ショルダーバッグと春
春は、ショルダーバッグを持って歩きたくなる。
外回りをしていると、街の景色が明るくなったのがわかる。道端にはたんぽぽや水仙が咲き、桜が散ったあとの青々した新芽がきらきらと眩しい。日差しも心なしか強くなり、あっという間に新緑の季節を迎える。
そして、街の人の服装が軽やかだ。淡いカラーのトレンチコート、足元には明るいカラーのパンプスやスニーカー。朝晩はまだまだ肌寒いけれど、颯爽と歩く姿はみな格好いい。
先日、街ですれ違った女性のバッグに目が釘づけになった。
一瞬しか見てないけれど、独特のかたちだし、間違いない。
わたしが持っているものと、色違いのショルダーバッグだ。
彼女のそれは大分使い込まれているのか、つやつやと飴色になって、いい味を出していた。少し形が崩れて、でも、ぴかぴかに光ってて。とてもかっこよかった。
自分のバッグはどうだったっけ。
その日の夜。
クロゼットの高いところに置いてある、茶色の箱を引っ張り出した。
ふたを開け巾着の紐を緩めると、ふわっと皮のいいにおい。
わたしのバッグはオレンジ色。
7年前に購入したもの
底の部分は少しくたっとして、丸みを帯びてきたけれど、大きな傷も汚れもなくて、まだまだキレイだ。
荷物の多いわたしにとって、よそ行きお出かけ用のバッグ。きれいめの洋服に合わせると最高にかわいい。
ただ、この頃は出かける機会も少なくなって、ずっとクロゼットの中にしまったままでいる。
真四角の、ころんとしたバッグ。
明るいオレンジ色だったのが、落ち着いた色味に変わってきてる。
シンプルなデザインで、この先もずっと大切にしたいバッグ。
時とともにかたちや色が少しずつ変わるのを、楽しみにしている。
わたしも、同じように少しずつ変わっているのかな。
バッグをじっと見ていると、そろそろ使ってよ、と言われているよう。
よーし、そろそろ出番だね。
春は、ショルダーバッグを持って歩きたくなる。
新調したばかりのワンピースに、お気に入りの薄紫のコートをふわりと羽織って、軽やかに出かけよう。
近所の公園だっていいじゃない。カメラと、本を入れて。