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北 博 旧約聖書のダメ男たち――ドキッ! それって私のこと? 第一回 モーセ

きた・ひろし●一九五四年岩手県生まれ。元東北学院大学教授(神学博士)。専門は古代イスラエル宗教思想。訳書\ K・コッホ『黙示文学の探求』他、論文多数。

系図を恐れる私

 皆さん、こんにちは。昨年とは異なるテーマと切り口で、今年も引き続きお付き合いさせてください。改めて、よろしくお願いいたします。
 ところで、「旧約聖書のダメ男たち」とはずいぶんおかしなテーマだなあ、と思っていらっしゃるお方もおられることでしょう。実は私、NHKの「ファミリーヒストリー」という番組が大好きで、毎回感動しながら観させていただいております。しかし、一方で自分のファミリーヒストリーを調べることには、どうも気が進みません。なぜかと言うと、私がこれまで大それたことをやらかすことなくこれたのは、もちろん神の憐れみによるのではありますが、環境とか巡り合わせでたまたま切り抜けられた面が多い、と思っているからです。もちろんまだ人生が終わったわけではありませんので油断は禁物ですが、この調子で行けば何とかよそ様を殺めずに人生を終えることができそうです。ところが家系を遡って行けば、どんな「ヤバイ」ご先祖様に遭遇しないとも限りません。いわば私と共通のDNAを持ったご先祖様は、可能性としての私であるわけで、どんな苛酷な環境と巡り合わせで、いかなる大それたことをしでかしているか分かったものじゃない、と恐れているわけです。このようなわけで私は、最近親戚が家系図作りを始めた時にも、あまり積極的に協力はいたしませんでした。

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