「突然すみません。奈緒さんの行方が分からなくなったと知って、
状況をお伺いできればとご連絡しました。」
「そうでしたか、まだ行き先はわかっていません。
藤咲さんは俳優の高橋さんのところの方ですか?」
「いえ、東京にいらした頃の古い友人です。」
「失礼しました。奈緒の交友関係はほとんど知らないものですから。」
と恐縮している。
そういえば、舞台俳優の手伝いで東京に時々来ていると言っていた。
彼女はいったいどこに行ったのか。
「あの、突然で申し訳ないのですが、会ってお話を伺えないでしょうか。」
「今から・・・ですか。」
「はい、可能であれば。
おそらく昼ごろにはそちらに着けると思うのですが。」
言ってから自分の言葉に驚いたが、
妙な胸騒ぎがして急がなければいけない気がしていた。
「私は奈緒のマンションにおりますのでかまいませんが・・・」
蓮はお礼を言って電話を切るとすぐに支度を始めた。
いつもならただひたすら寝ているだけの週末だった。
会ってどうにかなるというものでもないだろうとは思ったが、
大阪行きの新幹線に飛び乗った。
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