OrgofA『父と暮せば』×演劇家族スイートホーム 『わだちを踏むように』演出家特別対談
2024年夏、北海道札幌市で上演されるOrgofA『父と暮せば』と演劇家族スイートホーム『わだちを踏むように』。両作の演出である鹿目由紀(劇団あおきりみかん)と髙橋正子(演劇家族スイートホーム)の対談の様子をお届けします。
演劇を始めたきっかけ 〜 劇団結成まで
飛世:いろいろなコンテンツがある中で、演劇というものを始めた理由を伺いたいなと思うんですけど。
鹿目:私は元々小説を読んだり書いたりするのが好きな幼少期で、小学生のときも小説を書いて授業中に回して読んでもらって感想を後ろのページに書いてもらうっていう
髙橋:えー!楽しい!なにそれすごい!
鹿目:それが人に感想をもらえるっていう原体験になって、ちょっと面白いなと思い始めた中学生のときに3年生を送る会で台本を初めて書いて、それが結構面白かったから高校の演劇部に興味を持って芝居を観に行ったら、マッドサイエンティストみたいな役の人から薔薇が飛んできて、その薔薇がすぽっと手に入って。やれってことかな?と思って、演劇部に入りました。
飛世:なにその話!
松井:すべらない話です(笑)
飛世:そこからもずっと演劇に携わり続けて?
鹿目:そうですね。高校3年間で辞めて大学はちょっと洒落たサークルに入って謳歌したかったんですけど、勧誘をめっちゃしててしょうがないから観に行ったら訳わかんない芝居やってて、10日間ぐらい悩んでたら学食でそれに出てた人たちを見つけて、あー見つけてしまった!と思って声をかけた結果入りました。
飛世:でも、声を “かけた” んですね。
鹿目:そうですね。沼にはまってしまいました。
飛世:松井さんとの出会いはいつなんですか?
鹿目:松井くんはですね、他の大学の演劇部に入ってたんですよ、違う大学なんです。私が大学4年のときに長編の作品を生まれて初めて戯曲として書いて、それに役者で出て。その演出は別の方だったんですけど。
飛世:鹿目さん役者もやられてたんですね。
松井:最初は役者がメインだよね。
鹿目:そうなんです。で松井くんはそれを観に来てて、そしたらものすごく面白かったみたいで2回観に来て。昼公演と夜公演に来たんですけど、その間に「今見た方がいい」ってめっちゃ電話をかけまくってくれたらしくて。まだ知らない人なんですよ?
飛世:松井さんって感情表現がストレート剛速球じゃないですか。それはその時から?
鹿目:そうなんです。あ、嫌な顔しちゃった(笑)で、そのあと違う演劇部だったはずなんですけどその演劇部辞めて入ってきて。
髙橋:熱烈だ……!
明:違う大学の演劇部に入ったんだ。
松井:そうですそうです。
服部:追いかけてきたんだ。
松井:18歳のときに演劇を始めて、その秋にこれで食っていこうって決めて、プロになるにはどうしたらいいですかって佃典彦さん(劇団B級遊撃隊 主宰)に聞いたんです。その時に「俳優一人じゃ難しいから、面白い演出家か面白い作家を探しなさい」って言われて。その年たぶん108本くらい舞台見てるんですよ、ビデオとかも含めて。その中で一番面白いところに入ろうと思って。でも当時の劇団では自分たちの作品が一番面白いって先輩に言われるからすっかり僕も染まりきってて、他の学生演劇を観たって面白いわけがないと思ってたんですけど、鹿目の所属していた大学の劇団の作品がめちゃくちゃ面白くて。それで僕の所属していた劇団には「やめさせてください、プロになりたいからこの人のところ行きます」って言って。
鹿目:でも入ってくれたはいいんですけど私が4年の時の台本だったので、やりたくて入ったのにやれないと。(注:当時、松井は大学2年生。鹿目は引退してしまいすれ違い状態に。)じゃあ一回くらい記念にやろうかってなってこの劇団を。
髙橋:記念だったんですか!?
鹿目:記念にやって、思い出公演で一回で終わろうって。私は東京に行って先輩と一緒にコントやるつもりだったので。左利きだから「サウスポーズ」っていう(笑)
全員:(笑)
鹿目:そのつもりだったんですけど、旗揚げしちゃった結果そのまま続いて26年。
飛世:それが今も続いてる。すごいことですよ。
髙橋:気づいちゃったんですけど…… 私サウスポー……
服部:そうじゃん!
(髙橋&鹿目、握手)
鹿目:でも左利きにも段階があるので、全部左か部分左か……
髙橋:私、書道も左利きです。
鹿目:お!一緒です!
(髙橋&鹿目、握手)
髙橋:結成!じゃあ次、BLOCHで!(飛世を見る)
飛世:OrgofAではやりません!(笑)演劇やれ!(笑)
飛世:正子さんが演劇始めたきっかけを。
髙橋:ありきたりですけど、学芸会でめちゃくちゃ目立ったのが気持ちよかったのがスタートです。なのでずっと役者をやっていたんですけど、文化祭のときに芝居を1本書けって言われて。いや書けねえよって思ってたんです。そのときちょうど高校3年生で大学の進学も考えてて、奨学金説明会に行きました、奨学金って借金じゃん!って思ったときになんか腹立つなと思って、芝居にしてやろうと思ってしたんですよ。
鹿目:それをね!? おお〜!
髙橋:「奨学金って借金じゃんこんなんありえなくね?」みたいな高校生の気持ちをガッてまとめたら、顧問に「これだよ」って言われて。「奨学金って借金じゃない?」って単純に言葉に表すとそうだね~で終わっちゃうけど、それを芝居にすることで共感できるんだよ!って言われて目から鱗がポロポロポロってなって。楽しい経験できてよかった~高校卒業!楽しい思い出を持って大学はお洒落なサークルに入ろうって(笑)
飛世:同じこと考えてる(笑)
鹿目:あれ?一緒だぞ(笑)
髙橋:って思ってたら、高校のときにずっと演劇関係で仲良かった人に「劇団立ち上げるんだけどさ、ちょっと見学でもいいから来てくれないかな」って言われて行って、気づいたらスッて入ってて、いつの間にか。
服部:それが演劇家族スイートホームってこと?
髙橋:そう
鹿目:面白い~!
髙橋:そのとき役者やってたんですけど、みんな上手くて!私小学生のころからやってるんですよ!?やってらんねえと思って、じゃあ私書いてみますわ……って未だにやらせていただいてます。
鹿目:すごいですね
松井:今度観に行きたいね
脚本家・演出家としての苦労
飛世:2人とも作・演出ですけど、演出しててとか作家やってて悩みってありますか?
鹿目:ありますねそりゃ。どっちかというと私は書く方が好きだったんです。演出は私の時代は特に厳しくてなんぼみたいな時代だったので、なんかちょっと無理して厳しめに振る舞ったり全然怒りたいタイプじゃないのに無駄に怒ったりしなきゃいけないのかなって。私はなるだけ人に嫌われたくない人間だし、やるしかないという気持ちでやってたんですよ。
飛世:無駄に怒ってた時期はあったんですか?
松井:怒るときは先に相談がありました。怒ったほうがいいタイミングがあって、そろそろだと思うんだけど、みたいな。まあ(演出するための)言葉の種類が少なかった、っていうのはありますよね。経験を積んでいって、何かを伝える時にこの角度で通じなければこの角度で、みたいな言葉のベクトルが多くなったから、そういう意味では技術の進歩みたいなものはあります。
鹿目:最初ワンシチュエーションのコメディみたいなものをずっと劇団でやっていて、8年くらい経ってそれが向いてないことに気づき始めたんです。そのときちょうどヨーロッパ企画の上田誠さんと対談する機会があって、私向いてないって気づき始めたんですって言ったら「8年もよく頑張って……」って(笑)
飛世:よくやったって(笑)
鹿目:そのときに作風を結構場が飛ぶものに転換したら、そっちのほうが向いてたんです実は。その結果、作も楽になったしあと演出もだんだん楽になってきて、やっぱりやりたいことを正直にやることが大事というか。今は演出はすごい楽しいです。しんどいときももちろんあるけど、現場で人と向き合うのすごい自分には合ってるかもしれないなって思ったりするんです。だから何年もやってく中で嫌いだったものが楽しくなっていくことってあるんだなっていうのは体験としてありますね。
髙橋:私もめちゃくちゃ同じで、書いてる方が好きだったんですよ。演出はちょっと厳しく言わなきゃいけないとか、絶対的な「揺れません、動きません、私の意志通りにやれ~」みたいな雰囲気が必要なのかなって思ってたんですけど、でも役者からこうじゃないかって言われたら、確かにな~って思っちゃうじゃないですか。それが良くないんだなと「厳しくしなきゃいけない」みたいなフィルターがかかってた時期が同じようにあって、最近それが外せるようになって
鹿目:それが楽ですよね
髙橋:でも気が付くと「この芝居ってこういうことじゃない?」みたいな脚本家故に喋りすぎちゃうときありません?脚本 兼 演出の時って。自分の中に正解を持っちゃってんじゃないかなみたいなときがあって、それを演出として言葉に出すときにいつも悩んでるんですけど。
鹿目:6年ぐらい前に研修で海外に行ったときに演出の現場を見学させてもらったら、いろんな角度から色々伝えたりちゃんと良かったときは良かったと言っていたり、全てが「ダメ出し」じゃなくて「提案」で。イギリスとかではノーツって言うんですよ、ノートの複数形。
飛世:メモあるよみたいなこと?
鹿目:そうそう。だから劇団でも最近ノーツにしますっていう宣言が入って。
松井:ダメ出しって言わなくなったのは良かったですよね。
髙橋:私最近、ほんとに最近なんですけど、稽古してるときにエネルギーあまり過ぎて役者とパチンってしたときがあって、それが終わらなかったんですよ。帰りに地下鉄乗っててなんでパチっちゃったのかなって思ったら、ずっとお互い「じゃないよ」っていう言葉を使ってて、否定であって提案じゃなかったなと思って最近ちょっと“穏やか髙橋正子”を目指して(笑)役者と「じゃない」はやめてみようかって話はしてみてて。でも一個問題があったのが、稽古始まったときに私ちょっと穏やかにいくからって言わずに始めたもんだから、一周回って役者のほとんどの人が怒ってんじゃないかって(笑)
飛世:告知しとかないとね(笑)
髙橋:だからノーツみたいに前置き必要だったんだなって(笑)
地方都市で演劇を続けること
髙橋:なんか、イ゙ッッてなることももちろんあるんですけど、やっぱり分母が違うっていうか、なかなか見てもらえる機会が……どこもそうなんでしょうけどね。あと劇団に入れてくれた人が「東京に勝負しにいく」って言ってくれたときはなんか無性に寂しくて。
でも良いこともあって、「北海道の目」を持っているっていうのはすごく幸せなことだなと思って。歴史とか、うわ〜これ芝居としてなんてドラマチックになるんだろうみたいなお話をたくさん聞けたり、そういう人たちが住んでいるところに居られるのが。
飛世:北海道ってまだ出来てそんなに世代が経ってないので、結構辿れたり近くにまだ残ってるんですよね。だからそういうのがすごく手の届くところに、私たちの生活の中にあるっていうのは北海道ならでは。
髙橋:北海道!っていう独自の歩みがある気がして、それが身近にあるのは素敵なことだな、書きたいなってことがいっぱいあります。
鹿目:私の場合は生まれて18歳までは福島県会津若松市ってところで、そこから大学進学で名古屋に来たっていう経緯があるので、名古屋というのを割と客観的に見れてるところがあるというか。名古屋の人たちが「名古屋はさ~家康も信長も秀吉もいなくなっちゃったからね」みたいなことを割と漂わす時があって、いやでも名古屋ってめっちゃ魅力的じゃない?と思いながら過ごしてたから、このいいところがもっと浸透した方がいいなっていう気持ちもあったし
あと、やりたいことを応援してくれるいい先輩がたくさん居てのびのびやらさせてもらって、それを経験してるから私も続けることでこの地域に還元できることがあるならという気持ちも最初の頃は責任としてありました。例えば私がなにか賞をとったり動員がこれだけいきましたってことがあれば、さらに下の世代が続ける目的をはっきり見いだせるというか。続けられる土壌を作ってあげたいっていう気持ちと、自分たちもそれをちゃんと見せてもっと成長したいみたいな。そしたら今も結構続けてる人がたくさんいて。
飛世:名古屋本当に多いですよね。それは札幌との共通点だなと思って。
鹿目:そうそう。お世話になってる平塚直隆さん(オイスターズ/劇作家・演出家・俳優)とか刈馬カオスくん(刈馬演劇設計社 代表/劇作家・演出家)とか、ほぼ同世代のみんなが一緒に頑張ってるおかげで裾野が広がったっていうのもあって、割とフットワーク軽くどこにでも行くよっていう人たちも結構いるので、「東海地区が真ん中のつもりでいこうぜ!」みたいな雰囲気はちょっとありますね。みんながそう思ってくれているかはわかんないですけど、とりあえず自分はそういう仲間がいるからそう思えています。
札幌演劇シーズン初参加の 演劇家族スイートホーム
飛世:2024年、札幌演劇シーズンがドンと変わる転換期に、演劇家族スイートホームが初参加ということで。
髙橋:ありがとうございます!がんばります!
飛世:札幌演劇シーズンって再演なんです。つまり面白いもの以外は出さないっていう。「面白さお墨付き」っていう太鼓判が押された作品たちが出るってものなんですけど。
松井:すごい企画ですよね。良い企画だとおもいます。
髙橋:参加が決まった時は「えーっ!うちらシーズン出れるの!?」みたいな「うひょーい!」みたいな感じだったんですけど、最近「シーズンだ……」って
松井:プレッシャーがあるんだ
髙橋:前回の冬のときに「演劇シーズンっていうのはお墨付きだから」っていう話を聞いたときに、その時実はもうほぼ決まってたので「あっそうか、私たち札幌からお墨付きをもらってもう一回やるのか」って背筋がめちゃくちゃ伸びて、今その伸びた背筋をどうリラックスさせるかを一生懸命考えてるんですけど。でも私が勝手にプレッシャー感じてるだけというか、役者のみんなは「いいものつくるぞ!」の一点でやってくれているのがむしろ助けてもらっているところはありますね。
松井:演出家は大変だよね。
髙橋:ヒンッてなってたら、役者のみんなが「わかったわかった、やるよやるよ」ってやってくれるので、背筋をほぐしてもらいながら。
松井:いい座組ですね。
鹿目:家族だ。
お互いの作品の見どころ
飛世:『父と暮せば』は対面稽古始まって2日目ですが。
鹿目:もう大丈夫です。出来あがってます。
全員:えーー!!
鹿目:マジでこれからもっとよくなってくだろうし、2組全然違う雰囲気を持っていて、すごく素敵な戯曲だからこそ違いが明確に出てくるんだろうなっていうのがあるので、私はこの作品に皆さんが素敵にいるためのアシストができればと思っていて、それがうまくいけばもう完璧に面白くなっていくと思います。めっちゃおもしろいのでよかったらほんとにどっちも見ていただきたいくらいの感じでございます。
飛世:今日も(明&服部チームの)稽古を見ていたんですけど、真逆のこと言ってて「あれ!?」って。全然違うこと言われてるからこれ参考にならんと思って。
鹿目:そうなんですよ。全然タイプの違う娘で本当に。だから言うことは間違いなく違うし、おとったんはもう
飛世:おとったんなんてもう全然違う!
服部:別作品見てるみたい。私たちがこっち(松井&飛世)チーム見てると。
飛世:それぐらい本当に違う。広告的なことじゃなく違います。
鹿目:嘘偽りなく違うと思います。
飛世:どうですか?『わだちを踏むように』は。
髙橋:こっちも実は一部ダブルキャストなんですよ。
松井:(前のめりで)ダブルキャストなんですか!?
明:すごい食いつく(笑)
髙橋:今回ダブルキャスト初挑戦なんですけど、1つが変わるとなんかこうシミというか波のように全部ちょっとずつ変わっていくというか。同じキャストもいる中で見え方が変わってくるし、オチに向かってくるとお客さんが持って帰る感情の形が微妙に違うんだろうなっていう風に思ったりとかもして、そこは(父と暮せばと)共通点って勝手に思ってて。思いっきり違うってわけじゃないんですけど、同じ言葉を話しているはずなのに持って帰るものが違うっていうのはすごい魅力になるなーって。あとは同世代で家族の芝居を作るんですよ。
松井:それは結構大変そうだ。
髙橋:だから下手したらみんな自分の等身に合ってないものをやることもあって、だからこそ見えてくるものもあれば見えてこなくて壁にぶち当たるってときもあって。例えば自分は等身大だと思ってたけど違うもの持ってたわこの役!みたいな気づきもあったり、100%吸収しながら芝居を作っている感じがあるので、私たちの目ではこう見えてますっていうひとつの「家族」をほんとにつくってるみたいなところがあるので、そこは魅力です。
2024年夏、北海道札幌市で上演される両作品。ぜひお見逃しなく!