あなたは、許すひと
「あなたは、許す人だと思う」
尊敬する人からもらった最後の手紙に書かれていた。
苦い終わり方をした恋。さよならの際の言葉は、きっと彼なりのメッセージだったのだろう。
わたしの前から去ることを許してもらいたいの?心がすさんでいて、そんなことすら考えていた。意味を彼に問うこともなく、どんな返事を書いたのかも、今はもう思い出せない。
◇
許すってなんだろう。
「ごめんね」と謝った時の、「いいよ」とは違う。
周りのひとの行動や言葉を理解する。
出来事を出来事として捉える。
存在を認める。とか?
あのときのわたしは、まっすぐで素直だったのかな。ただの受け身だったような気もするけれど、無意識に「許す」ことができていたのかな。わかることは、少なくとも彼からはそう思われていたということ。
今の自分はどうだろう。
自分は悪くないと思ったり。
すぐ否定してないかな。
周りの人が羨ましいと思ってる?
いま、心が揺れている。ちょっとしたことでイライラしたり、我慢したり。周囲に気を配る余裕がなくなっている。
そのくせ、自分のことを認めてもらいたいとか、相手にはこうあってほしいと考える。
なんてやっかいなものだろう。日々の出来事や相手の言葉に、心がすぐに反応してしまう。
わたしはまっすぐでも素直でもなく、不満ばかりを抱えている。まわりを許すどころか、許さないひとになっている気がする。
心はやがて顔に現れてくると、どこかで読んだ。近頃、鏡を見なくなったのは、そのせいなのかもしれない。
◇
そのままを理解すること。
ありのままを、受け止めること。
求めないこと。
反応しないこと。
それが今のわたしにとって、大切なこと
「あなたは、許す人だと思う」
忘れていた言葉を、なぜ今になって思い出したのだろう。
もしかしたら、一度立ち止まって考えてごらんと、誰かがぽんと肩をたたいてくれたのかな。
ネモフィラの花言葉は、『私はあなたを許す』
この空色の花のように、そよそよと風に身を任せていたい。
どんな出来事も、そのままを、受けとめるひとになりたい。
広くて、穏やかな心でいたい。
これから先のこと、まわりのこと、あなたのこと、そして自分のことも、許せるようになりたい。
心がとげとげになりそうなときは、やさしく風に揺れる、ネモフィラを思い出そう。
いつかの場所にて