アライグマ、お前だったのか……
つい最近のことである。
重度知的障害児である息子が、そりゃあもう派手に癇癪を起こしていた。18時過ぎまで公園で遊んでいた彼は、どうやらお腹が空いたようで、怒りながら「セブンイレブン 行く!!!」と騒いでいる。15時から3時間も公園遊びに付き合い、何度も「帰るよ」と声をかけた私からしたら、ふ・ざ・け・ん・な である。意地でもセブンイレブンには行くもんか。大至急ご飯を作りながら、何度も大きな声を出してしまった。
私が怒鳴っていることが気に入らない息子は、ますます怒り、叫びまくっている。
「もう限界……」
そう思い、私は手を止め、縁側に逃げ出した。息子と同じ部屋にいたら絶対に手を出してしまう自信があったからだ。息子は私が出て行った後も大声で泣きわめいているが、泣きたいのはこっちだ。10分程秋の風に吹かれ、気持ちが落ち着いてきた頃、何かの視線を感じた。暗くてよく見えないが、我が家の庭は野良猫の通り道となっており、猫だろうと思って、スマホのライトを向けた。
……アライグマだ!
そこにいたのは、まごうことなきアライグマだった。こんな住宅街に……アライグマが。
そういえば、今年の5月から種を撒き、庭で大切に育てていたトウモロコシが収穫直前で食い荒らされていたことがあった。肥料をやり、草をむしり、鳥に食べられないようストッキングをかぶせたのに、その上から食べられていたのだ。てっきり野良猫の仕業かと思っていたが、その太り具合……アライグマ、お前だったのか……。
スマホで調べたところ、アライグマは狂暴で、中には狂犬病の病原体を保有している個体もいるのだとか。噛まれなくてよかった。トウモロコシだけで済んで本当によかった。
アライグマは元々ペットとして日本に連れてこられ、無責任に捨てられ、野生化したらしい。酷い話だ。私がアライグマだったら、怒り狂って人間を襲うだろう。無理矢理に故郷から連れ出され、合わない環境に住まわされ、挙句捨てられる。そんなアライグマの生涯に思いを馳せていたら、息子の癇癪が収まった。その後、私は室内に入り、無事に息子と夕飯を食べた。なんてことのない普通の煮込みうどんだった。