心理学を学ぶと街中でガキを見るのが楽しくなる
はじめに
みなさまこんにちは。気が付いたらもう12月、もうすぐ今年も終わりますね。この時期はそう、受験シーズンです。
高校三年生ならびにそれに準ずる皆様、もう第一志望は決まりましたか?
遅すぎる気がしますが、もしまだ「とりあえず大学生になりたいだけなんだよな…」「進学はしたいがやりたい学問はないんだよな」という方がいらっしゃったら、私は心理学の学べる学部・学科をお勧めいたします。また詳しくは後述しますが、特に認知・発達関連の分野が学べると良いです。
これは心理学部に行けということではなく、教養学部とかでそういう講義があるところで十分と思っています。というか私自身もそういう文系学部内にポツンとあった心理ゼミの出身で、そこから院進したりもせず卒論を書いて終わっているだけです。ので、この記事もそういう出自の人による大雑把な説明が多いです。一年生向けに二年生がやるゼミ紹介みたいなもんだと思ってください。
心理学を推す理由は、この記事のタイトルにある通りです。ガキを見るのが楽しくなるからです。みなさん子供は好きですか?好きな人、正直苦手な人、子供の性格によるから何とも言えない人、様々だと思います。
どちらかというと苦手寄りな皆さんは子供に対し「何をしでかすか分からない」「なんでそんなことするのか分からない」と思ってませんか?
しかし心理学、とりわけ幼児を対象とすることの多い認知・発達関連の学問を学べばあら不思議。未知の言語を口走る者、公共交通機関で泣く者、街で見かける彼らの行動原理がちょっとわかるだけで最高のエンタメに早変わりします。
進路を考えている方、何らかの学びなおしを検討している方に向け、学部の授業レベルだけでもこんだけ楽しめる学問分野なんだということが伝わったらいいな…と思っております。でもこの楽しみ方してるの今のところ私しかいない。かなしい。
前提;心理学とは(とりわけ学部で何を学べるかについて)
大学で心理学やってましたというと、7割くらいの確率で「えっじゃあ俺が今何考えてるかとか読めるんすかw」と聞かれます。お酒が入ると9割になります。残念ながらそういう学問ではありません。
メンタリスト的なことはまずできません。てかあれはどちらかと言えばマジシャンだし。
超個人的に予想するとメンタリスト的な人も、学部で習うような超基本の心理効果や現象の名前は基礎知識としてさすがに知ってると思います。マジシャンの基本である「ミスディレクション」と呼ばれるやつも、心理学的には「否注意性盲目」とかって名前がついていますし。おそらくそこからマジシャンの技術方面にスキルを振り切った形があれなはずで、とにかく少なくとも普通ああはなりません。むしろ「そうはならんやろ」と思ってます(脳内Daig○がなっとるやろがいとも言ってくる)。
じゃあ心理学者が基本的に何をしているかというと、地道な実験と統計です。アンケート用紙を渡して回答させるのが最も手軽で認知度も高いやり方かと思いますが、実際には部屋を借りたりして大掛かりなドッキリみたいな実験をすることもあるし、道端とかどっかに張り込んで人間観察的なことをすることもあります。
以下のものは私が学生時代に受けた心理学系の授業で見せられた映像です。
こういうことを大まじめにやる学問と思うと、すでにかなり面白くないですか?
そのまま学部での学び方についても記述してみます。母校がたぶん特定されない程度に語ると、日常でありがちな心理状態・現象について、心理学的にはこんな名前がついていて、その名前が付くまでにこんな人がこんな実験をやったよ~というのを聞く感じでした。実験によっては講義中その場で簡単に再現してみたり、取り上げる心理効果・現象によっては、どういう場面でそれが発生するか、具体例を自分で記述するテストがあったりしました。
テスト前日になって部屋の掃除をしたくなる、大きめの地震が起きてもつい目の前のゲームを続けてしまうなどいろんな心理的あるあるがありますが、そのほとんどすべてに学術的な名前がついていて研究されているわけです。もうかなり面白くないですか?
(セルフハンディキャップ・正常性バイアスです)
さて、実験を終えた後はどうなるかですが、取れたデータと一緒にExcelとかRとにらめっこします。これで大体の傾向を割り出し、「〇〇な人は△△がち」というのを出すわけです。地味~。
だってもうそれしかないもん。エスパーにしてくれよ。無理無理。一応脳波を辿ったり肉体にも変化が出てないか見る方法もありますが、こっちはどちらかというと脳科学とか生理学という分野にお任せしています。分野的に近いのでお互いの知識で助け合うことがよくあります。
地味ですが高校~大学生向けの売り文句を言うと、Excelには滅法強くなります。算数数学が苦手だった人も、テストとは違っていつでもメモとか見返し放題なので安心。とにかく「こういう数字を用意してこの関数を突っ込めばアレが出る」ということさえ覚えればギリ生き残れます。
というのが大雑把な心理学とは何か、学問的な研究の流れの解説でした。が、正直私が推したいのはこんなことではない。こんな真面目な研究の手続きそのものに楽しみを見出してるわけでは
嘘、全然楽しかった。すいません。でもそれよりも面白いものがあるんです。
本記事タイトルをもう一度ご覧いただきたい。なんて攻撃的なタイトル。この話をさせてほしい。
私はこのガキを見て楽しむ心理学が一番楽しいと思っています。
認知・発達という分野
心理学とずっと言っておりますが、一口に言っても結構いろんなジャンルがあります。検索すればとりあえず基礎と応用があって…という説明が出てくるとは思いますが、一旦省略します。わかりやすく字面から何をしてるか想像しやすいものだと犯罪心理学などが挙げられるでしょうか。他には社会心理学、教育心理学などいろんな場面に応じたカテゴライズがされています。その中に冒頭で少し出した発達心理学、認知心理学という分野があります。これがクソおもろい。
この分野を大雑把に説明すると「人間が成長する過程で何かしらの壁にぶつかったとき、人は何を考え何を理解していくのか研究しよう!」「人間がこの世にある法則や概念を理解するまでにどんなプロセスがあるのかを調べてみよう!」みたいな感じです。そのため必然的にガキを取り上げることが増えていきます。
ここからは私が在学中に知った研究・論理と、それを知った上で現在どうそれを楽しんでるかをいくつか挙げようと思います。
マシュマロ実験
この分野の中でもかなり有名な実験の中に、マシュマロ実験というものがあります。
これに関してはこのTEDの動画(日本語字幕あるよ!)がたった8分程度で実験内容・結果・趣旨全部言ってくれてるので見て欲しい。
それでも動画再生がめんどい皆様のために簡単に概要を説明いたしますと、まずルールはこんな感じ。
・子供におやつのマシュマロを差し入れる。
・スタッフが「今からちょっと部屋の外に出るから、それまで部屋の中で待っていてほしい。」
「もし自分が戻るまでにマシュマロが残っていたら、もう一個あげる」と伝え、部屋を出る。
・スタッフが不在の15分間の様子を観察する。
するとスタッフが部屋を出たのを見た瞬間口にほおばる子供ばかり。話聞いてた?
この年齢で「今我慢すれば将来の自分がさらなる得をする」ということを理解するのは大分難しいのでしょう、大半の子供が初手で食い荒らします。
とりあえず我慢を試してみようとする子供もいます
机の下に潜ってそこで別のことをして遊んで、視界にマシュマロを入れないようにしようとしているこの子とか、めちゃくちゃ賢い。ある程度の大人ですら「勉強や作業に集中できないならスマホを視界に入らないすぐ取れない場所に置けばいい」って、言われなければ思いつかなかったり実行できない人が多いのに、この子はもう「視界に入れない」という発想にこの年齢で行きつき実行している。すげえよ。
動画内でも説明されていますが、これくらいの子供にとっての15分は大人の2時間に匹敵します。生きてる年数に対する比率が違うからそりゃそうだ。
私だったら、例えばもし「机と椅子と更新を楽しみにしてた漫画の最新刊しかない部屋で2時間読まずに待てたら、さらに次の単行本も先行で読めるよ」と言われても、スマホも何もない場所でじっと待つだけに耐え切れず読みだすと思います。大人は寝るという選択肢を自力で見出せるだろとかいろんなツッコミどころはありますが、とにかく見た目以上に子供には結構ツライものだということが伝ってほしい。
そしてこの実験、趣旨としてはここからが本番で、18歳くらいになった頃に当時の子供たちが今どこで何をしているのか再調査し、あの時マシュマロを食べた子と我慢できた子で差異が発生してないか確認しています。大掛かりすぎ。そして残酷なことに、あの時もう我慢できていた子は有名大学への進学が決まってたりする反面、初手食い荒らし勢は…………ということも判明します。
この実験周辺のことを学習したことで私は、菓子などを巡り親と何かしら交渉している子供を街で見かけるとニチャつくようになりました。
先日は友達とテーマパークに行った際、女の子を抱っこしたお父さんが「ちゃんが自分で歩いてくれるなら、ゴーカート乗ってもいいよ」という交渉をしている現場に遭遇しました。お父さん、もう腕が付かれたのでしょうね。
果たして将来の利益を優先できる子供なのかこの子は。どうなんだ!?ガキ!お前の10〜15年後がここで決まるぞ!と見ていると、
「…ごーかーといらなぁい…」
とのことです。ダメでした。お前も初手食い派だな。お父さんの腕が心配だ。
愛着形成
親子間の信頼関係などの研究でよく出てくる理論に「愛着理論」というものがあります。ボウルビィという1950年代の人が、戦争でお母さんを亡くした子供達の免疫がガンガン下がることに気付いたことで研究が始まり現代でもよく参照されてるスゴイ理論です。
この理論の中に愛着行動、愛着形成、アタッチメントなどと呼ばれる概念があります。これは何かというと、子供が知らないところに来た時に怖がって親にひっついたり、何か嫌なことがあった時に抱っこを要求したりすることです。つまり、かなりざっくりまとめるとメンブレした時に親に頼って回復する行動を指します。
この愛着行動が取れるようになる(=愛着形成ができる)ことはメチャクチャ大事で、子育て系のサイトを覗くと割とどこでも書いてあります。なんでも、「お母さん」という安全基地、リスポン地、帰る場所が用意されているという安心感を得て初めて、ガキは外の世界に何があるか積極的に学ぶことができるようになるそうです。
(お父さんもしくはそれ以外のパターンもあることは重々承知です。ポリコレビームやめてー)
さて、これを知った上で街中のガキを見ましょう。
あっ、見てください。お母さんに叱られているガキがいますね。何度も注意したのにずっと良くない言葉を使っていたみたいです。ガキは頬を膨らまして目に涙を溜めています。
おや、とうとう泣き出しました。めちゃくちゃ不服だったようです。…にも関わらず、そのまま母に抱きつきに行きます。どういうことでしょう?我々大人なら嫌なこと言ってくる人間になんて抱きつきに行きたくはならないはずです。何なら顔も合わせたくない。私ならクソ上司から理不尽に叱られたらワンチャン翌日に有給消費を考える。
これはそういう論文が見つかったわけじゃないのであくまで個人の予想なのですが(調べ方が悪かったかもしれない。知ってる人、教えてください)、愛着形成によるバグだと考えています。
ガキは叱られた!嫌な思いをした!となれば、嫌な思いをしたらやることは一つ!安全基地にリスポンしよう!となるわけです。つまりママに抱っこを要求する。そもそもの嫌な思いをさせてきたのはママなのにそのことはこの段階ですっかり忘れているかもしれないのです。
愛着行動に伴うごく自然な行動のはずではあるのですが、イヤなことしてきた人と安全基地の役割を持ってる人が完全にイコールなのでバグってしまっているわけです。いやメチャクチャオモロいやんけ。
数・足し算の概念の認知
学生時代に調べた過去の実験例の中で自分がめちゃくちゃツボのものがあります。なのでこれに当てはまる明確な街中ガキエピソードがあるわけじゃないんですけどどうしても語りたいので出させてください。
カレンさんという人により、1990年代に人間はいくつから数・足し算を理解するのかについての研究が行われました。以下にその実験の映像を出しますが、日本語字幕のない古い英語の映像なのでスクショを交えて解説させてください。
サムネ怖い。
まず実験の流れを説明します。
・まだ喋れないくらいの赤さんに人形劇を見てもらう。
・スタッフがおうちの中に人形が一つ入れるところを見せる。
・その後、おうちの中が見えないよう目隠しの仕切りをつける。
・仕切りをつけた状態のまま、おうちの中にもう一つ人形を入れたところを見せる。
・このタイミングで仕切りの裏で、赤さんに気づかれないようにこっそりさらにもう一つ人形を追加する。
・人形の配置が終わったタイミングで、目隠しの仕切りを外す。
・そうすると、赤さん視点では1+1で2つ人形が入っていってたはずなのに、なんか多くね!?という状況が生まれる。
・この時赤さんがはっきり「なんか違くね!?」というリアクションをとれば、少なくとも「『1+1=2が成立していないのはおかしい』ということは理解している」という裏付けができる。
というような試みである。要するにドッキリだ。
見てくださいこの顔。最高すぎる。
まだ発語もやっとの年齢なので当然言語化はできない。でも目の前で起きている出来事がなんか思ってたんと違うということははっきり理解している。
この実験を繰り返し、カレンさんは生後6ヶ月くらいにはおよそ理解できているという結論を出したのですが、いやそれどころじゃない。私にとってはそんなことより、この純粋な「初見のリアクション」が嬉しすぎる。
これが罷り通るなら、赤さんや幼児はこの世の森羅万象に初見のリアクションを提供してくれる、オタクにとって最高のコンテンツになるはずです。
これは某所のアドベントカレンダー企画に寄稿する記事なので分かりますが、これを読んでいるあなたはきっとオタクのはずです。自分の好きなコンテンツに対する初見の反応、好きですよね?喉から手が出るほど欲しいですよね。
赤さんを見ましょう。「全部」にそれをやってくれます。
さいごに
いかがだったでしょうか?認知・発達という分野(というか、そこから垣間見えるガキのリアクション)がどれだけ面白いか、伝わったでしょうか。少なくとも私はこういう街中のガキとの出会いを楽しみに電車に乗って毎日通勤しています。そして可能ならあなたにもぜひそうなって欲しい。この視点でガキ観察を楽しんでる人がマジで私しかいないので。
長い長い、学問的なようで全然そんな感じのない記事にお付き合いいただきありがとうございました。
以下は本記事執筆にあたっての動画以外の参考文献です。