あーん
主人は、何をするにもテキパキしている。とにかく無駄を省く。
のんびりで無駄だらけのわたしとは正反対な性格だ。
出かける時も、主人はさっさと支度をして車に乗る。わたしはいつも慌てて戸締まりをする。
そして、主人はご飯を食べるのも早い。
今朝のこと。メニューは食パン、義母手作りのブルーベリージャム、ミニトマト、野菜スープ、ヨーグルト、そして小ぶりの桃が一個ずつ。桃はまるごと一個、それぞれの皿にのっている。
食事のとき、わたしたちはテーブルに隣り合って座る。ウイルスの影響で、対面での食事をやめたから。慣れてくると、隣り合って食べるのも喫茶店にいるみたいで楽しい。
ふと隣を見ると、わたしが食パンを半分も食べていないうちに、主人はヨーグルトも食べ終え、桃をカットしていた。
・・・えっ、食べるの早くない?
そう言おうとしたが、やめた。
大きい手で、小さな桃を大切そうに持って皮をむいている姿がなんともいえない。むくむくと、いたずら心が湧く。
おりちゃ「桃、切ってくれてありがと(*´ω`*)」
もちろん、それは主人が食べる桃だ。
主人は笑い、カットした桃をフォークに刺して、こちらを向く。
主人「はい、あーーん」
ひと口サイズの桃がわたしの口元へやってくる。いいの・・・?
慌ててパンを飲み込んで、あごを少し上げて口を開けた。
あーんしてくれるの、久しぶりだな。なんて思って、ちょっぴり喜んだのも束の間。
桃は、わたしの口元をゆっくり通り過ぎて、主人の口の中へ。
主人「‥ん!」
こちらを見て、にやっと笑いながら
「おーいしいーー!!」と言った。
やっぱり、そうなるよね。
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