「私はつばめ、ペアゴルファーつばめ!」 第2話
映像は変わって。
再び1組目が映ってきました。状況はどう変化しましたか赤井さん?
1打目を打ち終わって難波が前、長崎がうしろ。それぞれ残りは330ヤードと340ヤードくらいか。
今から長崎の打順だな。
13番ホール、パー5の第2打を水守・大空ペアがどう攻略してくるか。
もしこのホールを長崎東西が落とすかイーブンとするようであれば、難波実業のワンサイドゲーム、勝ちが決まります。
この風だ、普通に打っては届かんぞ。届かねば負ける。ここは絶対にふたり打ちが必要な場面だ。ところが彼女らのふたり打ちは跳ね返す障害物が不可欠。
どうするか。さっきみたいにあきらめるのか。それとも。
もしこの13番ホールもまた同スコアとなれば再び両校が0.5ポイントを獲得、合計3ポイントとなる難波実業の勝ち抜けが確定します。
つまり、このホールを長崎東西が奪取できなければ敗退が決まる場面、おそらくこの第2打が勝敗を決するでしょう。
最後になるかもしれないこの一打で、長崎がどのようなショットを見せてくれるのか? 険しい表情で仁王立ちの大空はなにを期するか?
「このまま終わるなんてできない。そうだよね美月ちゃん」
「つばめさん?」
「どうせ負けるんなら無茶をしよう。もうこのホールしかないんだ! 今から打つ、このショットしかない!」
「そう……なのでしょうね。このまま何もせずに敗れるくらいならダメで元々、挑戦した方がいくらかまし」
おっと?
これまでにない新しい配置です。水守が前でボールの位置、大空が10ヤードほど後ろでアドレスに入るもよう。
ん素振りしてるだけじゃないのぅ?
いや、違うな。そのわりに本気のルーティーンだし、今のアイコンタクトには鬼気迫るものがあった。
なにかしら仕掛けるつもりがあるぞ。
「ワイらのボールからでも難しいでここの2オンは。さっきと同じにここも大人しゅう3オンにしときぃや。そいでワイらの勝ちやで」
「ううん、乗せる。乗せて次のホールに望みをつなぐ」
「ほ、それはそれは。お手なみ拝見といこうやないか」
さあアドレスに入ります長崎東西。
「あなたに当てるつもりで打てばいいのね?」
「うん、思いっきり。できれば腰より下にしてくれるとありがたいかな。無理?」
「誰にものを。スネに当てて骨折しないでくださいまし」
「そっちこそ!」
気合いの発声一発、大空がカッパを脱ぎ捨てましたが?
何をするつもりでしょう?
わかるわアタシ。
あんなに薄くて軽くてもカッパは少なからずスイングの邪魔をするものよ。時にはこすれる音すらプレーヤーの気を削いでくる。
ふふ、面白いじゃないの。次はすべてを賭してのぞむつもりよ、あの子たち。
「軌道は必ずブレますから! 調節はそちらでお願いします!」
「オーキードーキー!」
ああん、もうっ!
見てらんない!
なに言ってんだ、見なさいよ上野くん。今日一番のショットはきっとこれだ。
「いきます!」
水守が打つ! ところがシャンク!?
無情にも目の前の木に当ててしまった!
渇いた嫌な音ね。
ここで散る、か。
《赤井の目が光る》
いいや、まだだ!
「どっち!?」
「右! 2時の方向!」
《木に当てたボールが手前に跳ね返ってくる。しかし大空からは逸れている》
大空が? 走って横っとび!?
「当たれええっ! 第1の奥義・改! ビッグフット・オブ・イーグル!」
なんてこと!?
《ボールに飛びつきながら空中でクラブを振りぬく大空》
「をををををををををを行けえええええええええ!!」
勢いそのままに受け身もとらず転がる大空! 身体は大丈夫か!?
「あだだ痛だだだ!」
「あないな球に当てるやて!?」
伏せる水守をギリギリかすめた、ボールは高く高く舞い上がるッ!
たいしたもんだ。あの体勢で当てて、さらに前へ飛ばすか。
「ボッ! ボールは!?」
正確にとらえたか、まっすぐに! 打球は高いもののグングン伸びる!
風はほぼ真横から、にもかかわらず影響されずに飛ぶぞ長崎東西ボール!
《大空のもとへかけつける水守》
「大丈夫ですかつばめさん!?」
《上体を起こしただけの大空は返答せず、ボールを必死に目で追う》
「お願い、乗って! ボクたちの思いを乗せて!」
願いを一身に受けたボールは期待のままに距離が出ているぞ!
やや飛びすぎるか? グリーン左端まで風に曲げられたボールは!?
ギリギリ残るか?
どうか!?
え待って。
やっぱりちょっと大きくない? ダイレクトに落ちたら止まるはずないわよ?
上野さんのおっしゃる通り、乗せたとして止まるか。13番のグリーンは奥が極端に下っているが?
ドスンと落ちるボールは?
これだけやったんだもの、止まってぇいえ!
「ッッッ!!!」
ランは無し!?
ランは無しです! 落ちたままに止まった!
やったじゃない!
そうか、打球が高いから。雨でぬかるんでて!
どうやらグリーンに突き刺さったもようです。それで大ブレーキとなって。
さあ、グリーンの縁ギリギリに落着したらしいボールの判定はどうでしょう。
グリーンカラーより内側であればオンと判定される。カラーの上ならオンならず。
埋まったのがどっちだったのか、だ。
ご、ゴクリ……。
近くに待機していたジャッジが駆け寄ります。
どうでしょう?
旗の色はどうか?
旗の色は!?
かかげた旗は緑ィィィィィィィィィ!
《台風の影響でみごとにはためく判定旗のアップ》
グリーンフラッグが高々と振られます! 出ましたのはセーフの意思表示!
《泥にまみれて埋まったボールのアップ》
オンが認められました! このホールを長崎東西はイーグル!
アタシ信じてた、きっとあの子たちなら奇跡を起こすって。グスッ。
「乗った!? みたい? やった! やりましたねつばめさんっ!」
「あはは、なんとかなるもんだね。自分でも驚いてる」
水守が座ったままの大空におおいかぶさりました。
抱きあって喜びます長崎東西。
まるで優勝したような騒ぎね。気持ちはわかるわ。
うふ。画になる子たちよねえ、ほんと。
まさかの一打でした。崖に当ててはね返す技の応用であったのだろうと思います。この苦しい状況で起死回生の一打が長崎東西に飛び出しました!
続いての難波実業は?
彼らもやはり打ちますねデュアルショットを。その態勢に入るもようです。
「やるやんけ長崎東西も」
「ああ、とんでもねぇモン見せつけてくれよってからに。こっちまで熱うなったわ」
「まだ道をゆずるつもりはあらへんいうこっちゃな。せやろ?」
「はは、まぐれまぐれ」
「ところがや、ちょいと火ぃつくんが遅かったんとちゃうか? ワイらがコレを乗せてもうたら勝負がつくで」
「そんなのわかってる。そっちもやってみせてよ」
「言われんでも。いくで鉄ぅ!」
「ああ。これで終いや」
難波実業にしてみれば当然の判断よね。でもこの一打の重みはとてつもなく大きいものに変わったわよ?
と言いますと?
乗せればとうぜん難波の勝ち。でも外せばキャリーオーバーと合わせて一挙2ポイントを長崎東西が奪取する。
長崎も2.5ポイントになるのよ、つまり同ポイントで並ばれてしまうの。
ターニングポイントになりうる大切な一打になった、というわけですか。
この状況下でも澱みない小川、いつも通り早いルーティーンから打ちました。ウエッジをフルスイング!
おや? 沢村がこれまでよりも先で位置取りを?
「これで少しでも距離を稼ぐんや。届けやあ! サイドォオワインダアアああああ!」
低く打ち出した毒蛇はグリーンに向かってまっすぐ!
「ええど! アホみたいにまっすぐ行ったで!」
「やっぱタイフーンホバークラフトの方がええのんとちゃうかなぁ。クラフトぉぉぉぉぉって叫びやすいもんなぁ」
「永遠に言ってろや、絶対許さへんでそんなダサダサ」
これはいいな、実にいい球筋だ。これも乗るんじゃないだろうか。
まるで吹きやまない風をものともせず、勝利へと向かうボールはグリーンへと!
砲台グリーンのへりに当たってちょうどよいブレーキもかかった!
「届いたんか!? いったやろコレ、いったやろコレェ!」
「もろたでこの勝負!」
「……ッ!」
「ダメ……。まだ、まだ終わらせないで……!」
難波実業の勝利は確実か?
今ジャッジが向かい判定を下します。グリーンはカメラから見えないほど最奥が下がっており、手前からは視認できません。
プロの大会と比べるとカメラの数が少ないものね。
ギャラリーの反応は? あの人たちからも見えないのかしら?
白旗なら徹底抗戦、赤なら——
上野さん嘘情報は!
白旗はありません、白旗はファストペアゴルフには存在しません。
見事オンならば緑、もしもこぼれていた場合は——
赤よ、赤旗ァ!
「よかった。どうにか、首の皮一枚はつながったようですね」
「助かったんだねボクたち。危なかった、もう少しでなにもさせてもらえずに終わるとこだった」
《グリーンカラー上のボールのアップ》
「こぼれてるって、ホンマかぁ? ミトマの1ミリあるんとちゃうんかい。センサー入れぇやセンサー」
「しゃあないて、切りかえてこ。これで試合がフリダシになってもうたが、負けてまではやらへんで」
「せやな。次のホールを獲った方が勝ちやで長崎東西。恨みっこナシや」
「望むところだよ。ボクたちはいつだって挑戦者なんだ」
「ええ、受けて立ちましょう。そして決着を。うしろの組も待っています」
「ゲぇ!」
「おおい、すまんなあ! すぐに行くよってに!」
さあ、13番ホールで試合は大きく動きました!
12番のキャリーオーバーがある状態で長崎東西が13番を奪取したため、水守・大空ペアは一挙2ポイントを獲得。同じ2.5ポイントでならぶ展開となりました!
長崎東西対難波実業の一戦は、双方が王手をかけた状態となって次のホールへと!
ここで一旦CMです。