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『彼女の行方』【第4話】

『きっかけ』

「どうした?」

「えっ」

「溜息ついてたから。何かあった?」

いつもニコニコしている奈緒が
元気のない感じが気になった。

奈緒は蓮の会社に来ている保険屋に勤めていた。

年齢が近いこともあって話しやすくて
時々食事に行ったりしていた。

「う〜ん、藤咲君に話していいものなのか・・・」

「話してみなよ」

少し躊躇したものの

「実はね・・・部屋に誰か入ったみたいなの。」

「なんだそれ?警察には届けたのか。」

首を横にふる。

「だって、取られてるものとかないし・・・
ただクローゼットの中身が違うの気持ち悪くて・・・」

「それヤバいだろ」

「最初は自分の勘違いかな?と思ったんだけど、朝写メ撮ったら夜変わってる日があるし・・・」

「空き巣じゃないのか?」

「帰ったら鍵はかかってるから空き巣じゃないと思う。」

「鍵持ってるやつ限定じゃん。」

「うん。鍵持ってるのは大家さんだけど・・・前住んでた人が返してないかも知れないし・・・」

「どっちにしても危ないからそこ出たほうがよくね?」

「そうかなぁ・・・」

おっとりしていて世間知らずのお嬢さんだとは聞いていたけど、ここまでとは知らなかった。

なんだかほっておけなくて

「うち来る?いや、変な意味じゃなくて・・・
俺が有栖川の家でその変態とっ捕まえるのもありかなと思ってさ。」

と言ったら笑っていた。

「ありがとう。話してみてよかった。」

奈緒の柔らかな笑顔を見ているのが好きだった。

いつの間にかお互いに惹かれていたのかもしれない。
結局その後付き合うようになって、本当にうちに越してきた。

その時の変態は大家の息子だったことが
同じような被害に遭っていた女性の訴えでわかった。

「なんか蓮って子供みたいなもの好きだよね」

「そうかな?」

「唐揚げにハンバーグ、卵焼きって子供のお弁当メニューみたい。」

「子供じゃねえし」

と口をもぐもぐと動かしながら答える。

のんびりした休日を過ごすようになったのも
規則正しい生活をするようになったのも
彼女と付き合うようになってからだ。

「奈緒は食べないの?」

「作ってるだけでお腹いっぱいになっちゃった。」

「そんなんじゃ痩せちゃうぞ〜。あっ、じゃあ夜は奈緒の好きなもん食いに行こうぜ。」

「ほんと?何にしようかなぁ〜」

奈緒は料理が上手で、家事全般をテキパキとこなしていた。

一緒に暮らすようになって穏やかな毎日が続き自分でも驚くほど、彼女の待つ家に帰るのが楽しみになっていた。

守るべきもののために頑張ろう。

とその時思ったのは紛れもない事実だった。

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