後始末屋(1)

 指定された家屋は、建てられてすぐの綺麗なものだった。こなれた手つきで鍵を開け、ドアを開ける。まだ臭いはほとんどない。中に入ると一人の少女の死体がある。身長は110cmほど。長い髪に隠れた顔は美しい。よく着ているのであろうか薄い青色のワンピースは綺麗だった。私は顔色一つ変えずにそれを運ぶ。かつて支給されたペット用の移動火葬車に運ぶ。40cmほどの間隔で体を切り刻み、燃やして骨まで溶かした。
 殺人の後処理を行うのが彼の仕事だ。とある殺人グループが電話越しに指定した現場に行き、死体を処理する。処理には専門の技術が必要であるし、一番証拠の残る作業だそうだ。心無い彼ではないが、こうも頻繁に行っていると、もう心が動くことが無い。むしろ実感すらないのである。

 11月6日。電話があり、現場を指定される。最近は同じグループから依頼を受け入れているようだが、実際彼らの素性はわからない。互いに自分の情報は流さないのだ。仮にどちらかが捕まったとしても、芋づる式にならないためである。指定された家屋は、建てられてすぐの綺麗なものだった。こなれた手つきで鍵を開け、ドアを開ける。まだ臭いはほとんどない。中に入ると一人の少女の死体がある。私は顔色を変えることはなかった。
 

 音がした気がした。
 誰かがいる。尾けられていたか。もしくは警察がもう来ているのか。急いで逃げ出さなければならないのだが、こんなことがこれまで無かったために足が動かない。おかしいのは、音は押入れの中から聞こえてきたことだ。尾けられているにしても、警察にしても、押入れにいるはずがないのだ。考えを巡らせていると、押入れが、そっと開く。

 赤い服を着た一人の少女だ。6歳ごろだろうか。目は赤く腫れている。体は震えているが、絶望の中にわずかな希望を認めたような、見たことない表情をしていた少女だった。少女は押入れから出てきて、1、2歩私の方に進む。呆然としている私を見て少し立ち止まったが、私の顔をもう一度見て私に抱きついてきた。

 この少女は、生き残った少女だろう。殺しそびれていたのである。

 少女は私のことを助けてくれた恩人だと思ったのだろう。一見ありえないことのように思えるだろうが、少女は目の前で殺人を見たのだ。知り合いが殺されるのを見たのだ。少女の心の中など想像に難いだろう。その中で現れた私を見て、救世主と思ってしまう可能性も、なくはない。
 生を、私と実に関わる生を、私の方に向かってくる生を、感じたのは何時ぶりだろうか。これまで心を無にして処理を行ってきた彼であるが、心が動いてしまった。心が酷く痛んでしまった。気づいたころには、処理道具は全て鞄に隠し、少女を抱きしめていた。

 気づけば私は少女を匿っていた。少女は私に心を開き、あの日の出来事を語ってくれた。あの日殺されたのは少女の母で、押入れの中に小さく隠れていた少女は、殺人グループに気づかれず隠れきったらしい。少女は母子家庭であり、保育園にも行っていないため、少女を匿っていることが事件として発覚するのはまだ先のことだろう。
 少女は私に数少ない友達の話をしてくれた。近所にいた同年代の少年や少女のこと、近くの公園で遊んでいた友達のこと。その話を聞いて私ははっとする。それは私がこれまで処理してきた死体の特徴であった。





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