バーチャルさんは見ていた6 ~Vtuberの中の人事情とは~
前回の投稿からだいぶ時間が空いてしまったけれど、その間にもずい分Vtuber界隈では色々なことがあったね。
まずはアニメ『バーチャルさんは見ている』の最終回。
うん、とくにコメントはない。淡々とはじまって淡々と見るタイプのアニメだったからね。
後、この界隈とはあまり関係がない話だけど『けものフレンズ2』が炎上してかなり大騒ぎになったりしてるのも印象深い。
その結果。
「『ポプテピピック』ってクソアニメクソアニメいってるけどファンが企業と戦いはじめてる『けものフレンズ2』の地獄に比べればどうってことないし、内容がまったくない『バーチャルさん』に比べたらそれなりに面白いからクソアニメなのかどうか微妙」
という「そもそもクソアニメとは何か?」というテーマをめぐる大きな論争が勃発しそうな気配もあるんだけれど、まあそれはさておいて、開始当初からの予想の通り『バーチャルさん』はバーチャルユーチューバーという文化に貢献もしなければ、マイナスになるほどのものでもなかった。
もっともこれはあくまで『バーチャルさん』という作品に限ってのことで、今後のVtuberの方向性を示す指標としてはかなり大きなポイントになるかも知れない。
でも、今回はその話じゃない。
『バーチャルさん』以上にVtuber界隈で大きな衝撃となる事件がつい先日起きたんだ。
そう。詳しい人はたぶんすぐに見当がつくと思うけれどゲーム部プロジェクトの炎上問題だね。
これについてはすでにネットニュースの記事も出ているから詳しくはそちらを参照して欲しいんだけれど、ゲーム部の「中の人たち」(「魂」というべきかな)が現在の労働環境や運営側の姿勢についてSNS上で暴露し、活動の継続が危ぶまれたというのが大まかな概要だ。
なお、この件は結果的に運営と声優さん側の話し合いで折り合いがついて今後も活動を続けていく、ということにまとまったらしい。
Vtuberグループ「ゲーム部」運営元、解散騒動にコメント 「声優と待遇など検討協議」 - ねとらぼ https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1904/08/news086.html @itm_nlabさんから
ゲーム部の解散騒動、和解から1週間で活動再開へ リプ欄も歓迎ムード - KAI-YOU
https://kai-you.net/article/63640 written by @nao_nim
ゲーム部は『バーチャルさん』にも出演していたように、数多いVtuberの中でも「成功していた」と見られていた存在だっただけに、今回の事件に衝撃を受けた人も多かったんじゃないかな。
けれど、今回の事件で注目すべきなのはゲーム部の運営会社の体質ではなく「運営会社とVtuberの中の人がどんな雇用関係を結んでいるのか」という部分が明るみになったことだろうと思う。
今回の出来事で少し話題になったyoutubeの動画で、ゲーム部の運営会社がどんな条件でVtuberの中の人を募集していたかを示す資料が過去に流出していた、という話が出ていたんだけれどそれによると。
・募集時の時給はおおよそ1500円~2000円程度
という内容だったらしい。
参考:https://matome.naver.jp/odai/2155450207797972601?page=3
これに関してはゲーム部の「魂の人」たちと思われるtwitterのアカウントのつぶやきでも、運営サイドに「あなたたちはプロの声優ではない」ということをたびたびいわれていた、という旨の内容のものがあったようだし、少なくともゲーム部の魂の人たちは「声優としての契約」を運営会社としていたのではなく、雇用契約としては「アルバイトのようなもの」だったと推測することができる。
あくまで資料を信じればの話ではあるけれどね。
この賃金の問題はVtuberの今後を考える上では重要なポイントになると思うんだ。
さっきもいったようにゲーム部はVtuberの中でも比較的に成功していたはずなんだけれど、それでも基本的に魂の人たちはアルバイトとそれほど変わるものではなかった。
これで少し思い出したことがある。
去年、電脳少女シロなどが所属しているアップランド(ドットライブ)が新人Vtuberとしてデビューさせる予定で話し合っていた声優さんたちと揉めている、という内容の漫画がtwitter上で拡散されて話題になった事件だ。
この件に関する漫画を拡散した人物とそれに対するアップランドの声明はそれぞれ以下のようになっているんだけれど、今回重要なのはやはり揉め事そのものではない。
中の人と運営会社がどういう契約を結ぼうとしていたか、という点だ。
声優がトラブル?VTuber運営会社アップランドの告発漫画が物議 #ldnews http://news.livedoor.com/article/detail/15622444/
https://twitter.com/dotLIVEyoutuber/status/1064830258036109312/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1064830258036109312&ref_url=http%3A%2F%2Foomonoyoutubersokuhou.blogo.jp%2Farchives%2F27021681.html
まず、注目すべきなのはこの漫画で描かれている話し合いの時期だろう。
最初にVtuberのオーディションがあった時期が2018年の5月とされている。そしてデビューに向けた話し合いが行われたのが7月から9月にかけてという部分だね。
次にこの記事を見て欲しいんだけれど、これによるとVtuberの数が劇的に増えたのは、Vtuberのチャンネル登録者数バブル(これについては以前書いたけれど)が起きた2018年の1~3月にかけてではなく、その後。とくに4月から7月の末にかけてだったことがわかる。
1日に20人の「VTuber」がデビュー/ファンや再生回数は半年で約3倍に【CyberV調査】:MarkeZine(マーケジン) https://markezine.jp/article/detail/29018 @markezine_jpさんから
Vtuberがネットで話題になってから(これについては過去にVtuberバブルの件で触れたね)、それに触発されたようにVtuberが参入してくるまでの期間には若干だけれどズレがあるんだよ。
その結果、わずか数か月の間でVtuber「事業」をとり巻く環境は大きく変化することなった・・・と、想像できる。
まずVtuberの数が飛躍的に増えたことで最初から予算がかかるモデルを用意するというやり方は必然的にリスクが大きくなる。
それだけライバルもたくさんいるわけだからね。
委員長(月之美兎)ははじめとする、にじさんじの登場以降、まずイラストを用意してそれを動かす2Dモデルで生放送を行うVtuberが増えたのも一因だろうけどれど、これらは結果的に参入のハードルを下げると同時に、競争を激化させる要因となったのは間違いない。
そこでもう一度漫画の内容とアップランドの声明を読んでみると、当時行われていた交渉の中でアップランド側と、問題の声優さんたちとの交渉でどの点がまとまらなかったのかもおぼろげながら見えてくる。
まず漫画の内容、そして会社側の声明で一致している部分として、声優さんたちが「アップランドでVtuberとしてデビューすることが正式に決まった場合には現在の事務所や声優さんたちが勤務している飲食店をやめる」という方向背で調整する話し合いが行われていた、という点だ。
アップランド側の声明には、声優さんたちが要望したVtuberとしての活動条件があるんだけれど、それによると。
・月の動画配信は6本。生放送は約2本。
というものだったらしい。
これと前の契約交渉の経過を合わせて考えると。
・契約条件がまとまった場合声優さんたちは所属事務所も勤務先の飲食店も辞めるという点では双方ともに合意していた。
・Vtuberの活動は月に6本程度の動画配信と、2回の生放送程度。
ということになる。
さてどうだろう。
ここで参考に声優さんのギャラというものが概ねどのくらいのものかを見ておこう。
声優さんのギャラはどのぐらい?気になるお給料・年収のお話
https://www.xn--n8jtc6aadba5a9vf84jw27uga669yha.com/hituyou/salary
このサイトによると、声優さんのギャラはそもそもランク制度があるため、人気などに関わらず「日本俳優連合が決めるランク付けで給料が決まっている」とされる。
ようするに「基本的な報酬が決まっているためあまり高くも安くもできない」というわけだね。
残念ながらyoutuberの生放送のようなものがどのくらいの相場で設定されているのかはわからないけれど、仮にアニメの収録と同じ相場で先ほどの条件を考えてみると。
・月に6本程度の動画配信 = 一回の動画の収録が一時間あたりのアニメの収録と同額程度の報酬(上記サイトによれば新人は15000円)が発生すると考えた場合15000円×6で9万円程度。さらに長時間になればそれ以上に増える。
・月に2回の生放送 = 拘束時間も長くイベントとしても扱われるためかなり高目に設定されていると推測。
これに加えて他に多少の手当なども出るだろうから、月の契約金額としてはおそらく数十万円程度になると思われる。
もちろん、これはあくまで推測の域を出ない単なる試算ではあるんだけれど、先ほどのゲーム部の募集内容と比較してみると、業界が定めた賃金上の制約がなく、かなり時間なども融通が利くという点で、プロの声優さんを雇うよりもアマチュアやセミプロを使う方が企業としては安く済む上に効率的だというのは間違いないだろうね。
こう考えていくと、アップランドの件はVtuberが増えはじめ、しかもプロの声優ではなく、2Dのモデルを使った生放送中心の配信形態に移行した中で、わざわざプロ声優を使うメリットが薄らいでいたことから契約交渉が難航し、結果的にまとまらなかったために起きた可能性が高いと見るべきだろう。
当時、告発の漫画を読んだアイドル部の視聴者から。
「そんなに金もらえるなら牛巻とか社畜してないだろ」
という反応があったけれど、これについても最初から「中の人」にプロの声優を起用する場合と、アマチュアやセミプロを使う場合とでは根本的に契約内容が変わってくるから当たり前の話だということになる。
Vtuberの中でもキズナアイ、ミライアカリ、電脳少女シロのように、最初期のVtuberはおそらくプロの声優として契約していたんだろうと思うけれど。
そうでもしないとあれだけの動画投稿頻度のVtuberをやり続けるのはリスクが高すぎるだろうからね。
第一、まだVtuberそのものが商売になるとはそんなに思われてもいない時代だったから。
けれどそれが一般化した今となってはVtuberが企業がプロ声優をVtuberに起用するメリットもなくなってきた。
結果、Vtuberの中の人の環境もだいぶ変わった、ということがいえると思うんだ。
以上が最近のゲーム部の騒動とアップランドの騒動を踏まえて考えてみた、Vtuberの「魂の人」の待遇問題なんだけれど。いや、これだけ語ってきても。
「そんな中の人の周辺環境や雇用形態なんて大事なことでもないだろう」
と思われたら仕方がない。
ただ、今回の考察で別の視点が見えてきたんだ。
これまで漠然と「人気のあるVtuberは誰か」、「これから活躍するVtuberは誰か」という予測や評価はしていたんだけれど、どんな形にせよ活動を継続するには安定した収入が必要になる。
率直にいえば「中の人がちゃんと稼げていれば活動は継続できる。でも収入が少ないなら先は大変」という非常に現実的な問題が背景にあるわけだからね。
そうすると「Vtuberのあり方」と、「そのVtuberがどう収益を上げているか」という点は案外無視できないと思えてきたんだ。
それを踏まえて次回は今回に続いてVtuberは今後どうなるのかという点をもう少し考えてみたい・・・一度でまとめるにはちょっと長すぎるからね。
ではまた。
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