バーチャルさんは見ていた5 ~Vtuber戦国時代へ~
前回までのあらすじ:月ノ美兎委員長をはじめとする「にじさんじ勢」の登場により、Vtuberたちはそれまでの動画投稿を中心とした形態から、生放送を主体とするイラストメインの配信へと大きくその姿を変えることになる。
さて、以前も話しように「動画を主体としたVtuberはお金がかかる」。けれどにじさんじのようにキャラクターのイラストや簡単な3Dモデルを使う生放送なら、個人が空いている時間を選んで配信することが可能になった。
こうした変化がVtuberの数をさらに飛躍的に増加させることになり、2018年の7月には総数が4000人を突破する。
バーチャルYouTuberが4000人突破 1カ月で1000人も増加 #ldnews http://news.livedoor.com/article/detail/14991380/
けど問題はそこからだ。
だって、こんなに数が増えたらいくらVtuberが好きといっても、その全員を追い切るなんてできるわけがないし、総数がどうのいわれてもピンと来ないだろう?
しかも数が増えてくれば、当然「生放送の時間が他のVtuberとかぶりまくる」という事態も発生して、視聴者の獲得合戦になる。結果、人気のあるVtuberにはよりたくさんの人が来る一方で、あまり注目されない、あるいは大手に押されるVtuberが増えるというサイクルが生まれるようになっていくわけだね。
こうして開始されたのが今に至る「Vtuber戦国時代」という現象だよ。
そして真っ先にその影響を受けたのが企業に所属していない個人勢だった。
2018年の夏にVtuberのふぇありす氏が「個人勢は今後厳しくなっていく」という動画を出して話題になっていたようだけれど、実際この時期に人気のあった個人勢Vtuberの多くはその後何らかの形で企業の所属やプロジェクトなどに参加したり、または事務所を立ち上げたりしている。
ふぇありすの語る個人VTuberの危機 これからを生き残るには? https://mato-liver.com/archives/3186
そして現在のところ少数の上手くいっている人たちを除けば、ほぼ人気があるのは企業系Vtuberであるといっていい。
では、なぜそのような状況になったのか。
理由のひとつは活動の内容が限られてしまうということだろうね。
これも繰り返しだけれどVtuberはそもそも「意外にできることが少ない」。まして生放送が主体になれば「一時間でできるもの」に限定されてくる。
具体的にいえば。
・「雑談」
・「ゲーム実況」
・「生歌配信」
などのいずれかになっていることがほとんどだ。これに加えて。
・「他のVtuberと一緒に配信するコラボ」
というのもあるけれど、それにしても雑談の範疇に入るだろうからね。
そうなると。
「同じことをやるのなら、人気のとれる中の人(魂)を探す」ことがまずVtuberとしては大きな条件になるのは当然だね。
しかし、そうはいっても実際に人気が出そうな子を探すのはなかなか難しい。
人気が出そうな要素といっても。
・声がかわいい(かっこいい)
・トークが上手い
・ゲームが上手い
・歌が上手い
・センスが独特
・ある程度のパソコンスキルがある
という漠然としたものになってしまう。
もちろんこれらの条件をすべて満たすような人間がいればいいんだけれど、そんな超人はまずいないだろうからね。
こうした事情を踏まえた上で2018年の5月から6月にかけてデビューしたVuberの中で人気のある企業勢を見ていくと、それぞれの方向性が漠然とだけれど見えてる。
まずこの時期に本格的にVtuber事業に参戦したホロライブだ。当時のメンバーを見ると。
・白上フブキ
・赤井はあと
・夏色まつり
・アキ・ローゼンタール
・夜空メル
の一期生五名に加え、ときのそら、ロボ子さん、さくらみこの総成八名になる。
ホロライブをVtuberの放送を見ている人はわかってくれると思うけれど、彼女たちは総じて声のかわいい子が多い。
印象からいえばもっとも「アイドル」を意識した構成になっていたといえる。
さらに同じくこの時期に「アイドル」を掲げたのが電脳少女シロが所属するアップランドから参戦したアイドル部の十二名がいる。
両者の大きな違いは、ホロライブがメンバーの行動がかなり自由なのに比べて、アイドル部は常に「アイドル部」という枠組みを重視しているという点だろう。
代表的なのが放送の「リレー形式」だね。
生放送をしたメンバーが「この後は~時から〇〇ちゃん。~時から△△ちゃんの配信があるよ」と他メンバーの放送の宣伝もしていくことで、グループをまとめて推す、いわゆる「箱推し」がやりやすくなるのが大きな利点になっている。
一方、こうしたアイドル路線と対照的な動きをしていたのが月ノ美兎委員長を輩出したにじさんじだ。
こちらは六月までに委員長たち一期生、それに続いた二期生の他に、にじさんじゲーマーズ、にじさんじSEEDsなど、次々と新人Vtuberを送り出していくなどまさに「多様性重視」といえる。
こうしてみるとVtuberを視聴者参加型の「アイドル」として見る向きと、あくまで個性の強い「タレント」を探す向きがあったことがよりはっきりしてくる。
このVtuberの理想の「タレント」が輝夜月や月ノ美兎委員長だとすれば「アイドル路線」の先駆者をときのそら、ミライアカリ、シロあたりということになる。さらに細かくいえば。
・アイドル
ときのそら
・バラエティもできるアイドル
ミライアカリ、シロ
・タレント
輝夜月、月ノ美兎
こうして見るとときのそらがかなり特殊な位置にいるように感じるんだけれど、それは間違いではないよ。
ミライアカリとシロ・・・とくにシロは途中で中の人(魂)の個性が発揮されてあれこれと路線変更した感が強いけれど、彼女たちはもともとアニメやゲーム、ネットに関する知識は豊富だった。
それに対してときのそらは当初ゲームやネットの情報にまったくといっていいほど疎かったし、そこが視聴者にウケていた部分もある。
けれどときのそらのようなタイプは今のようにVtuberが連日一人で生放送をするようなスタイルにはあまり向いていない。彼女にはアンキモやエーちゃんのようなサポート役がいるから問題なかったろうけど、にじさんじに近いモデルを採用しているVtuberの場合、個人でネット配信を行える程度のパソコンスキルが求められるから、そういうわけにはいかないからね。もちろん多少の例外はあるだろうけれど。
結果、多くのVtuberが目指すべきスタイルはシロやアカリのような、ゲーム実況から雑談もできるアイドルタイプ、ということになった。
・・・というのが2018年の6月あたりまでの話なんだけれど、ここにはそもそもかなりの誤算があったように思う。
まず、どうしてもタイプが偏り過ぎていたんだよ。
しかもこの時期すでにVtuberバブルがだいぶ落ち着いていたから、チャンネル登録者の増加数も以前ほどの増加は期待できなくなっていた。
さらに生放送の内容も一か月もすると、遊ぶゲームさえ他のVtuberとかぶってくる。
そうなると声がかわいいとか、歌が上手いとかそうした特徴だけでは目立つことが難しい。
例えばゲーム実況で圧倒的な腕前を見せて、一躍人気Vtuberになった猫宮ひなた。歌唱力を武器にしたバーチャルシンガーYuNiのように、最初から企画そのものがしっかりとした方向性を持って活動しているVtuberに比べて、どうしても武器がないからね。
つまり。
・「歌の生放送」をやっても歌をメインにしているVtuberほどは注目されない
・ゲーム実況はすごいプレイを見せるのではなく、あくまで視聴者との交流の一環
という感じが、この時期からほとんどのVtuberが置かれている状況になる。
もちろん、逆こういう状況だからこそ成功するタイプというのもいる。
それは。
「雑談がそもそも面白い」
という人たちだ。
毎回生放送に人がたくさん集まっているにじさんじゲーマーズの椎名唯華。アイドル部の金剛いろはなんかがそうだね。
ただ、こうした強みは委員長のところでも話したけれど。
「そもそも委員長の場合ヒットしたのはVtuberとしてだけれど、彼女はもともと芸人に向いていた」
という、本当に中の人の個性が理由になっているものだから、他が真似をしようとしてもそう簡単にできるものじゃない。
第一「どういう人がネットで人気が出るか」なんてわかれば誰も苦労しないわけだし。
結果、ほとんどのVtuberは同じ環境の中でどうVtuber同士が上手くやっていくか、という道を模索するしかなかった。
そこでVtuberの数が増えると、今度は目立ってきたのが「コラボ配信」の増加だ。
コラボ配信というのは、単純にいえば普段別々に活動しているVtuber同士が一緒に配信をするものだね。というとあたり前過ぎるんだけれど、企業系Vtuberが多く参入するようになった状況だと。
「あの人とあの人でコラボして欲しいな」
という要望も増えてくるし「別のVtuberのファンにも見てもらえるチャンスが増える」ということで、これは割と理想的な企画だといえる。
けれどこれは見方を変えれば「人気のある企業系Vtuber同士が固まりやすくなる」わけだから、必然的に話題性のないVtuberや企業系ではないVtuberがこの「輪」の中に入るのは難しくなる。
今でも新人Vtuberで注目されるのはほとんどがいずれかの企業の所属か、さもなければ誰か有名なVtuberの後輩という感じだけれど、その理由も半分はそのあたりだろうね。
嫌な言い方をすれば、すでに現在のVtuberはまったくこのジャンルに関心のないファンを獲得するのは難しいのが実情で、結果的にひとりのユーザーが複数のVtuberを追いかけている中で何人が動画を見てくれるか、毎回の放送に来てくれるか、そしてチャンネル登録をしてくれるか、という部分を争っているのが「Vtuber戦国時代」の実際のところじゃないかと見ているんだけれど、さてどうだろう。
次回はこうした状況の中で、とくに人気を集めているVtuberの何人かを具体的に見ていこうと思うんだけれど、これには割と好みも入ってしまうから、あくまで参考程度にしてもらえればと思うよ。
それからVtuberがすでにオワコン化しつつあるというベイレーン氏の動画が先日投稿されたから、そちらを最後に紹介しておこう。
VTuberの真実を教えてやるお!【お前ら向けにわかりやすく説明してみた】 https://youtu.be/HfapvKfsP7w
ではまた。
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