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入道雲がたべたくて

少しずつ秋の風が体を通り抜けて、季節の移り変わりを感じるようになりました。
それでも外に出れば、まだまだ汗がじわっと流れてくるような暑さではあるし、何よりこれから残暑が長く続いていくのかと思うと、ちょっとだけうんざりしてしまいそうにもなります。

ワタシは夏は嫌いですが、なぜか入道雲を見ることは昔から好きで、それは大人になった今でも変わりません。
空を見上げれば、大きな雲が空のどこかに存在感をアピールしているみたいにふわふわと浮いている。
そのなんとも言えない感じが、好きなんです。

まだ保育園で働いていた頃、子どもたちと延長保育で外に出ている時には一緒に入道雲を眺めながら、いろいろな話をしました。

「ねえ、なごんせんせい。あのくもっておおきいね」

「そうだね。なんだか食べれそうなくらい大きいよね」

「うん!わたあめみたい。あっでも、かきごおりかな・・・?」

「どっちだと思う?」

「うーん・・・。どっちでもうれしいけど、わたあめかな」

「そっか。あの雲はわたあめだったんだね。なんだかすごく美味しそうにみえてきた」

「でしょでしょ?たべたいよね。なんのあじかなぁ」

そんなことを空をぼんやり眺めながら話していると、「なにしてるの?」「なごんせんせぇ〜い!」と雲を見る会に続々と子どもたちが集まってきました。

そこで子どもたちと、大きな入道雲を食べるための話し合いが始まったのです。
「あのくもをたべるなら、おさらはなにいろにしようかな」
「うーん。くもがしろいからピンクはどうかな?」
「いいね。そらいろのおさらもかわいいよ」

「納言先生は欲張りだから、虹色のお皿にしちゃおうかな」

「えぇ〜にじいろ?」
「でも、にじいろかわいいよね」
「わたしもにじいろにするぅ」

「じゃあ、みんなで虹色のお皿で、あの雲を食べようか。きっと甘くて美味しいんだろうなぁ。大きいから、みんなで分けても残っちゃうね」

「そうだ!それならほかのせんせいにも、おともだちにもあげればいんだよ」

「そうだね!みんなで食べた方が美味しいもんね」

「うん!たべたい!みんなでおなかいっぱいたべよう」

それから子どもたちと一緒に雲を掴むフリをして、部屋にあった綿をお皿に乗せて、虹色のお皿の代わりに子どもたちと一緒に白色の紙に虹の絵を描いて外で雲を食べました。

本物ではないけれど、子どもたちも、そしてワタシもなんだか口の中に甘さが広がるような、本当に雲を食べているような、そんな気持ちになったのを今でも覚えています。

そして全員が口を揃えて、「う〜ん!!!おいしぃ♡♡♡」と唸りながら、何度も何度も食べるフリをしていました。

本当に食べている訳ではないけれど、入道雲越しに食べた空想の雲の味は、格別でした。

保育園を離れた今、入道雲を見るたびに少しだけ嬉しくて、とても寂しく感じてしまうんです。

あの子たちも今では小学生になり、きっと入道雲の出来事は忘れているかもしれません。
けれども、この季節になるとあの頃の楽しかった日々が思い出され、走馬灯のように蘇るんです。

大きくてふわふわした雲を、一生懸命食べようとたくさんお話をした頃を・・・。

いつかまた、会えたら聞いてみようと思います。「あの雲は、今のみんなには何に見えてる?」って。

大きくなったあの子たちの目には、入道雲がまた別の姿をして見えているかもしれないから。

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